生前贈与と贈与税 / Q&A

生前贈与と遺留分:何年前の贈与まで遺留分の計算に入るか

この記事のもくじ
  1. 何年前の生前贈与まで遺留分の計算に入るか
  2. 暦年贈与・相続時精算課税・非課税の特例は遺留分でどう扱われるか
  3. 相続税の7年加算・特別受益とは「期間」が別
  4. 贈る側・受け取った側が今のうちにできる備え
  5. 「生計の資本か」「損害を知っていたか」の判断は弁護士の仕事

生前贈与が遺留分の計算に入るかは、誰が受け取ったかで期間が決まります。相続人(子・配偶者など)への贈与は相続開始前の10年間のもので、婚姻・養子縁組のため、または生計の資本として受けた贈与に限られます。相続人以外(孫・子の配偶者・知人など)への贈与は相続開始前の1年間のものです。どちらも、贈った人ともらった人の双方が遺留分を持つ人に損害を与えると知っていた贈与は、期間より前でも入ります(民法1044条)。相続税の「7年加算」とは別の決まりなので、混ぜずに考えます。

何年前の生前贈与まで遺留分の計算に入るか

遺留分を計算するときの土台は、亡くなった時の財産に一定の生前贈与を足し、借金の全額を引いた額です(民法1043条)。足す贈与の範囲を、受け取った人ごとに並べると次のとおりです。

受け取った人 入る贈与の期間 入る贈与の中身
子・配偶者など相続人 相続開始前10年以内 婚姻・養子縁組のため、生計の資本としての贈与
代襲相続人になった孫 相続人として10年の決まりが問題になる 代襲相続人になる前の贈与か後の贈与かで扱いが分かれうる
相続人でない孫・子の配偶者 相続開始前1年以内 贈与の全部
知人・団体・会社など 相続開始前1年以内 贈与の全部
だれであっても、双方が損害を知っていた場合 上の期間より前も入る 該当する贈与

「生計の資本」として受けた贈与は、条文に例が並んでいるわけではありません。住宅を買う資金、独立開業の資金のように、生活の基盤をつくるためのまとまった援助が問題になりやすい一方、毎月の生活費の援助や通常の学費まで入るとは限りません。どの贈与が当たるかは家族ごとの事情で判断されるため、ここでは「当たるかどうかが争点になりうる贈与」を洗い出すところまでを目標にします。

もう一つの注意は金額の数え方です。足す贈与の価額は、贈与した時ではなく相続開始の時の価額で見ます(1044条2項が904条を準用)。10年前に1,500万円で贈与した土地が、亡くなった時に2,000万円になっていれば、計算に入るのは2,000万円です。基礎となる財産から侵害額までの計算の手順は、遺留分の計算方法:基礎となる財産の出し方と具体例で順を追って説明しています。

たとえば亡くなった日が2026年10月1日だったとして、次の5つの贈与があったとします(期間の当てはめを示すための筆者の設例で、実在の事例ではありません)。相続人への贈与は2016年10月1日以後、相続人でない人への贈与は2025年10月1日以後のものが入ります。

贈与の内容 受け取った人 計算に入るか
2024年3月、住宅購入の資金500万円 長男(相続人) 入る。10年以内で、生計の資本に当たりうる
2019年4月、結婚の支度金200万円 長女(相続人) 入る。10年以内で、婚姻のための贈与
2013年6月、事業の開業資金300万円 長男(相続人) 原則として入らない。10年より前のため(親と長男の双方がほかの相続人の遺留分を害すると知っていた場合を除く)
2025年12月、100万円 長男の子(相続人でない孫) 入る。1年以内のため、金額や目的は問われない
2024年5月、100万円 同じ孫 原則として入らない。1年より前のため

孫への100万円のように少額でも、時期と受け取った人の条件に合えば入ります。「いくらまでなら入らない」という金額の線はなく、年110万円を目安にする贈与税の考え方とは別の物差しです。

暦年贈与・相続時精算課税・非課税の特例は遺留分でどう扱われるか

よくある誤解が「贈与税の手続きをきちんと済ませた贈与なら、相続のときに蒸し返されない」というものです。税の決まりと遺留分の決まりは根拠の法律が違うので、税で非課税・申告済みでも、遺留分の計算から外れるわけではありません。代表的な贈与の方法ごとに並べます。

