生前贈与と贈与税 / Q&A

親が認知症になったら暦年贈与はできない?意思能力と代わりの方法

この記事のもくじ
  1. 認知症の親の暦年贈与:段階ごとの分かれ目
  2. 意思能力がない時の贈与はどうなるか
  3. 成年後見人がついたら、贈与は原則としてできない
  4. 代わりの方法:家族信託・任意後見・遺言を判断できるうちに

親が認知症になっても、その贈与の時に、親が「何を・誰に・いくらあげるか」を理解して決められる状態なら、贈与はできます。贈与は親子の契約で(民法549条)、意思表示をした時に意思能力がなければその契約は無効になる(民法3条の2)ためです。診断名だけで決まるわけではありませんが、症状が進めば贈与は難しくなり、成年後見人がついた後は、相続税対策を目的とする贈与は原則として認められません(東京家庭裁判所のハンドブック)。贈与を続けたいなら、親が判断できるうちに家族信託・任意後見・遺言のどれで備えるかを決めます。

認知症の親の暦年贈与:段階ごとの分かれ目

「認知症」と一口に言っても、物忘れが少しある段階から、日常の判断も難しい段階まで幅があります。贈与ができるかは、その時その行為について判断されます。日本公証人連合会も、認知症と診断されても直ちに判断能力が欠けているとは評価されず、判断能力は行為の内容ごとに判断されると説明しています。

早見表:親の状態ごとに見た暦年贈与と、いまできること
親の状態 暦年贈与 いまできること
物忘れはあるが、財産や家族のことを説明できる 本人が内容を理解して決めればできる 毎年の契約書を本人が自署。家族信託・任意後見・遺言の検討を急ぐ
日によって理解があいまい 後で有効性を問われやすい 医師の意見を聞き、無理に進めない。専門家に早めに相談
金額や相手を理解して決められない 契約が無効になりうる 新しい贈与は止める。財産管理は成年後見などへ
成年後見人が選ばれた後 相続税対策の贈与は原則認められない 後見人が本人のための支出を管理

意思能力があったかどうかを決めるのは、家族ではありません。後で兄弟などから「その贈与は無効だ」と争われれば、最終的には裁判所が、当時の診断書や介護の記録、本人の言動などから判断することになります。迷う段階で贈与を急ぐと、税の節約どころか、相続のときの争いの種になりかねません。

意思能力がない時の贈与はどうなるか

意思能力がない時にした贈与は無効なので、法律上は財産が親から子に移っていないことになります。そうなると、次のような問題が重なります。

  1. 相続財産として扱われうる:子の名義の口座に移したお金でも、贈与が成立していなければ親の財産のままと見られ、相続のときに遺産として扱われることがあります。
  2. 兄弟との争いの種になる:ほかの相続人から、無効な贈与だとして返還や遺産への組み入れを求められることがあります。
  3. 銀行の手続きで止まる:全国銀行協会は、預金の払出しには預金者本人の意思確認が必要で、家族でも本人の預金を払い出すことはできないという考え方を示しています。本人の判断能力が落ちた後に、家族が本人の口座から子の口座へ振り込もうとしても、銀行の手続きで止まることがあります。

文例(親が判断できるうちの毎年の確認メモ):「令和〇年〇月〇日、父〇〇は、長男〇〇に現金〇〇円を贈与したいと自分で述べ、贈与契約書に自分で署名した。立会い:〇〇」

こうした記録は、贈与の時に親が内容を理解していたことを示す材料の一つになります。ただし記録があれば有効になるわけではなく、判断能力に疑いがある段階では、贈与そのものを見合わせるほうが安全です。

成年後見人がついたら、贈与は原則としてできない

親の判断能力が落ちて家庭裁判所に成年後見の申立てをし、後見人が選ばれると、親の財産は後見人が管理します。成年後見人は本人の意思を尊重し、心身の状態と生活に配慮して事務を行う義務があります(民法858条)。

東京家庭裁判所の「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A)」(令和7年4月)は、本人の財産から支出できるのは原則として本人自身のための支出に限られ、配偶者や子、孫などへの贈与や貸付けは、税法上の優遇措置があっても原則として認められず、相続税対策を目的とする贈与等も同様だと説明しています。例外として挙げられているのは、本人が扶養義務を負う配偶者や未成年の子の生活費(適正な範囲)、本人の借金の返済、後見の事務に必要な経費、常識的な範囲の香典や祝儀などです。

