公正証書遺言の書き換え:撤回・新しい遺言の作り方と費用の目安
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公正証書遺言の書き換えは、手元の遺言に手を加えるのではなく、新しい遺言を作ることで行います。民法は、遺言者はいつでも遺言の方式に従って遺言の全部または一部を撤回でき(1022条)、前の遺言と後の遺言が食い違う部分は、後の遺言で撤回したものとみなすと定めています(1023条)。新しい遺言は自筆証書でも作れますが、費用・検認・見つけてもらえるかを比べて方式を選びます。公証役場で作り直す費用は、財産の額と受け取る人の数で決まります。
公正証書遺言の書き換えは「新しい遺言で前の遺言を撤回する」仕組み
公正証書遺言の原本は公証役場に保管され、遺言者の手元にあるのは正本や謄本です。そのため、手元の書面に線を引いたり書き足したりしても、原本の内容は変わりません。日本公証人連合会も、撤回や変更は新たな遺言の形式で行う必要があり、自筆証書か公正証書かの種類は問わないと案内しています。
書き換えの形は、目的に応じて3つに分かれます。
| やりたいこと | 方法 | 前の遺言はどうなるか |
|---|---|---|
| 内容を全部作り直す | 新しい遺言の冒頭で「前の遺言を全部撤回する」と書き、全体を書き直す | 全部が撤回される(1022条) |
| 一部の財産・受け取る人だけ変える | 変えたい部分だけを書いた新しい遺言を作る | 食い違う部分だけ撤回とみなされ、残りは生きる(1023条) |
| 遺言をなかったことにする | 撤回だけを内容とする遺言を作る(公正証書なら「遺言の取消し」の公正証書) | 全部が撤回され、法定相続分や遺産分割協議で分けることになる |
一部だけ変える方法は手軽に見えますが、相続が始まった後に2通を突き合わせて「どこが生きているか」を読み解く必要が出ます。財産の書き方が前の遺言と少しずれているだけで、相続人の間で解釈が分かれることもあります。変える箇所が多いときや、家族構成が変わったときは、全部を撤回して1通にまとめるほうが、残された人が読みやすくなります。
なお、撤回する権利は放棄できません(1026条)。「この遺言は二度と変えない」と書いても、遺言者はあとから書き換えられます。
新しい遺言は自筆証書でもよい:方式を選ぶ判断材料
公正証書遺言を、自筆証書遺言で撤回・変更することもできます。方式の種類を限る規定はありません。ただし、どちらで作るかによって、相続が始まった後の手間と危うさが変わります。
| 比べる点 | 自筆証書(手元で保管) | 自筆証書(法務局で保管) | 公正証書 |
|---|---|---|---|
| 作る費用 | 紙代程度 | 保管の申請3,900円 | 公証人手数料(次の章) |
| 方式の決まり | 全文・日付・氏名を自書し押印(968条1項) | 同じ。加えてA4・余白・片面のみなどの様式 | 証人2人の立会いで公証人が作成 |
| 相続後の検認 | 家庭裁判所の検認が要る | 不要 | 不要 |
| 見つけてもらえるか | 家族が見つけられないおそれ | 相続人が法務局で調べられる | 相続人が公証役場で検索できる |
いちばん気をつけたいのは、後から書いた遺言が見つからないことです。相続人が公証役場の検索で前の公正証書遺言だけを見つけ、手元に保管された新しい自筆証書遺言に気づかなければ、撤回されたはずの内容で手続きが進みかねません。自筆証書で書き換えるなら、法務局の保管制度を使うか、置き場所を信頼できる人に伝えておきます。
また、2026年6月に成立した民法改正で自筆証書遺言の押印は任意になる予定ですが、施行は政令で決まる日で、2026年10月時点ではまだ施行されていません。**いま自筆証書で書き換えるなら、押印まで済ませます。**改正の中身と時期は遺言書の押印不要はいつから?2026年の民法改正の中身と施行時期で、方式ごとの違いは自筆証書遺言と公正証書遺言の違いの比較表で整理しています。
公証役場で新しい公正証書遺言を作る手順
公正証書で作り直す流れは、初めて作るときとほぼ同じです。違うのは、前の遺言のどこを変えるかを最初に整理しておく点です。
- 前の遺言の謄本を読み直す。 財産・受け取る人・遺言執行者・付言(家族への言葉)の欄ごとに、残すか変えるかを書き出します。
- 変える理由を確かめる。 財産の増減、受け取る予定の人の死亡、家族関係の変化など。予備的な定め(受け取る人が先に亡くなったときの次の受け取り手)を足すかも考えます。
- 公証役場に予約して相談する。 日本公証人連合会によると相談はすべて無料で、士業や銀行を通さず直接依頼できます。
- 必要書類を集める。 本人確認の書類、戸籍、財産の資料などです。項目は公正証書遺言の必要書類のチェックリストにまとめています。
- 証人2人を決める。 未成年者、推定相続人・受遺者とその配偶者・直系血族などはなれません(974条)。頼める人がいなければ公証役場で紹介を受けられます。詳しくは公正証書遺言の証人は誰に頼むかへ。
- 作成の当日。 文案を公証人と確かめ、証人の立会いのもとで作成します。新しい遺言の正本・謄本を受け取ります。
書き換えは、遺言をするときに遺言能力があることが前提です(963条)。病気や認知症の進み方が心配なときは、早めに公証役場へ相談の予約を入れます。体調の都合で公証役場に行けない場合は、公証人に出張してもらう方法もあります(費用は次の章)。
