不動産の査定が高すぎる会社に注意:根拠の聞き方と売り出し価格
この記事のもくじ
複数の会社に査定を頼んだら、1社だけ数百万円高い、あるいは会社ごとにばらばらだった、ということは珍しくありません。結論から言うと、最高額の会社を選ぶ必要も、反対に高い会社を疑って避ける必要もありません。見るのは金額ではなく、その金額を支える取引事例と補正の説明です。根拠を示せない高い査定額は、売り出して買主がつかなかったとき、値下げを重ねる原因になります。ここでは、根拠の聞き方と、成約事例との比べ方、媒介契約を結ぶ前の確かめ点を順に示します。
不動産の査定額に差が出る理由と、高すぎる査定が出る事情
査定額が会社によって違うのは、不正があるからとは限りません。同じ物件でも、次の点の見方で数字が動きます。
- 選ぶ取引事例が違う:どの時期の、どの範囲の、どんな条件の取引を比べるかで単価が変わります。
- 補正の度合いが違う:不動産鑑定評価基準も、取引に特殊な事情があれば事情補正をし、時点が違えば時点修正をするとしています。補正の判断に幅が出ます。
- 建物の見方が違う:傷みや設備の更新、リフォームをどこまで評価に入れるか。
- 買主がつく強さの見立てが違う:その地域の需要を強く見るか、慎重に見るか。
- 会社の方針が違う:自社の買主候補を持っているか、売却を長く構えるつもりか。
この中で警戒したいのが、最後の「会社の側の事情」が数字に混じる場合です。不動産会社は、売主と媒介契約を結ばなければ、手数料を受け取る機会を得られません。専任媒介や専属専任媒介は、他の会社に重ねて頼めない契約です。そのため、契約を取るために実力より高い査定額を伝える動機が、会社の側に生まれる場合があります。そうなった場合に起こりうる流れは次のとおりです。
- 高い査定額で媒介契約を結び、相場より高い価格で売り出す
- 問い合わせが少なく、買主がなかなか現れない
- 「市場の反応が弱いので、価格を下げましょう」と提案される
- 値下げを重ね、最初に別の会社が出していた金額に近いところで売れる(時間だけが過ぎる)
売り出しから売れるまでの間は、固定資産税や管理の手間が続きます。空き家なら傷みも進みます。時間のコストを含めて見ると、最初から根拠のある価格で売り出したほうが、結果として手取りが残りやすいことがあります。
査定の根拠を聞く質問リスト:宅建業法34条の2
不動産会社は、媒介契約で売却の価額について意見を述べるときは、その根拠を明らかにしなければなりません(宅建業法34条の2第2項)。標準媒介契約約款にも、価額の意見を述べるときは根拠を示して説明すると書かれています。聞くことは、失礼でも珍しいことでもありません。査定書を受け取ったら、次の質問をしてみてください。
| 質問 | 見る点 | 気になる反応 |
|---|---|---|
| 比較した取引事例を見せてください | 件数、時期、場所、面積、築年数 | 事例を出さない、1件だけを根拠にする |
| 事例の価格をどう補正しましたか | 事情補正・時点修正・個別の差の説明 | 「相場ですから」で終わる |
| ほかの会社より高い理由は何ですか | 建物、立地、需要のどこを高く見たか | 理由が「自信があります」だけ |
| その価格で売れた実績はありますか | 近い条件の成約事例 | 売り出し中の価格ばかりを挙げる |
| 売れなかった場合はどうしますか | 値下げの時期と幅の考え方 | 最初は何も言わず、あとで値下げを促す |
| 何か月くらいで売れる見込みですか | 期間の見通しと、その根拠 | 「すぐ売れます」と言い切る |
質問の例:「他社の査定より高いのですが、どの取引事例の何を高く評価した結果ですか。事例の一覧を見せてください。」
「すぐ売れる」「この金額で売れる」のような言い切りは、実際の売れ行きを保証できない以上、判断を誤らせる材料になります。売れる期間や価格を言い切る説明は、根拠を聞き返す合図と受け取ります。この記事の範囲では、個別の会社の対応が法に反するかどうかを判断することはできません。疑問が残ったら、不動産適正取引推進機構などの窓口に相談できます。窓口の番号と受付時間は相続・不動産売却の相談窓口一覧で確かめられ、相談先の使い分けは不動産売却の相談先:不動産会社・税理士・司法書士・公的窓口にあります。
成約事例と比べて、査定額が妥当か見る方法
査定額が妥当かどうかは、売り出し価格ではなく成約価格と比べて見ます。売り出し価格は売主の希望で、実際に売れた額より高いことがあるからです。
- 国土交通省の不動産情報ライブラリで、近くの成約価格・取引価格を拾う。同じ種類(土地・一戸建て・マンション)で、直近のものを中心に。
