生前贈与と贈与税 / 制度解説

贈与税の配偶者控除(おしどり贈与):2,000万円の要件と注意

この記事のもくじ
  1. 贈与税の配偶者控除を使える要件
  2. 2,000万円+110万円の計算と、超えた場合の税額
  3. 贈与税がゼロでもかかる費用:登録免許税と不動産取得税
  4. 相続との関係:足し戻し・持ち戻し・精算課税
  5. 使う前に比べたい判断材料

贈与税の配偶者控除(通称「おしどり贈与」)は、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、住むための家・土地か、それを買うためのお金を贈与したときに、贈与税の基礎控除110万円とは別に最高2,000万円を差し引ける特例です。その年は合計2,110万円まで贈与税がかからない計算になります(筆者の計算)。ただし、使えるのは同じ配偶者から一生に一度で、税額がゼロでも翌年に申告しないと使えません。贈与税がかからなくても、名義を移す登記の登録免許税と、都道府県の不動産取得税はかかります。

贈与税の配偶者控除を使える要件

国税庁 No.4452 と相続税法21条の6に書かれている要件を、確かめる書類と一緒に並べます。

要件 中身 確かめる書類
婚姻期間 法律上の婚姻の期間が20年を過ぎた後の贈与 戸籍謄本か抄本(婚姻の日)
贈与する財産 国内にある居住用不動産(土地・借地権・家屋)、またはそれを取得するための金銭 登記事項証明書、売買契約書
住むこと 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、もらった人が実際に住み、その後も住み続ける見込み 戸籍の附票の写し(住所の記録)
回数 同じ配偶者からの贈与で、過去にこの特例を使っていない —
申告 翌年2月1日〜3月15日に贈与税の申告書を出し、書類を添付する 申告書の控え

添付する書類は、①贈与の日から10日を経過した後に作られた戸籍謄本か抄本、②同じく戸籍の附票の写し、③居住用不動産を取得したことが分かる登記事項証明書など(申告書に不動産番号を書けば省略できる)、④不動産をもらった場合はその評価の明細、の4つです。

お金をもらって家を買う場合は、翌年3月15日までに買って住むことが条件です。年末に現金を受け取り、引渡しが翌年4月以降になる物件では、要件から外れるおそれがあります。

2,000万円+110万円の計算と、超えた場合の税額

控除の対象になるのは、不動産の場合は時価ではなく相続税評価額(土地は路線価か固定資産税評価額×倍率、建物は固定資産税評価額)です。評価の方法は国税庁 No.4602 にあります。

例として、夫名義の自宅(相続税評価額の合計3,000万円)を妻へ贈与する場合で、持分の大きさごとに贈与税を出してみます(筆者の計算。妻はこの年ほかに贈与を受けていない前提)。夫婦間の贈与は、親から子への「特例贈与財産」ではなく「一般贈与財産」の税率を使います。

贈与する持分 評価額 控除の合計 課税される額 贈与税
1/2 1,500万円 2,110万円 0円 0円(申告は必要)
2/3 2,000万円 2,110万円 0円 0円(申告は必要)
全部 3,000万円 2,110万円 890万円 231万円

検算:3,000万円−2,000万円−110万円=890万円。一般贈与財産の税率で600万円超1,000万円以下は40%・控除額125万円なので、890万円×40%−125万円=356万円−125万円=231万円。

控除の枠に収まる持分を選ぶと贈与税はかかりません。枠を少しでも超えると、超えた部分には累進の税率がかかります。持分を決める前に、評価額を固定資産評価証明書や路線価で出しておくことが出発点になります。

贈与税がゼロでもかかる費用:登録免許税と不動産取得税

自宅の名義を移すには、所有権移転登記(原因は「贈与」)を法務局に申請します。このときの登録免許税は、相続なら不動産の価額の0.4%のところ、贈与は**2%**です。さらに、都道府県の不動産取得税は相続では課税されませんが、贈与では課税されます。東京都主税局は、夫婦間の居住用不動産の贈与の特例を使った場合でも不動産取得税の対象になると明記しています。

上の例で持分1/2を贈与した場合の費用を、相続で取得した場合と比べます(筆者の計算。固定資産税評価額も土地2,400万円・建物600万円で、合計3,000万円の評価額と同じと仮定)。

費用 おしどり贈与(持分1/2) 相続で持分1/2を取得した場合
登録免許税 (1,200万円+300万円)×2%=30万円 (1,200万円+300万円)×0.4%=6万円
不動産取得税(土地) 1,200万円×1/2×3%=18万円 課税されない
不動産取得税(建物・住宅) 300万円×3%=9万円 課税されない
合計 57万円+司法書士に頼む場合の報酬 6万円+報酬

宅地の課税標準を2分の1にする措置と、土地・住宅の税率3%は、いずれも2027年3月31日までの取得に適用されます(東京都主税局の案内)。住宅や住宅用の土地には、要件を満たすと税額を減らす措置もありますが、上の表は減額を入れない前提の数字です。実際の税額は、不動産のある都道府県の税事務所に確かめてください。登記の進め方と費用の全体は、不動産の生前贈与:手続き・登記・かかる税金と相続との比べ方で手順に沿って説明しています。

