公正証書遺言の作り方:公証役場への相談から当日の署名までの流れ
公正証書遺言は、公証役場に相談して、公証人が作った案文を確かめ、当日に証人2人の前で内容を述べて電子サインをするという流れで作ります。日本公証人連合会の案内では、手順は「相談・依頼」「財産のメモと書類の提出」「案文の作成と修正」「作成日時の決定」「当日の手続」の5段階です。相談は無料で、士業や銀行を通さず本人や家族が直接公証役場に連絡してもかまいません。この記事では、各段階で何を準備し、当日に何が起きるかを順に示します。
公正証書遺言を作る5つの段階
公正証書遺言は、民法969条で「証人2人以上の立会い」と「遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること」が要件とされ、作成の方法は公証人法に委ねられています。実際の進み方は次のとおりです(日本公証人連合会「2 遺言」Q4)。
- 公証役場に相談・依頼する:電話・メールで連絡するか、予約して訪ねます。近くの公証役場は日本公証人連合会の「公証役場一覧」で探せます。
- 相続内容のメモと必要書類を出す:どの財産を、誰に、どんな割合で渡したいかを書いたメモを、メール・ファックス・郵送か持参で出します。戸籍謄本や不動産の資料もこのときに出します。
- 公証人が案文を作り、修正して確定する:案文はメールなどで届きます。直したい箇所を伝えると、公証人が修正して確定させます。
- 作成の日時を決める:公証役場に行くか、公証人に出張してもらうかを決め、日時を打ち合わせます。事案によっては、最初に作成日を決めることもあります。
- 当日、口述・確認・電子サインをする:証人2人の前で遺言の内容を述べ、読み聞かせか画面の閲覧で内容を確かめ、電子サインをします。最後に公証人が電子署名して完成です。
- 相談(無料)→ メモと書類の提出 → 案文の確認と修正 → 日時の決定 → 当日の口述と電子サイン → 正本・謄本の交付
- 本人がすること:財産と渡す相手を決める/書類を集める/案文を読む/当日に内容を述べる
- 公証人がすること:案文の作成/遺言能力と真意の確認/原本の作成と保存
相談と案文づくりで準備すること
最初の相談の前に、財産の一覧と「誰に何を渡したいか」を紙に書いておくと、打ち合わせが早く進みます。メモは清書でなくてかまいません。次の項目を書き出しておくと、公証人が案文を作りやすくなります。
- 財産の一覧(不動産の所在、預金の金融機関と支店、株式や投資信託、自動車など)
- それぞれを誰に渡すか(相続人か、相続人以外の人か、団体か)
- 受け取る人が先に亡くなったときに、代わりに誰に渡すか(予備的な遺言)
- 遺言の内容を実現する遺言執行者を誰にするか
- 家族に伝えたい気持ち(付言として書くかどうか)
予備的な遺言は、主な遺言と同じ公正証書に書けば手数料は増えないと日本公証人連合会は説明しています。後から別の公正証書で足すと、その分の手数料がかかります。だから、最初の相談のときに「先に亡くなった場合」まで考えておくと無駄がありません。
書類の詳しい一覧と取り寄せ先は、公正証書遺言の必要書類:本人・相続人・財産ごとに用意するもので表にしています。手数料は財産の額と受け取る人の数で決まるので、案文の段階で公証役場から見積もりの説明を受けられます。計算の方法は公正証書遺言の費用:公証人手数料の計算と専門家に頼む場合の総額で例を示しています。
内容をどう組み立てるか迷うときも、公証人が相談に応じます。ただし、相続人どうしの争いが予想される、遺留分をどう扱うかで方針が決まらない、といった場面で個別の法的な見通しを聞きたいなら、弁護士の仕事になります(弁護士法72条)。どこに何を相談するかは遺言書の作成の相談先:公証役場・司法書士・弁護士・信託銀行の違いで比べています。
証人2人の手配と当日の流れ
民法974条により、未成年者、推定相続人と受遺者(財産をもらう人)、これらの配偶者と直系血族、公証人の配偶者・四親等内の親族・書記・使用人は証人になれません。つまり、財産をもらう家族は証人になれないので、友人や専門家に頼むか、公証役場に紹介してもらいます。自分で手配するときは、証人予定者の氏名・住所・生年月日が分かるメモか運転免許証のコピーなどを先に出します。誰に頼めるかの詳しい整理は公正証書遺言の証人は誰に頼む?なれない人と公証役場の紹介にまとめました。
当日の流れは次のとおりです(日本公証人連合会「2 遺言」Q4)。
| 場面 | 起きること | 本人の準備 |
|---|---|---|
| 入室 | 利害関係人は席を外す運用。本人・証人2人・公証人で進める | 家族には待合で待ってもらう |
| 本人確認 | 印鑑登録証明書か顔写真付きの身分証明書で確かめる | 案文の段階で出した書類と同じものを持参 |
| 口述 | 本人が証人2人の前で、遺言の内容を改めて口頭で告げる | 「誰に何を渡すか」を自分の言葉で言えるようにしておく |
| 確認 | 公証人が原本を読み聞かせるか画面で見せ、誤りがないか確かめる | 誤りがあればその場で直してもらえる |
| 電子サイン | 本人と証人2人がタッチペンで電子サインし、公証人が電子署名 | 署名ができないときは公証人が代わる措置をとる |
公証人は、内容が「判断能力を有する遺言者の真意」であることを確かめてから原本を作ると案内されています。民法963条は、遺言をする時に遺言の能力が必要だと定めています。ここで本人が内容を説明できないと、作成が見送られることもありえます。体調に不安があるなら、早めの日程を組んでおくのが現実的です。
