遺言書の作成の相談先:公証役場・司法書士・弁護士・信託銀行の違い
この記事のもくじ
遺言書の作成の相談先は、何を頼みたいかで選びます。無料で方式と内容の相談から始めたいなら公証役場、原案づくりや必要書類の取り寄せまで任せたいなら司法書士や行政書士、相続人どうしの争いが予想されるなら弁護士、保管から亡くなった後の手続き(遺言執行)まで一括で頼みたいなら信託銀行が候補です。公正証書遺言を作るなら、どこを通しても最後に遺言を作るのは公証人で、専門家に頼むのは「その前の準備」と「その後の手続き」の部分です。この記事では、4つの相談先の役割と費用の調べ方、選ぶ順番を示します。
相談先の比較:役割・費用・向いている人
| 相談先 | 頼めること | 費用の決まり方 | 向いている人 |
|---|---|---|---|
| 公証役場(公証人) | 公正証書遺言の相談・作成。証人の紹介。病院や自宅への出張 | 相談は無料。作成は公証人手数料令で決まる手数料 | 内容がおおむね決まっていて、公正証書で作りたい人 |
| 司法書士 | 原案づくり、戸籍・登記事項証明書の取り寄せ、公証役場とのやり取り、証人、不動産の相続登記まで見据えた設計 | 事務所ごとの報酬(公的な料金表はない) | 不動産があり、亡くなった後の相続登記まで同じ事務所に頼みたい人 |
| 行政書士 | 遺言書の原案づくりと作成の支援、戸籍の取り寄せ | 事務所ごとの報酬(事務所に掲示する義務がある) | 争いのない内容で、書類づくりを手伝ってほしい人 |
| 弁護士 | 争いを見込んだ内容の設計、遺留分への備え、遺言執行 | 事務所ごとの報酬基準 | 先妻の子がいる、特定の子に多く残すなど、もめる心配がある人 |
| 信託銀行 | 遺言作成の相談、遺言執行の引受けなど(商品名「遺言信託」など。範囲は銀行ごとに違う) | 銀行ごとの手数料表(作成時・その後・執行時) | 財産が多く、手続きを金融機関にまとめて任せたい人 |
この表のどこから始めても、公正証書遺言の手数料は公証人に払う別の費用として残ります。手数料の計算は公正証書遺言の費用:公証人手数料の計算と専門家に頼む場合の総額で確かめられます。
公証役場:無料で相談でき、直接頼んでもよい
日本公証人連合会は、公正証書遺言は士業や銀行を通さず、本人や家族が公証役場に直接電話・メール・来所して相談・依頼してもよく、実際にそうした例も少なくないと案内しています。相談はすべて無料です。公証人は、法務大臣が任命する実質的な公務員で、法律上の守秘義務があります。
公証役場に直接頼む場合の流れと、自分で用意するものは次のとおりです。
- 近くの公証役場に電話し、遺言の相談の予約をとる。
- 誰に何を残すかのメモを作る(財産の種類・おおよその額・受け取る人)。
- 印鑑登録証明書(または顔写真付きの身分証)、相続人との続柄が分かる戸籍謄本、不動産の登記事項証明書と固定資産の評価証明書、通帳の写しをそろえる。
- 証人2人を自分で頼むか、公証役場に紹介を頼む。推定相続人や受遺者、その配偶者・直系血族などは証人になれません(民法974条)。証人に謝礼が要るかどうかは、紹介を頼むときに先に確かめます。
公証人は遺言の内容の相談にも応じますが、依頼者の側に立って交渉したり、相続人の間の争いを調整したりする立場ではありません。財産の分け方そのものに迷っている、家族の対立が心配、という場合は、次に見る専門家への相談を先にします。
司法書士・行政書士:原案づくりと書類集めを任せる
司法書士は登記の専門家で、遺言に不動産が入る場合、亡くなった後の相続登記まで見据えて、登記事項証明書どおりに不動産を書く原案を作れる点が強みです。司法書士の報酬は事務所ごとに自由に決められ、公的な料金表はありません。報酬の目安と、公証人手数料などの実費との分け方は公正証書遺言の費用で扱っているので、ここでは「どの仕事をどこまで頼めるか」を見ます。見積もりを取るときは、原案づくり・公証役場への同行・立会証人が報酬に含まれるかを、事務所ごとに項目で確かめます。
自筆証書遺言を自分で書き、内容と方式の確認だけを頼みたい場合は、引き受けるかどうかと報酬が事務所で分かれます。問い合わせでは次の点を聞きます。
文例(司法書士事務所への問い合わせ):「自筆証書遺言を自分で書く予定です。財産は自宅の土地・建物と預金2口座、相続人は妻と子2人です。原案の確認だけをお願いできるか、法務局に預ける様式への確認も含められるか、報酬の基準を教えていただけますか。」
行政書士は、権利義務や事実証明に関する書類の作成を業として行えます(行政書士法1条の3)。争いのない遺言の原案づくりや戸籍の取り寄せを頼めますが、登記の申請や相続税の申告、相続人どうしの紛争は扱えません。司法書士への頼み方と費用の内訳は相続の司法書士費用:報酬と実費の内訳と見積もりの確かめ方に、行政書士は相続で行政書士に頼めること:遺産分割協議書と戸籍収集の範囲と限界にまとめています。
弁護士・信託銀行:争いの火種がある・執行まで任せたい