比較:おしどり贈与で動くお金と、動かないお金
  • かからない:贈与税(2,110万円の枠の内側なら)
  • かかる:登録免許税2%(相続なら0.4%)
  • かかる:不動産取得税(相続なら課税されない)
  • かかる:司法書士に登記を頼む場合の報酬(事務所の料金表で確かめる)
  • 相続のときに足し戻さない:配偶者控除で差し引いた額

相続との関係:足し戻し・持ち戻し・精算課税

おしどり贈与が「相続対策」として紹介されるのは、相続との関係に3つの特徴があるからです。

  1. 相続税の計算に足し戻さない。 暦年課税の贈与は、贈与した人が亡くなる前の一定期間のものが相続財産に加えられますが、配偶者控除で差し引いた額は加算しない、と国税庁 No.4161 に明記されています。ただし、2,000万円の控除の対象にならなかった部分(基礎控除110万円の範囲を含む)は、通常の暦年贈与と同じく加算期間に入れば足し戻されます。期間は生前贈与の加算期間の早見表で確かめられます。
  2. 遺産分割で持ち戻さないものと推定される。 民法903条4項は、婚姻期間20年以上の夫婦の一方が他方に居住用の建物や敷地を贈与したとき、遺産分割でその分を相続財産に戻さない意思(持ち戻し免除)を表示したものと推定します。2019年7月1日の施行より前の贈与には適用されません。持ち戻しの仕組みは特別受益とは:相続で兄弟が生前贈与を受けていた時の持ち戻しを読んでください。
  3. 相続時精算課税とは組み合わせられない。 「配偶者控除と相続時精算課税の併用」を調べる人がいますが、相続時精算課税でもらえるのは、贈与者の推定相続人である直系卑属(子など)と孫に限られます。配偶者は対象外なので、夫婦の間では精算課税を選べません。精算課税は贈与者ごとに選ぶ制度なので、親からの贈与で精算課税を選んだ人が、配偶者からの贈与で配偶者控除を使うことは別の話として可能です。親から子への贈与で精算課税と暦年課税を選ぶ話は相続時精算課税とは:2,500万円の特別控除と110万円の基礎控除で扱います。

使う前に比べたい判断材料

おしどり贈与は、使わなくても相続で配偶者が守られている部分があります。比べる材料を3つ挙げます。

  • 配偶者の税額の軽減:相続では、配偶者が取得した正味の遺産額が1億6千万円か法定相続分相当額の多い方までなら、配偶者に相続税はかかりません(申告が条件)。自宅を相続で取得しても税がかからない家では、贈与で前倒しする税の利点は小さくなります。
  • 小規模宅地等の特例:相続で配偶者が自宅の土地を取得すれば、330㎡までの部分の評価額が80%減ります。生前に贈与した持分は相続財産から外れるので、その持分にこの減額は使えません。
  • 二次相続:贈与を受けた配偶者が後に亡くなると、その自宅は次の相続(子への相続)の財産になります。夫婦どちらの名義で持つかによって、2回の相続の合計がどう変わるかは家ごとに違います。

どちらが有利かを自分の家の数字で決める判断は、税理士の仕事です(税理士法52条)。税額の一般的な仕組みは税務署の電話相談でも聞けるので、使い方は相続税の相談は税務署でできる?電話相談センターと面接相談の使い方を参考にしてください。夫婦の間の生活費や預金の名義を移す場合の贈与税は、夫婦間の贈与税はいくらから?生活費は非課税・名義を移すと課税で別に整理しています。贈与の方法全体の選び方は、次の生前贈与のやり方:方法の選び方・手続き・相続税との関係へ進んでください。

よくある質問

Q. 婚姻期間は、同居を始めた日から数えますか?

国税庁の要件は「夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われたこと」で、法律上の婚姻の期間を指します。戸籍に記載された婚姻の日から贈与の日までを数えるので、内縁の期間は入りません。申告では、贈与の日から10日を経過した後に作られた戸籍謄本か抄本を添付します。

Q. 自宅の土地だけを贈与しても使えますか?

相続税法21条の6は、居住用不動産を「専ら居住の用に供する土地若しくは土地の上に存する権利若しくは家屋」と定めていて、土地と家屋を並べて書いています。夫婦で住んでいる家の敷地であれば、土地だけ、持分だけの贈与も対象になりえます。店舗と住宅を兼ねた建物のように「専ら居住用」と言い切れない場合は、扱いが変わりうるので、税務署か税理士に確かめてから進めてください。

Q. 2回目の贈与で控除の残りを使えますか?

使えません。この特例は、同じ配偶者からの贈与については一生に一度だけです。1回目で2,000万円に満たない額しか使わなかった場合も、残りを次の年以降に回すことはできないので、贈与する持分や金額は1回で決める前提で考えます。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

夫婦間の贈与税はいくらから?生活費は非課税・名義を移すと課税

贈与税が非課税になるもの一覧:生活費・教育費・特例の早見表

生前贈与のやり方:方法の選び方・手続き・相続税との関係

不動産の生前贈与:手続き・登記・かかる税金と相続との比べ方