- 面積と築年数が近い事例を3〜5件選び、1㎡あたりの単価(土地)や総額(マンション)を出す。
- 査定額を面積で割り、事例の幅と比べる。
- 幅から大きく外れる査定額なら、会社に理由を聞く。
利用約款は、取引には売り急ぎなど当事者の事情が反映され、通常と異なる価格になることがあると注意しています。1件の事例ではなく、幅で見ます。
仮の数字で、考え方の例を示します(筆者の計算)。土地80㎡の査定が3社から出たとします。
| 会社 | 査定額 | 1㎡あたり |
|---|---|---|
| A社 | 2,800万円 | 35万円 |
| B社 | 2,640万円 | 33万円 |
| C社 | 3,520万円 | 44万円 |
近くの成約事例を調べたら、1㎡あたり32万〜36万円の幅だったとします。A社とB社は幅の中に収まり、C社は上限を8万円上回ります。差額は8万円×80㎡=640万円です。C社に聞くのは、この640万円を上乗せできる理由が事例にあるかという点です。角地で高く評価した、再開発の影響を見込んだ、などの理由が具体的に示されれば、根拠のある差と言えます。示されなければ、売り出し後に値下げで戻る可能性を見込んで判断します。
反対に、査定額が低すぎると感じる場合も、同じ確認をします。低い額の会社には、建物の傷みの見方や、買取を前提にした価格ではないかを聞きます。不動産の査定とは:査定額の決まり方と鑑定評価・売れる値段の違いで説明した、取引事例比較法の計算の流れを当てはめると、会社の説明が理解しやすくなります。
媒介契約を結ぶ前の確かめ方と、売り出し価格の決め方
最高額の会社と、何が何でも契約する必要はありません。媒介契約を結ぶ前に、次の順で確かめます。
- 2〜3社から根拠つきの査定書をそろえる。訪問査定の準備は不動産の机上査定と訪問査定の違い:使い分けと訪問で見られる点にあります。
- 根拠の質で2社に絞る。金額の高さではなく、事例の説明の具体さで選ぶ。
- 契約の種類を選ぶ。一般・専任・専属専任の違いは媒介契約の種類:一般・専任・専属専任の違いと選び方の比較表にあります。専任は有効期間が3か月以内で、延ばすには依頼者の申し出が要ります。
- 契約書面の価額と報告の頻度を見る。専任媒介は2週間に1回以上、専属専任は1週間に1回以上、業務の処理状況の報告を受けられます。
- 期間の途中で見直す日を決める。たとえば売り出して1か月後に、問い合わせの数を確かめる、と決めておく。
売り出し価格は、査定額を鵜呑みにして決めるものではなく、査定額、相場の幅、売りたい期限から、売主が決めるものです。決め方と値下げの考え方は売り出し価格の決め方:査定額・相場・値下げの余地の考え方で扱います。
なお、AIが出す査定額にも差があります。信用できる範囲は不動産のai査定はあてになる?AI査定のしくみと使いどころで確かめられます。
複数の会社の査定を並べて、根拠を比べるための選択肢の一つに、不動産一括査定があります。申し込むと複数の会社から連絡が来ることがある点と、査定を受けても売る義務は生じない点を確かめてから使ってください。
よくある質問
Q. いちばん高い査定額を出した会社に頼むのは、よくないですか?
高いこと自体が悪いのではなく、その高さに根拠があるかが分かれ目です。使った取引事例と補正の説明が具体的で、ほかの会社との差の理由が説明できるなら、候補に残します。根拠が薄いまま最高額だけを理由に選ぶと、売れずに値下げを重ねる流れになりやすくなります。
Q. 査定額が高すぎると思ったのですが、断ってもよいですか?
断ってかまいません。査定を受けても売る義務はなく、媒介契約を結ぶまでは何の約束も生じていません。断るときは「他社の根拠と比べて、今回は見送ります」とだけ伝えれば足ります。理由を細かく説明する必要はありません。
Q. 専任媒介を結んだあとで、価格や会社を見直せますか?
専任媒介の有効期間は3か月が上限で、延ばすには依頼者からの申し出が要ります。期間が終われば、更新せずに別の会社へ変える選択ができます。期間の途中で解約するときの注意は、媒介契約の解約を扱った記事で確かめられます。
出典・参考にした公的な情報
- 宅地建物取引業法 第34条の2(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 標準媒介契約約款(国土交通省)
- 不動産情報ライブラリ 利用約款(国土交通省)
- 不動産鑑定評価基準(総論 第7章)(国土交通省)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。