口がきけない人は通訳や筆談で、耳が聞こえない人は通訳か閲覧で、内容を伝え・確かめることができます(民法969条の2)。病気などで電子サインができない場合でも、公証人がその旨を記録または記載して作成できると日本公証人連合会は案内しています。
2025年10月からの電子化と、出張・ウェブ会議
公証人法の改正で、2025年10月1日以後に法務大臣が指定する公証人が作る公正証書は、原則として電子データ(PDF)で作られるようになりました。紙に署名押印する代わりに、パソコン上でタッチペンを使って電子サインをします。日本公証人連合会は「筆記用具が変わる程度の変化」と説明しています。電子で作った原本は、日本公証人連合会が運営するシステムで保存されます。成年被後見人の遺言など、法律上書面が前提のものは紙で作ります。
公証役場に行けない人のための方法は2つあります。
- 公証人の出張:自宅・病院・老人ホーム・介護施設などに公証人が来て作ります。公証人は原則として役場で職務を行い(公証人法18条)、職務の区域は所属する法務局・地方法務局の管轄区域です(同17条)。遺言者がいる場所の地域の公証役場に相談します。
- ウェブ会議(リモート方式):本人の申出、他の嘱託人の異議がないこと、公証人が相当と認めることの3つがそろえば使えます。ただし遺言のように本人の意思の確認が重要なものは「慎重に判断される」とされています。パソコン、カメラ・マイク、タッチ入力ができる画面かペンタブレットが必要で、スマートフォンやタブレットは使えません。
完成後、原本は公証役場側に残り、本人には正本と謄本に当たるもの(電子データか書面)が交付されます。公正証書遺言は家庭裁判所の検認が要らない(民法1004条2項)ので、相続が始まったら、この正本か謄本を使って預金や不動産の名義変更に進めます。
遺言を作った後の家族側の動きも、いまのうちに決めておくと安心です。たとえば、遺言執行者に指定した人に正本の保管場所を伝える、銀行や法務局での手続きを自分たちで進めるか専門の代行に頼むかを話しておく、といった準備です。代行を選ぶときは、登記の申請は司法書士、相続税の申告は税理士の仕事なので、提携する資格者が誰かを確かめてください。
作った後に内容を変えたいとき
遺言は、遺言の方式に従っていつでも撤回でき(民法1022条)、前の遺言と抵触する部分は後の遺言で撤回したものとみなされます(同1023条)。財産が大きく変わった、受け取る人が亡くなった、といったときは作り直しを考えます。書き換えの手順と手数料は公正証書遺言の書き換え:撤回・新しい遺言の作り方と費用の目安で扱います。
自筆証書遺言や法務局の保管制度と比べてから決めたい人は、自筆証書遺言と公正証書遺言の違い:費用・検認・2026年改正の比較表を先に読んでください。2026年6月に成立した民法改正では、遺言の証人になれない人の範囲が広がる予定ですが、施行日は政令で決まる予定で、2026年10月23日時点では施行前です。
よくある質問
Q. 公正証書遺言は、家族が代わりに公証役場へ行って作れますか?
当日の口述は遺言者本人が公証人と証人の前で行う決まりで(民法969条)、家族が代わりに述べて作ることはできません。ただし準備の段階では、遺言者やその親族が公証役場に電話やメールで相談したり、士業者や銀行を通したりすることに差し支えはないと日本公証人連合会が案内しています。資料を持って行く、案文の連絡を取り次ぐといった下準備は家族が手伝えますが、内容は本人の考えにそって決めます。
Q. 公正証書遺言を作ったら、手元には何が残りますか?
原本は公証役場(電子で作った原本は日本公証人連合会のシステム)に保存され、遺言者には正本と謄本に当たるものが電子データか書面で交付されます。日本公証人連合会は、作成時に正本1通と謄本1通の交付を受けるのが通常だと案内しています。保管場所を家族に伝えておくと、相続のときに探す手間が減ります。
Q. 入院中でも公正証書遺言は作れますか?
公証人が病院や自宅、介護施設に出張して作ることができます。公証人の職務の区域は所属する法務局・地方法務局の管轄区域(公証人法17条)なので、遺言者がいる場所を受け持つ公証役場に相談します。出張では日当と交通費がかかり、病床で作ると手数料が加算されることがあります。
出典・参考にした公的な情報
- 民法 第961条・第963条・第969条・第969条の2・第974条・第1004条・第1022条・第1023条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 弁護士法 第72条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 公証人法 第17条・第18条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 2 遺言(公正証書遺言の作成・手順・証人・手数料)(日本公証人連合会)(日本公証人連合会)
- 1 公正証書(公正証書のデジタル化・リモート方式)(日本公証人連合会)(日本公証人連合会)
- 11 必要書類(遺言公正証書の資料)(日本公証人連合会)(日本公証人連合会)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。