書き換えの費用:2025年10月からの公証人手数料と計算例
公正証書遺言の手数料は公証人手数料令で決まり、2025年10月1日以後の嘱託から新しい額になりました。それより前の額を載せた情報が残っているので、作り直しの見積もりは次の表で考えます。
| 目的の価額(受け取る人ごと) | 手数料 |
|---|---|
| 50万円以下 | 3,000円 |
| 50万円超〜100万円以下 | 5,000円 |
| 100万円超〜200万円以下 | 7,000円 |
| 200万円超〜500万円以下 | 13,000円 |
| 500万円を超え1,000万円まで | 20,000円 |
| 1,000万円を超え3,000万円まで | 26,000円 |
| 3,000万円を超え5,000万円まで | 33,000円 |
| 5,000万円を超え1億円まで | 49,000円 |
| 遺言加算(全体が1億円以下のとき) | 13,000円 |
| 遺言の取消し(撤回だけ)の公正証書 | 13,000円 |
日本公証人連合会の案内では、手数料は財産を受け取る人ごとに計算して合計します。筆者の計算例として、妻に3,000万円、子に1,000万円を相続させる内容に書き換える場合を考えます。
- 妻の分:3,000万円は「1,000万円超〜3,000万円以下」で26,000円
- 子の分:1,000万円は「500万円超〜1,000万円以下」で20,000円
- 遺言加算:全体4,000万円で1億円以下なので13,000円
- 合計:26,000円+20,000円+13,000円=59,000円(検算:59,000円)
これに加えて、公正証書の原本が横書きで3枚(縦書きは4枚)を超えると超える1枚ごとに300円(手数料令25条)、正本・謄本の交付に書面1枚300円(電子データなら1通2,500円。同令40条・40条の2)がかかります。病床で作るときは遺言加算の前の額に5割が加算され、出張の日当(1日2万円、4時間以内1万円)と交通費が別に要ります。証人を紹介してもらった場合の謝礼や、司法書士・弁護士に文案づくりを頼んだ場合の報酬は公証人手数料とは別で、依頼先の料金表で確かめます。専門家に頼んだ場合の総額の考え方は公正証書遺言の費用:公証人手数料の計算と専門家に頼む場合の総額にまとめています。
書き換える前に確かめておきたいこと
最後に、書き換えの前に見落としやすい点を並べます。
- 前の遺言で指定した遺言執行者を、新しい遺言でも続けるか、変えるか
- 前の遺言の財産の書き方(不動産の所在・地番、口座)と、新しい遺言の書き方がずれていないか
- 一部だけ変える場合、2通を並べて読んだときに矛盾がないか
- 前の遺言で渡すと決めた財産を、その後に売ったり贈与したりしていないか(遺言のあとにした売却・贈与などと食い違う部分は、撤回したものとみなされる。民法1023条2項)
- 特定の人に多く残す内容にするなら、他の相続人の遺留分に配慮したか(遺言書があっても遺留分は請求されるか)
- 新しい遺言の存在を、執行者や家族の誰かが知っているか
書き換えた遺言が、相続のときにどう見つかり、どう使われるかは公正証書遺言は死亡したらどうする?検索システムと写しの請求方法で説明しています。遺言を受け取る側が最初に何をするかは、遺言書の開け方:見つけたら開封前に確かめることと検認の流れへ進んでください。
よくある質問
Q. 公正証書遺言を作った公証役場とは別の公証役場で書き換えられますか?
書き換えは前の遺言を修正する手続ではなく、新しい遺言を一から作る手続です。日本公証人連合会は、予約を取って公証役場を訪れ、公証人に直接相談や作成の依頼をしてよいと案内していて、依頼先を前の遺言を作った公証役場に限る説明はありません。別の公証役場に頼みたいときは、予約の電話でその旨を伝え、前の遺言の謄本を持っていくと、どこを変えるのかを公証人と確かめやすくなります。
Q. 手元の公正証書遺言の正本を破れば、遺言はなくなりますか?
公正証書遺言の原本は公証役場に保管されており、手元にあるのは正本や謄本です。日本公証人連合会は、撤回や変更は新たな遺言の形式で行う必要があると案内しています。意思をはっきり残すには、新しい遺言の中で前の遺言を撤回する旨を書く方法をとります。
Q. 書き換えた後、前の遺言の内容に戻したくなったらどうしますか?
撤回した遺言は、撤回した遺言をさらに撤回しても、原則として効力を回復しないと民法1025条に定められています(錯誤・詐欺・強迫による撤回は例外)。前の内容に戻したいときは、その内容で改めて新しい遺言を作ります。
出典・参考にした公的な情報
- 民法 第963条・第967条・第968条・第974条・第1022条〜第1026条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 公証人手数料令 第9条・第19条・第25条・第32条・第40条・第40条の2・第43条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 遺言(日本公証人連合会)(日本公証人連合会)
- 自筆証書遺言書保管制度 手数料(法務省)(法務省)
- 自筆証書遺言書保管制度 遺言書の様式等(法務省)(法務省)
- 民法等の一部を改正する法律(成年後見及び遺言の制度の見直し)について(法務省)(法務省)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。