相続土地国庫帰属制度が使えない場合:却下・不承認の典型と次の手
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相続土地国庫帰属制度が使えない場合の典型は、建物が残っている、抵当権や賃借権がついている、隣との境界を現地で示せない、放置車両や手入れの要る樹木があるの4つです。このうち建物・地上の物・境界の目印は、費用をかければ直せることが多く、担保や境界の争い、共有者の反対は自分だけでは直しにくい理由です。法務省の実績では、審査が終わった土地の多くは承認されていますが、見込みがないと分かって取り下げた人も一定数います。使えないと分かったら、売却・買取・寄付・相続放棄(期限内のときだけ)を順に比べます。
相続土地国庫帰属制度が使えない場合は何が多い?実績の数字
法務省の速報値(2026年9月30日現在)で、使えなかった理由の内訳を見ると、どこで止まりやすいかが分かります。1件に複数の理由がある場合は重ねて数えています。
| 結果 | 件数 | 主な理由(件数) |
|---|---|---|
| 却下(申請の入口で外れる) | 86 | 添付書類の提出がない37、境界が明らかでない23、通路として使われている22、申請の権限がない11、建物がある4 |
| 不承認(審査で承認されない) | 103 | 地上の工作物・車両・樹木49、追加の整備が要る森林37、国が金銭の負担を負う土地12、災害防止の措置が要る11、使用の妨害8、崖7 |
| 取下げ | 1,162 | 有効活用の見込みが生じた595、却下・不承認の見込みが判明415、その他152 |
| 国に帰属 | 3,231 | — |
注意:申請の総数6,125件には審査中の分が含まれるので、帰属件数をそのまま割った数字は承認率として使えません。
却下でいちばん多いのが「書類を出さなかった」という手続きの理由で、次が境界と通路です。不承認では、地上にある物(車両・樹木・工作物)が半数近くを占めます。建物がある土地での却下は4件でした。建物は取り壊してから申請するのが原則で、法務省のQ&Aでは、建物がある土地は全部が却下になるとされています。
却下になる典型と、申請前にできる手当て
却下は、法律が「申請できない」と決めている土地(2条3項)に当たるときや、申請の権限がないときに出ます(4条1項)。
| 却下の理由 | 典型的な場面 | 申請前にできること |
|---|---|---|
| 建物がある | 親の家・納屋が残っている。未登記でも対象 | 解体して、建物の滅失登記まで済ませる |
| 担保権・使用収益の権利 | 昔の抵当権の登記が残っている、畑を人に貸している、電線のための地役権がある、入会権がある | 完済済みでも登記があれば申請できないので、抵当権は抹消登記をしてから。賃貸借は契約を終わらせる |
| 他人の使用が予定 | 現に通路として使われている、墓地・境内地、現に使われている水路・ため池がある | 今は通路や水路として使われていなければ申請できる。墓地は、分筆して除いた部分だけ申請する例を法務省が示している |
| 境界が明らかでない | 目印がなく、隣の人と認識が違う | 土地家屋調査士に相談し、目印を設置して隣と認識をそろえる |
| 申請の権限がない | 売買で買った土地、共有者の一部だけで申請 | 取得の経緯と共有者を登記簿・戸籍で確かめる |
境界については、確定測量までは求められていません。法務省のQ&Aでは、申請者が認識している境界を現地で示せて、隣の人の認識と食い違わないことが求められ、目印がない境界点には杭などの目印を設置するとされています。仮の目印では足りません。境界の場所が自分で分からないときは、土地家屋調査士に相談するよう案内されています。
不承認になる典型と、手当ての見込み
不承認は、申請はできても「管理や処分に過分の費用や労力がかかる」と判断された土地に出ます(5条1項)。
- 地上の物:放置された車両、壊れたブロック塀、倒れそうな木、竹林。撤去や伐採をすれば解消できる場合が多い一方、費用は自分持ちです。
- 地下の物:法務省のQ&Aは、産業廃棄物や瓦などの建築資材、既存建物の基礎やコンクリート片、使っていない古い水道管・浄化槽・井戸、大きな石を例に挙げています。掘ってみないと分からないこともあり、申請前に分かっているなら申告して相談します。
- 崖:勾配30度以上かつ高さ5m以上の崖で、管理に過分な費用がかかるもの(施行令4条1項)。工事で直すのは現実的でないことが多い理由です。
- 隣との争い:袋地で通行が妨げられている、勝手に使われているなど(施行令4条2項)。話し合いや裁判で解決するまで承認されにくくなります。
- 森林の追加整備:市町村森林整備計画に合わせるために、追加の造林・間伐・保育が要る森林(施行令4条3項3号)。山林で不承認が多い理由で、詳しくは山林は相続土地国庫帰属制度で手放せるかで扱います。
- 金銭の負担が残る土地:土地改良区の賦課金など、国が引き継ぐことになる金銭の負担がある土地(同4号・5号)。法務省のQ&Aでは、賦課金は金額にかかわらず引き取れず、審査が終わる前に金銭債務をなくせば申請できるとされています。
