生前贈与で相続トラブルになる例:兄弟への説明と遺留分の考え方
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生前贈与が兄弟とのトラブルになるのは、贈与の額そのものより、相続のときに「その贈与を取り分の計算に入れるか」で意見が割れるからです。民法では、一定の生前贈与は遺産分割で持ち戻され(特別受益)、遺留分の計算にも入ります。さらに相続税では、死亡前の一定期間の贈与が相続財産に足し戻されます。兄弟に内緒の贈与も、相続の手続きの中で表に出やすいので、贈与のときに記録を残し、説明しておくことが一番の予防になります。
生前贈与が相続トラブルになりやすい5つの類型
相続でもめる生前贈与には、いくつかの決まった形があります。どの類型でも、争点は「その贈与は特別扱いすべきものだったか」と「どれだけの額だったか」の2点に集まります。
| 類型 | 兄弟が抱きやすい疑問 | 関係する決まり |
|---|---|---|
| 1人だけが家の購入資金や家そのものをもらった | 自分はもらっていない。相続で差を埋めるべきでは | 特別受益(民法903条)、遺留分(1044条) |
| 親と同居の子に預金をまとめて移した | 介護のお礼か、親のお金の管理か、贈与か | 贈与の成立(549条)、特別受益 |
| 親の通帳から子への振込が見つかった | 内緒で受け取っていたのか | 特別受益、相続税の加算(No.4161) |
| 子の名義の口座に親がためていた | そもそも親の財産では | 贈与の成立(549条)、名義預金 |
| 贈与の額が分からない(現金手渡し・記録なし) | いくらもらったのか説明してほしい | 特別受益の額の争い |
どの類型でも、贈与を受けた側に悪意がないことは多いものです。それでも、記録がない贈与は、受けた側が説明できないため、疑いが晴れないまま話し合いが長引きます。兄弟がもめたときの第三者の入れ方は相続で兄弟がもめるときの原因と順番で扱っています。
3つの「期間」を混ぜない:特別受益・遺留分・相続税
生前贈与が相続に影響する仕組みは3つあり、それぞれ対象になる期間が違います。ここを混同すると、「7年より前の贈与だから関係ない」といった思い違いが起きます。
| 仕組み | 何に影響するか | 対象になる贈与の期間 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 特別受益の持ち戻し | 遺産分割での各相続人の取り分 | 期間の制限なし。ただし相続開始から10年を過ぎた後の遺産分割では原則として主張できない | 民法903条・904条の3 |
| 遺留分の計算への算入 | 最低限の取り分(遺留分)の計算の基礎 | 相続人への贈与は相続開始前10年以内(婚姻・養子縁組・生計の資本としての贈与)。相続人以外は1年以内。損害を与えると知ってした贈与はそれより前も | 民法1044条 |
| 相続税の生前贈与加算 | 相続税の課税価格 | 相続開始日により3年以内から段階的に7年以内へ(暦年課税の贈与) | 国税庁 No.4161 |
特別受益は、婚姻・養子縁組のため、または生計の資本としての贈与を、相続開始時の財産に加えて取り分を計算し直すしくみです(903条1項)。贈与の時期に制限はありませんが、904条の3で、相続開始から10年を過ぎてから遺産分割をすると、原則として特別受益は考慮されなくなります。持ち戻しの計算の仕方は特別受益と持ち戻しのしくみで詳しく扱っています。
遺留分は、兄弟姉妹以外の相続人に保障された最低限の取り分です。相続人への贈与は、相続開始前10年以内のものが計算の基礎に入ります(1044条3項)。遺留分を侵害された相続人は、贈与を受けた人に侵害額に相当する金銭の支払いを請求でき(1046条)、この請求は相続の開始と侵害する贈与を知った時から1年、相続開始から10年で行使できなくなります(1048条)。何年前の贈与まで入るかは生前贈与と遺留分の算入期間で掘り下げています。
相続税の加算は税金の話で、兄弟の取り分とは別です。2026年10月時点では相続開始前3年以内の贈与が対象で、2027年1月以後の相続から期間が段階的に延びます。相続開始日ごとの期間は生前贈与の加算期間の早見表を見てください。
兄弟に内緒の贈与が表に出る場面と、内緒にする危うさ
「兄弟に内緒で」という贈与は、次のような場面で表に出ることが多くあります。
- 相続人が親の通帳や取引履歴を確かめるとき。 預金の相続手続きでは、残高だけでなく入出金の履歴を見る相続人もいます。
- 相続税の申告書を作るとき。 加算の対象になる贈与は相続財産に足し戻して申告するので、相続人がそろって申告書を作れば、誰がいくら受けたかが見えます。相続時精算課税を選んだ贈与も、期間に関係なく相続税の計算に足し戻されます。2024年1月1日以後の贈与は年110万円の基礎控除を引いた残りが、それより前の贈与は全額が対象です(No.4103)。