つまり、成年後見を使い始めると、毎年110万円ずつ子や孫に贈与する、といった暦年贈与は続けられなくなると考えておきます。成年後見の制度は、2026年6月に成立した法改正で後見・保佐を廃止して補助に一元化することが決まっていますが、施行前で、今の申立ては現行の制度で行います。改正の予定は成年後見とは?親が認知症になった時の財産管理と2026年改正の予定で、認知症になった後の財産管理全体は親が認知症になったら財産管理はどうなる?口座凍結と家族ができることで扱っています。

代わりの方法:家族信託・任意後見・遺言を判断できるうちに

暦年贈与が続けられなくなる前に、親が判断できるうちに使える方法を比べます。どれも親本人が内容を理解して結ぶ必要がある点は、贈与と同じです。

方法 何ができるか 贈与との関係 結ぶ時の手続き
家族信託 子などの受託者が、信託契約で定めた目的に従って財産を管理・処分する(信託法3条・4条・29条) 信託した財産から家族へ渡すことができるかは、契約の目的と定め方、税の扱いの問題になる。組成の前に専門家に確かめる 信託契約。不動産は信託の登記
任意後見 判断能力が落ちて任意後見監督人が選ばれた後、契約で定めた範囲で代理する(任意後見契約法2条〜4条) 代理できるのは契約で定めた範囲。贈与を続ける手段として考えるなら、範囲と監督の下での扱いを専門家に確かめる 公正証書(公証人手数料1契約13,000円のほか、登記嘱託手数料1,600円と収入印紙2,600円)
遺言 亡くなった後に、誰に何を渡すかを決める 生前に移せなかった財産を、遺言で渡したい人に残せる 自筆証書遺言・公正証書遺言
早めの相続時精算課税 判断できるうちに、まとまった額を一度に贈与する 2,500万円の特別控除と年110万円の基礎控除。選ぶと暦年課税に戻れない 贈与契約と、翌年の選択届出書の提出(No.4103)

家族信託は、親の判断能力があるうちに、自宅や預金の管理を子に任せる仕組みとして使われています。「施設に入ったら実家を売って費用に充てたい」といった管理・処分の目的には合いやすい一方、毎年の贈与を続けることを目的にする場合は、契約書の定め方と税の扱いの両方を専門家と詰める必要があります。仕組みは家族信託とは?親の財産を子が管理するしくみと向いている家で、任意後見は任意後見とは?元気なうちに後見人を決める契約と費用・手続きで説明しています。

家族信託の相談サービスを比べるときは、親にいま契約を結ぶ判断能力があるかを最初に確かめ、信託契約書の作成と信託の登記をどの資格者(弁護士・司法書士)が担うか、税の相談は税理士が担当するかを見積書で確かめます。すでに親が内容を理解して決められない状態なら、家族信託も任意後見も新しく結ぶことはできないので、成年後見の手続きを検討します。暦年贈与の基本と7年加算の影響は暦年贈与とは?毎年110万円の贈与のやり方と7年加算の影響で、贈与税の全体像は次の贈与税とは?110万円の基礎控除・税率・申告と親子の贈与の注意点で確かめられます。

よくある質問

Q. 認知症の親の代わりに、子が贈与契約書に署名してもいいですか?

贈与は親本人の意思表示で成立する契約なので、親の代わりに子が署名しても、親が贈与したことにはなりません。代理で署名する権限があるのは、家庭裁判所に選ばれた後見人や、契約で代理権を与えられた人などに限られます。すでに家族が代わりに署名してしまった贈与の扱いは、事情によって結論が変わるので、弁護士に相談して確かめる場面です。

Q. 親が要介護認定を受けたら、もう贈与はできませんか?

要介護認定は介護の必要の程度を判断するもので、贈与の判断能力を直接決めるものではありません。日本公証人連合会も、認知症と診断されても直ちに判断能力が欠けているとは評価されず、行為の内容ごとに判断されると説明しています。ただ、後で贈与の有効性が問われる可能性を考えると、親がどのくらい理解しているかを医師の意見なども含めて慎重に確かめます。

Q. 相続時精算課税を選んでいれば、認知症になっても贈与を続けられますか?

続けられません。相続時精算課税は贈与税の計算方法の選択で、贈与そのものは毎回、親の意思表示ともらう人の受諾で成り立つ契約です。精算課税選択届出書を出したかどうかに関係なく、贈与する時に親に意思能力が必要です。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

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