弁護士を先に選ぶべきなのは、遺言の内容そのものが争いを呼びそうな場合です。たとえば、特定の子に多く残す、相続人でない人に遺贈する、先妻の子と後妻がいる、家業の資産を後継ぎに集める、といった場面では、遺留分を請求された場合の備え(どの財産から払うか、生命保険の使い方など)まで考えた設計が要ります。亡くなった後に相続人どうしの交渉や調停が起きたとき、報酬を得て代理するのは、原則として弁護士の仕事です(弁護士法72条)。報酬は事務所ごとに定めているので、依頼の前に報酬基準と見積もりを見せてもらいます。仕組みは相続の弁護士費用:着手金・報酬金のしくみと経済的利益の考え方で扱います。
信託銀行は、「遺言信託」などの名前で、遺言作成の相談から亡くなった後の遺言執行までをまとめて扱うサービスを用意しています。内閣総理大臣の認可を受けた金融機関が営める業務として、兼営法1条1項4号に「財産に関する遺言の執行」が挙がっています。銀行の商品名の「遺言信託」は、信託法3条2号の「遺言で信託を設定する方法」とは別のものなので、名前で混同しないようにします。費用は銀行ごとの手数料表で、次の3つの時点に分けて確かめます。
- 作成時:相談・原案づくりの手数料(公証人手数料は別)
- 作成後:遺言書の保管や見直しに毎年・その都度かかる費用があるか
- 執行時:遺言執行の報酬の決まり方と最低額、登記や税務申告を提携の士業に頼む場合の別料金
遺言執行は財産に関する手続きが中心になるため、子の認知や相続人の廃除のような身分に関する事項の執行を含めたいときは、引き受けの範囲を確かめます。銀行の遺産整理業務の費用の決まり方は遺産整理業務とは:信託銀行の費用の決まり方と士業に頼む場合の違いで比べています。
選ぶ順番:迷ったときの3ステップ
- 争いの火種があるかを書き出す。 相続人の中に疎遠な人・前の配偶者との子がいる、特定の人に多く残す、相続人以外に残す。1つでも当てはまれば、弁護士への相談を先にします。
- 財産に不動産があるか。 あれば、相続登記まで見据えて司法書士に原案づくりを頼むか、公証役場に直接相談します。
- 自分で手続きを進める家族がいるか。 遺言執行者を任せられる家族がいなければ、専門家や信託銀行を遺言執行者に指定する方法があります(民法1006条)。
相談の前には、財産の一覧、家族の一覧、誰に何を残すかの案の3つを紙にしておくと、どの相談先でも話が早く進みます。遺言の方式の選び方に戻るときは遺言書の種類と書き方:自筆証書・公正証書・法務局保管の選び方を、相続全体でどの専門家に何を頼むかは相続手続きの専門家の違い:弁護士・司法書士・税理士・行政書士の頼み分けを参考にしてください。法的な効力のない希望や連絡先をどう残すかは遺言書とエンディングノートの違い:法的な効力と書き分け方で扱います。
よくある質問
Q. 公証役場に相談に行くと、その場で遺言を作ることになりますか?
なりません。日本公証人連合会の案内では、相談はすべて無料で、誰に何を残すかのメモと資料を出すと、公証人が案を作り、修正を経て確定してから作成の日を決める流れです。相談だけで終えて、自筆証書遺言にすることもできます。
Q. 自筆証書遺言の書き方を司法書士にチェックしてもらえますか?
自筆証書遺言の原案づくりや見直しを引き受ける司法書士事務所はあります。扱うかどうかと報酬は事務所ごとに違うので、最初の問い合わせで「自筆証書遺言の原案の確認だけ」を頼めるか、報酬の基準を聞きます。法務局に預ける予定なら、法務局の様式に合わせた確認まで頼めるかも尋ねます。
Q. 遺言執行者を専門家に頼むと費用はいつ払いますか?
遺言執行者の報酬は、遺言で定めていればそれに従い、定めがなければ家庭裁判所が定めることができます(民法1018条)。亡くなった後の執行に対する報酬なので、作成時の費用とは分けて考えます。信託銀行や専門家に頼む場合は、作成時・保管中・執行時のそれぞれの費用を手数料表や見積書で確かめます。
出典・参考にした公的な情報
- 公証事務「遺言」(相談は無料・作成の手順・証人の紹介)(日本公証人連合会)
- 公証人手数料令 第9条・第19条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 司法書士の報酬(報酬アンケート 2024年3月実施)(日本司法書士会連合会)
- 司法書士総合相談センター(日本司法書士会連合会)
- 弁護士法 第72条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 行政書士法 第1条の3・第10条の2(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 金融機関の信託業務の兼営等に関する法律 第1条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 民法 第974条・第1006条・第1018条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 自筆証書遺言書保管制度 制度の概要(法務省)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。