不動産の生前贈与:手続き・登記・かかる税金と相続との比べ方
親の家や土地を生前に子へ贈与するときは、①固定資産評価証明書などで評価額を出す→②贈与税・登録免許税・不動産取得税を相続の場合と比べる→③贈与契約書を作る→④法務局へ贈与登記を申請する→⑤都道府県から届く不動産取得税を納める→⑥翌年2月1日〜3月15日に子が贈与税の申告をする、の順に進めます。相続で引き継ぐ場合と比べると、登録免許税は0.4%が2%に上がり、相続ではかからない不動産取得税がかかり、贈与税は暦年課税だと高くなりやすい、という違いがあります。贈与税を抑える方法として相続時精算課税がありますが、その不動産は相続のときに贈与時の価額で相続財産に足し戻されます。
不動産の生前贈与の手順
- 評価額を出す。 市区町村(東京23区は都税事務所)で固定資産評価証明書を取ります。登録免許税と不動産取得税はこの固定資産税評価額を基に、贈与税は相続税評価額(土地は路線価か固定資産税評価額×倍率、建物は固定資産税評価額)で計算します。
- 税金を比べる。 下の見出しの表のように、暦年課税・相続時精算課税・相続を待つ場合の3通りで、かかる税金を並べます。
- 贈与契約書を作る。 贈与者・受贈者・不動産(登記記録どおりの所在・地番・家屋番号)・贈与日を書き、双方が署名押印します。この契約書が登記の「登記原因証明情報」になります。
- 贈与登記を申請する。 不動産を管轄する法務局へ、所有権移転登記(原因「贈与」)を申請します。窓口への持参のほか、郵送やオンラインでも申請できます。
- 不動産取得税を納める。 登記の後、不動産のある都道府県から納税通知書が届きます。
- 翌年に贈与税を申告する。 子が、贈与の翌年2月1日〜3月15日に自分の住所地の税務署へ申告します。相続時精算課税を選ぶ場合は、選択届出書も同じ期間に出します。
親が認知症などで判断能力が十分でない場合、贈与は契約なので成り立たないおそれがあります。その場合の考え方は、家族信託や成年後見の記事で扱っています。
贈与登記の申請:必要書類と申請書の要点
法務局が公開している贈与の記載例をもとに、添付するものを整理します。
| 書類 | 誰のもの | 要点 |
|---|---|---|
| 贈与契約書(登記原因証明情報) | 双方 | 当事者と物件が分かるもの |
| 登記識別情報(権利証)と、3か月以内の印鑑証明書 | 親(贈与者) | 権利証がないと手順が増える |
| 住民票の写しと、国籍等の申出(2026年10月5日以降の申請) | 子(受贈者) | 新しい様式・記載例で確かめる |
書類ごとの書き方と、委任状、自分で申請する手順の詳細は生前贈与の登記を司法書士に頼む費用と自分で申請する方法にまとめています。
申請書には、登記の目的(所有権移転)、原因(贈与の日付と「贈与」)、権利者(子)と義務者(親)、課税価格、登録免許税、不動産の表示を書きます。親の住所や氏名が登記記録と違う場合は、先に親の住所等変更登記が必要です。法務局の記載例では、課税価格2,000万円の不動産で登録免許税40万円(2%)の例が示されています。
自分で申請する場合と、司法書士に頼んだときの報酬の比べ方も、上の記事で扱います。
かかる税金を相続の場合と比べる
次の家を例に、3通りの税金を並べます(筆者の計算)。前提は、固定資産税評価額が土地1,600万円・建物(住宅)500万円、相続税評価額が土地2,000万円・建物500万円、受贈者は30歳の子で、この年ほかに贈与を受けていないこと。住宅や住宅用の土地に使える減額の措置は入れていません。
| 税金 | 暦年課税で贈与 | 相続時精算課税で贈与 | 相続で取得 |
|---|---|---|---|
| 登録免許税 | 2,100万円×2%=42万円 | 42万円 | 2,100万円×0.4%=8.4万円 |
| 不動産取得税 | 土地1,600万円×1/2×3%+建物500万円×3%=39万円 | 39万円 | 課税されない |
| 贈与税 | 810.5万円 | 0円(特別控除の残り110万円) | — |
| 相続のとき | 加算期間内なら足し戻す | 2,390万円を足し戻す | 2,500万円が相続財産。要件を満たせば小規模宅地等の特例で土地の評価を減らせる |
| 合計(相続税を除く) | 891.5万円 | 81万円 | 8.4万円 |
検算:暦年課税は(2,500万円−110万円)=2,390万円。親から18歳以上の子への特例贈与財産の税率で、1,500万円超3,000万円以下は45%・控除額265万円なので、2,390万円×45%−265万円=1,075.5万円−265万円=810.5万円。精算課税は2,390万円が2,500万円の特別控除の内側に収まるため0円。不動産取得税の土地は、宅地の課税標準を2分の1にする措置(2027年3月31日までの取得)と税率3%を使っています。
表から分かるのは、精算課税で贈与税を0円にしても、登記と不動産取得税で相続より約73万円多くかかることです。さらに、生前に贈与した土地は相続財産から外れるため、相続なら要件を満たせば使えた小規模宅地等の特例(自宅の土地の330㎡までを80%減らす特例)は使えません。