- 遺留分の計算をするとき。 相続人への10年以内の贈与は計算の基礎に入るので、争いになれば贈与の有無と額が問われます。
内緒にしたい気持ちは、他の兄弟との不公平感を生みたくない配慮から来ていることが多いはずです。ただ、相続の場で後から見つかると、贈与の額より「隠していた」ことへの反発が大きくなりがちです。
もう一つの危うさは、贈与が成立していたと言えるかです。民法549条で、贈与は「あげる」という意思表示と、もらう側の受諾で成立します。親が子に知らせずに子の名義の口座へ入金していた場合、子が受諾していないため、贈与ではなく親の財産(いわゆる名義預金)と見られることがあります。そうなると、その預金は相続財産として兄弟で分ける対象に戻ります。親から子へお金を渡すときの記録の残し方は、次の親から子への贈与のしかたで手順にしています。
記録と説明の残し方:贈与のときにできる4つのこと
もめないための準備は、贈与を受けるその時にしかできないものがほとんどです。次の4つを、贈与のたびに行います。
- 贈与契約書を作る。 日付・あげる人・もらう人・財産・金額を書き、双方が署名します。毎年贈与するなら毎年作ります。書き方は暦年贈与の契約書の書き方にひな形があります。
- 現金の手渡しをせず、振込にする。 親の口座から子の口座への振込記録が、いつ・いくら受けたかの証拠になります。
- 贈与税の申告をした年は、申告書の控えを保管する。 申告は翌年2月1日〜3月15日です。
- 親の意思を書面に残してもらう。 特別受益の持ち戻しをしなくてよいという親の意思表示があれば、それに従うと民法903条3項は定めています。遺言に書いておけば、相続のときに親の意思として示せます。
遺言に書く文の例:「長男○○に令和○年に贈与した住宅購入資金○○万円については、その持ち戻しを免除する。」
婚姻期間20年以上の夫婦の間で居住用の建物や敷地を贈与した場合は、持ち戻し免除の意思表示があったものと推定されます(903条4項)。親の生前に兄弟の遺留分が問題になりそうなときは、兄弟本人が家庭裁判所の許可を得て遺留分を放棄する制度(1049条)もありますが、これは放棄する本人が決めることで、頼んで進めるものではありません。
兄弟への説明は、贈与の時か、遅くとも相続の話し合いの最初に、自分から伝えるほうが受け止められやすくなります。
兄弟への説明の例:「家を買うとき、父から○○万円の援助を受けた。契約書と振込の記録があるので、相続の話し合いのときに見せる。父は遺言で、この分を持ち戻さなくてよいと書いている。」
もめてしまったときの相談先
すでに兄弟の間で生前贈与の扱いが争いになっているなら、話し合いの進め方を一人で抱え込まないことです。他の相続人との交渉の代理や、遺産分割・遺留分についての個別の法的判断は、弁護士法72条で弁護士の仕事とされています。家庭裁判所の遺産分割調停を使えば、調停委員を間に入れて話し合えます。
相談の前に、贈与契約書・振込記録・贈与税の申告書の控え・親の遺言の写しを時系列に並べておくと、限られた相談時間で状況を伝えやすくなります。相談窓口の番号と受付時間は相続・不動産売却の相談先一覧にまとめています。
よくある質問
Q. 兄弟に内緒で親から贈与を受けても、相続のときに分からなければ問題ないのでは?
相続の手続きでは、親の通帳の履歴や相続税の申告書の加算欄など、贈与が見える場面がいくつもあります。後から見つかると「隠していた」こと自体が不信の種になり、話し合いが長引きがちです。贈与そのものより、知らされていなかったことへの反発がこじれる原因になりやすい点を考えておきます。
Q. 生前贈与を受けた分は、相続の取り分から差し引かれますか?
婚姻・養子縁組のため、または生計の資本としての贈与は、遺産分割で持ち戻しの対象になる(民法903条)と定められていますが、どの贈与がこれに当たるかは個別の事情で決まります。親が遺言などで「持ち戻さなくてよい」という意思を示していれば、それに従います。相続人の間で合意できないときは家庭裁判所が判断します。
Q. 親の生前に、兄弟から「遺留分はいらない」と言ってもらえば安心ですか?
口約束や念書だけでは、相続開始前の遺留分の放棄の効力は生じません。民法1049条で、相続開始前の放棄は家庭裁判所の許可を受けたときに限り効力が生じるとされています。許可の申立てをするのは放棄する本人で、他の兄弟が代わりに進めることはできません。
出典・参考にした公的な情報
- 民法 第549条・第903条・第904条の3・第1042条〜第1049条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)(国税庁)
- No.4103 相続時精算課税の選択(国税庁)
- No.4402 贈与税がかかる場合(国税庁)
- 弁護士法 第72条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。