一度却下・不承認になった土地でも、その理由をなくせば再び申請できます(法務省Q&A)。ただし審査手数料はそのつど1筆14,000円かかります。
承認率はどのくらい?「厳しい」と言われる理由
実績から筆者が計算すると、審査を終えて結論が出た3,420件(帰属3,231+却下86+不承認103)のうち、帰属は約94%です。ただし、却下・不承認の見込みが分かって自分から取り下げた415件を不承認の側に足すと、3,835件のうち帰属は約84%になります。
「厳しい」と言われるのは、承認の割合よりも、申請までにかかる手間と費用のためです。建物の解体、境界の目印の設置、車両や樹木の撤去は自己負担で、手数料(1筆14,000円)も戻りません。さらに承認されると負担金を納めます。土地によっては、こうした費用の合計が、売ったり譲ったりするより大きくなります。条件と費用の全体は相続土地国庫帰属制度とは:国に引き取ってもらう条件と費用にまとめています。
- 建物・地上の物が理由 → 解体・撤去の見積もりと負担金の合計を出し、売却・買取の手取りと比べる
- 境界が理由 → 土地家屋調査士に相談。隣の人との話し合いで解ける見込みがあれば再挑戦
- 担保・賃借権・共有者の反対が理由 → 権利関係を整理できるまでは国庫帰属は使えない。持分の売却などを検討
- 崖・災害・森林の整備が理由 → 直すのは費用がかかりすぎることが多い。寄付・隣地への譲渡・買取を比べる
使えないときの次の手:売却・買取・寄付・放棄
国庫帰属が使えないと分かったら、次の順で比べると無駄が少なくなります。
- 隣地の所有者に声をかける:境界の相談で隣の人と話すことが多いので、そのついでに引き取りの意向を聞きます。取下げの理由で最も多い「有効活用の見込みが生じた」には、こうした例が含まれます。
- 不動産会社に仲介で売り出す:売れる見込みがあるかを、地元の不動産会社の査定で確かめます。
- 買取業者に売る:建物や車両が残ったまま、共有持分だけ、境界が未確定のまま、という状態でも買い取る業者があります。価格は会社が再販を前提に別に出すので、仲介の査定額と並べて比べます。
- 自治体などへの寄付:使い道がある土地に限られやすく、受け入れの見込みは相続した土地は自治体に寄付できるかで確かめます。
- 相続放棄:相続の開始があったことを知った時から3か月以内で、ほかの財産もまとめて手放してよい場合に限られます。
業者の買取を使うときは、売主の側にはクーリング・オフがないことを知っておいてください。その場で契約せず、仲介の査定額と比べ、強引な勧誘を受けたら消費者ホットライン188に相談します。断り方は自宅の買取・リースバックの強引な勧誘:断り方と相談先にまとめています。
共有持分だけを売る方法は共有持分の買取業者に売る前に確かめる点、田舎の土地の手放し方の全体は田舎の土地が売れない相続:手放す5つの方法で比べられます。国庫帰属に再挑戦するなら、書類の準備は相続土地国庫帰属制度を自分で申請する手順を見てください。
よくある質問
Q. 古い物置が1つあるだけでも、建物があるとして申請できませんか?
法務省のQ&Aでは、建物かどうかは屋根と壁があって使える状態かで判断するとされ、小さな物置は建物に当たらない場合があるとしています。その場合でも、管理の妨げになる地上の物として不承認の理由になりえます。迷うときは申請前の相談で写真を見せ、撤去が要るかを聞いてください。
Q. 却下や不承認に納得できないときはどうなりますか?
却下・不承認は、権限を委ねられた法務局長などが決定書を交付して通知します(施行規則6条・17条・22条)。理由は決定書で確かめ、直せる理由なら手当てをして申請し直す道があります。処分そのものを争う手続きの代理は弁護士の仕事なので、争うかどうかは弁護士に相談して決めてください。
Q. 共有者の1人が反対していて申請できない土地は、どうすればよいですか?
国庫帰属は共有者全員での申請が条件なので、1人でも加わらなければ使えません。自分の持分だけを売る、共有物の分割を求めるといった別の道を検討することになります。持分の売却は、共有名義の売却の記事と買取業者に売る前の確かめ方の記事で比べられます。
出典・参考にした公的な情報
- 相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律 第2条・第4条・第5条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 同法施行令 第2条・第4条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 相続土地国庫帰属制度の統計(令和8年9月30日現在)(法務省)
- 相続土地国庫帰属制度に関するQ&A(令和7年9月1日現在)(法務省)
- 宅地建物取引業法 第37条の2(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 強引に勧められる住宅のリースバック契約にご注意!(2025年5月21日)(国民生活センター)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。