売り出し価格の決め方:査定額・相場・値下げの余地の考え方
売り出し価格は、査定額、近い条件の成約事例、売却期限、値下げや価格交渉に応じる余地の4つから決めます。査定額をそのまま売り出し価格にすると、買主との価格交渉で下がる分だけ手取りが減ります。逆に高く出しすぎると、売れ残って期限に間に合わなくなります。この記事では、決める順番、3つの価格案の比べ方、手取りの逆算の計算例を示します。査定額が会社ごとに大きく違うときの見方は不動産の査定が高すぎる会社への注意にあります。
売り出し価格を決める4つの材料
- 査定額:不動産会社が出した「売れると見込む価格」です。複数社の査定書を並べて、根拠(取引事例)を比べます。査定額は売れる値段の保証ではありません。
- 成約事例:実際に売れた価格です。売り出し価格ではなく、成約価格を見ます。
- 売却期限:いつまでに現金が要るか、いつまでに売れば税の特例に間に合うかなどです。
- 値下げと価格交渉の余地:売り出し価格からどこまで下がってもよいか(下限)を、先に決めておきます。
不動産会社は、媒介契約書に書く価額について意見を述べるとき、その根拠を明らかにする義務があります(宅建業法34条の2第2項)。標準約款にも、価額の意見は根拠を示して説明すると書かれています。根拠の説明は売主が求めてよいものなので、遠慮なく質問します。
手順1:下限価格と売却期限を先に決める
価格を決める前に、「これ以下では売らない」という下限を計算します。
筆者の計算例(仮の数字): 住宅ローンの残り 2,500万円 仲介手数料などの費用 約120万円(成約3,100万円の手数料の上限は、3,100万円×3%+6万円=99万円、税込108万9,000円) 手元に残したい額 300万円 下限=2,500万円+120万円+300万円=2,920万円
手数料の計算の仕方は仲介手数料の上限と計算式に、他の費用は不動産売却にかかる費用一覧にあります。住宅ローンが残っている場合の考え方は住宅ローンが残っている家を売るにはで扱います。
次に、期限から逆算します。
| 決めること | 確かめ方 |
|---|---|
| 現金が要る日 | 相続税の納付、住み替えの頭金、ローン返済など。この日までに「入金」まで終える |
| 売り出しから入金まで | 買主が見つかってから契約、決済までにかかる期間を不動産売却の流れと期間で確かめる |
| 売り出しに使える期間 | 現金が要る日から、契約・決済の期間を引いた残り |
| 媒介契約の期間 | 専任は3か月以内。価格を見直すタイミングを、満了前に置く |
相続した家を売る場合は、売却期限に税の特例が関わることがあります。期限の早見は相続不動産の売却期限にあります。
手順2:成約事例で相場を確かめる
査定書の取引事例を鵜呑みにせず、自分でも成約価格を調べます。国土交通省の不動産情報ライブラリでは、取引価格情報と成約価格情報を地図に重ねて見られます。
- 不動産取引価格情報:土地・建物の取引についてのアンケート調査の回答を、個別の物件が特定できないよう加工したもの。
- 成約価格情報:指定流通機構(レインズ)が保有する取引価格情報を、個別の取引が特定できないよう加工したもの。
利用規約には、取引には物件固有の性質や取引当事者の事情(売り急ぎ、買い急ぎなど)が反映され、通常の取引と異なる価格になることがある、同じ取引が両方に載っていることもある、という注意があります。近い事例を複数見て、幅で捉えることが大切です。調べ方の詳細は物件の種類別に、家を売るといくら?、マンションの売却相場の調べ方にあります。
比べるときは、次の条件が近い事例を選びます。
- 同じ町内・同じ沿線で、駅からの距離が近い。
- 築年数と面積が近い。
- 成約の時期が新しい。
- 土地は形、道路との接し方、境界の状況が近い。
手順3:3つの価格案を並べて選ぶ
下限と期限と相場が出たら、売り出し価格の案を3つ並べて比べます。
| 案 | 売り出し価格 | 考え方 | 向く人 | 気をつける点 |
|---|---|---|---|---|