- 登録免許税:贈与2%/相続0.4%
- 不動産取得税:贈与は課税/相続は課税されない
- 贈与税:暦年課税は累進税率、精算課税は2,500万円まで0円(超えると20%)
- 小規模宅地等の特例:贈与した土地には使えない
- 取得費と取得の時期:どちらも親のものを引き継ぐ
相続時精算課税で不動産を贈与するときの注意
精算課税は、60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与で選べます。不動産を贈与するときに押さえておきたい点は次のとおりです。
- 足し戻すのは贈与したときの価額。 相続のときの価額ではありません。贈与の後に値上がりしても足し戻す額は変わらず、値下がりしても贈与時の額で足し戻します。
- 一度選ぶと戻れない。 選択届出書を出すと、その親からの以後の贈与はずっと精算課税になり、暦年課税に戻れません。
- 小規模宅地等の特例と物納に使えない。 精算課税で贈与を受けた宅地は小規模宅地等の特例の対象外で、相続税を物納するときの財産にも充てられません。
- 110万円以下でも届出は要る。 2024年以後の贈与は年110万円の基礎控除があり、それ以下なら申告は要りませんが、選ぶ最初の年は選択届出書を出します。
精算課税の仕組み全体は相続時精算課税とは:2,500万円の特別控除と110万円の基礎控除、暦年課税の贈与が足し戻される人の範囲は暦年贈与の7年加算は法定相続人だけ?孫・子の配偶者の扱いで確かめてください。夫婦の間で自宅を贈与する場合は、別の特例(贈与税の配偶者控除(おしどり贈与))があります。
贈与した家を後で売るとき、と相談先
贈与で受けた土地・建物を子が後で売る場合、取得費(買ったときの代金など)と取得の時期は親のものを引き継ぎます。業務用でなければ、子が払った登記費用や不動産取得税も取得費に含められます(取得費が分からず売却額の5%を取得費とみなす方法を使う場合は含められません。国税庁 No.3270)。一方、相続した空き家を売るときの3,000万円特別控除は、相続や遺贈で取得した家と敷地を対象にした制度で、生前の贈与で受けた家は対象になりません。売る予定がある家かどうかも、贈与か相続かを決める材料です。売るときの税金は生前贈与の不動産売却の税金:贈与された家の取得費の引継ぎと特例で扱います。
兄弟がいる家では、1人に不動産を贈与すると、遺産分割や遺留分で問題になることがあります。贈与の前に家族へどう説明するかは生前贈与で相続トラブルになる例:兄弟への説明と遺留分の考え方を読んでください。
どの方法が自分の家に合うかを、評価額・相続税の見込み・売却の予定まで含めて比べる判断は税理士の仕事で、登記の申請の代理は司法書士の仕事です。相続税がかかりそうな家で贈与を検討するなら、税理士を探す方法の一つとして紹介サービスがあります。不動産の贈与や相続税の申告を扱った経験があるか、見積もりを先に出してもらえるかを確かめてから依頼を決めてください。
よくある質問
Q. 親の家を子に贈与する登記は、子だけで申請できますか?
贈与の登記は、もらう子(登記権利者)とあげる親(登記義務者)が共同で申請するのが原則です。法務局の記載例では、子が親から申請の委任を受けて、子が「申請人兼義務者代理人」として申請する形が示されています。その場合も、親の実印を押した委任状と、親の印鑑証明書(3か月以内)が要ります。
Q. 土地の一部(持分)だけを毎年贈与することはできますか?
できます。持分の贈与でも、そのたびに贈与契約書を作り、持分の移転登記をして、登録免許税をその持分の価額に対して納めます。毎年少しずつ移すと、贈与税は抑えやすくなる一方で、登記のたびに登録免許税と司法書士の報酬、不動産取得税がかかるので、回数を含めて費用を比べてから決めます。
Q. 贈与登記の申請書は、どの様式を使えばよいですか?
法務局のホームページ「不動産登記の申請書様式について」に、所有権移転登記申請書(贈与)の様式と記載例があります。2026年10月5日以降に申請する場合は、登記名義人となる人の国籍等を書く欄がある新しい様式を使います。
出典・参考にした公的な情報
- 不動産登記の申請書様式について(所有権移転登記申請書・贈与の記載例)(法務局)
- 登録免許税法 別表第一(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 不動産取得税(東京都主税局)
- No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)(国税庁)
- No.4103 相続時精算課税の選択(国税庁)
- No.4124 小規模宅地等の特例(国税庁)
- No.4214 相続税の物納(国税庁)
- No.4602 土地家屋の評価(国税庁)
- No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期(国税庁)
- No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(国税庁)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。