| A 強気 | 3,400万円 | 査定の上のほうを狙う | 期限に余裕がある | 内見が入らないと、見直しの時期が来る |
| B 標準 | 3,200万円 | 査定の中心+交渉の余地 | 期限が数か月ある | 交渉で100万円下がっても下限を割らない |
| C 早め | 3,000万円 | 成約事例の下のほう | 期限が近い | 交渉の余地が小さくなる |
筆者の計算例:案Bで買主が100万円の値引きを求めて成約した場合 成約価格 3,100万円 仲介手数料の上限(税込)108万9,000円 ローン残債 2,500万円を返済 手元に残る額(他の費用・税金を除く)=3,100万円−108万9,000円−2,500万円=491万1,000円
案を決めるときは、売り出し価格の端数にも注意します。買主が価格帯で絞って探すことがあるので、「3,000万円以下」で検索される価格のすぐ上に置くと、見られる機会が減るおそれがあります。この点は不動産会社に、自分の地域での検索のされ方を聞いて決めます。
価格案の大まかな方針は、会社ごとに違う場合があります。複数社に同じ質問をして比べる方法は相見積もりのマナーにあります。
手順4:値下げの見直し時期を、売り出す前に決める
売り出したあとの値下げは、その場で迷いやすい判断です。売り出す前に、見直しの基準を決めておきます。専任媒介なら2週間に1回以上、専属専任なら1週間に1回以上の業務報告が義務なので、報告を判断の材料にします(宅建業法34条の2第9項)。
| 状況(筆者の目安) | 考えること |
|---|---|
| 問い合わせはあるが、内見が入らない | 写真・間取り図・説明文の見直し。価格より先に広告を直す |
| 内見は入るが、申込みが入らない | 価格のほか、内見時の印象を見直す(内見の準備) |
| 問い合わせも内見もほとんどない | 価格帯・登録内容の確認。レインズに登録された内容を売主用の画面で見る |
| 契約期間の満了が近い | 価格を直すか、会社を変えるかを決める(専任媒介の解約と不動産会社の変更) |
値下げの幅や時期の数字は、公的な基準があるわけではありません。下限を割らない範囲で、見直す日を先に決めておくという考え方です。
売れない状態が長引くときの全体の見直し順は不動産売却で売れない場合の見直しで扱います。
よくある質問
Q. 売り出し価格は、売主が自由に決めてよいのですか?
媒介契約書には「売買すべき価額」を書く欄があり、売主と不動産会社が相談して決めるのが一般的です。不動産会社は、価額について意見を述べるときは根拠を示す義務があります。最終的に出す価格を決めるのは売主ですが、根拠を聞いたうえで決めると後悔が少なくなります。
Q. 最初は高めに出して、あとで下げる方法は有利ですか?
有利かどうかは物件と時期によって変わり、一概には言えません。高めに出すと、買主が価格帯で絞って探したときに候補から外れることがあります。下げるまでの期間を決めておかないと、売却期限に間に合わなくなることがあります。この記事の表で、期限から逆算して決めます。
Q. 成約価格のデータはどこで見られますか?
国土交通省の不動産情報ライブラリで、取引価格情報と成約価格情報を地図から調べられます。ただし取引には売り急ぎなどの事情が反映されることがあり、そのまま自分の家の値段にはなりません。
出典・参考にした公的な情報
- 宅地建物取引業法 第34条の2(媒介契約・価額の根拠の説明・業務処理状況の報告)(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 標準媒介契約約款(国土交通省)
- 不動産情報ライブラリ(不動産取引価格情報・成約価格情報)と利用規約(国土交通省)
- 宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額(昭和45年建設省告示第1552号)(国土交通省)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。