早見表:贈与の方法ごとの「税の扱い」と「遺留分での扱い」
贈与の方法 税の扱い(国税庁) 遺留分の計算での扱い(民法)
暦年贈与(年110万円以下) 贈与税はかからない。相続開始前の一定期間の贈与は相続税の計算に加算 受け取った人と期間・中身で判断。110万円以下でも対象から外れない
相続時精算課税 特別控除2,500万円、年110万円の基礎控除。亡くなった時に贈与時の価額で相続財産に加算 相続人への贈与として10年・中身で判断。税の加算とは別に考える
住宅取得等資金の非課税 2026年12月31日までの贈与が対象(延長は今後の税制改正で決まる) 住宅資金は生計の資本として争点になりやすい
贈与税の配偶者控除(婚姻20年以上) 居住用不動産などで最高2,000万円控除 配偶者は相続人なので10年の決まりで判断

相続時精算課税を選ぶと、贈与した財産は亡くなった時に贈与時の価額で相続税の計算に戻されます。ここで戻されるのはあくまで税の計算の話で、遺留分の計算では相続開始時の価額を使う点も違います。「精算課税だから相続のときに全部持ち戻される、だから遺留分も安心」とはつながりません。制度そのものの仕組みは相続時精算課税とは:2,500万円の特別控除と110万円の基礎控除で扱います。

相続税の7年加算・特別受益とは「期間」が別

生前贈与には、似た名前の「さかのぼる期間」が3つあります。数字が近いので混同されやすいところです。

決まり 何のための期間か 期間
遺留分の計算(民法1044条) 遺留分を出す土台に足す贈与の範囲 相続人へ10年、相続人以外へ1年
特別受益の持ち戻し(民法903条) 遺産分割で各相続人の取り分を調整 条文上の期間の区切りなし(ただし相続開始から10年を過ぎた遺産分割では原則として主張できなくなる:904条の3)
相続税の生前贈与加算(国税庁 No.4161) 相続税の計算に足す贈与の範囲 相続開始が2026年12月31日までは3年。2027年1月1日以後は段階的に延び、2031年1月1日以後は7年

たとえば相続開始の8年前に子が受けた住宅資金の贈与は、相続税の加算期間(2026年中の相続なら3年)からは外れていても、遺留分の計算では10年の範囲に入りうるということです。反対に、相続人でない孫への5年前の贈与は、相続税では財産を相続しない孫なら原則として加算されず、遺留分でも1年より前なので原則は入りません。加算期間が延びていく日付ごとの早見表は生前贈与の加算期間:3年から7年へ、相続開始日ごとの早見表で確かめられます。

贈る側・受け取った側が今のうちにできる備え

遺留分は、相続が始まってから請求するかどうかを相続人が決める権利です。生前にできるのは、争いの材料を減らし、話し合いの土台をそろえておくことです。

贈る側(親)ができること

  1. 贈与の記録を残す:年ごと・相手ごとに、日付・金額・目的(住宅資金、学費など)を書いた贈与契約書と振込の記録を保管する。
  2. 遺言で全体の配分を示す:生前に一人へ多く渡したなら、遺言でほかの相続人の取り分をどう考えたかを書いておく。遺言があっても遺留分は請求されうる点は遺言書があっても遺留分は請求される?作る側・受ける側の備えで扱っています。
  3. 遺留分の放棄を検討する場合は家庭裁判所の許可が要る:相続開始前の遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り効力が生じます(民法1049条)。手続きの流れは生前の遺留分放棄と相続開始後の扱いを参照してください。

受け取った側(子など)ができること

  • もらった時期・金額・使い道の記録(契約書、振込明細、住宅の売買契約書など)を、相続が始まるまで捨てずに持っておく。
  • 遺留分侵害額請求は、物を返す請求ではなく金銭の支払いの請求です(民法1046条)。請求されたときに慌てないよう、贈与を受けた財産の今の価額の目安を把握しておく。
  • 支払う順番は、遺贈を受けた人が先で、贈与を受けた人が後です。贈与を受けた人が複数いれば、新しい贈与から順に負担します(民法1047条)。

文例(贈与契約書の目的欄):「贈与者〇〇は、受贈者〇〇の住宅取得の資金として、金〇〇円を贈与し、受贈者はこれを受諾した。」

請求する側の期限は、相続の開始と遺留分を侵害する贈与・遺贈を知った時から1年、相続開始から10年です(民法1048条)。期限の数え方と請求の記録の残し方は遺留分の時効:1年と10年はいつから数える?にまとめています。

「生計の資本か」「損害を知っていたか」の判断は弁護士の仕事

この記事で示したのは、どの贈与が計算に入る可能性があるかを見分ける枠組みです。実際の事案で、ある贈与が生計の資本に当たるか、双方が損害を知っていたと言えるか、侵害額がいくらになるかは、事実と証拠をもとに判断することになり、それを他人のために業として行えるのは弁護士です(弁護士法72条)。

相談に行く前に、次の資料をそろえておくと話が早く進みます。

  • 亡くなった人(被相続人)の財産と借金の一覧
  • 生前贈与の一覧(日付・相手・金額・目的・記録の有無)
  • 遺言書の写し(あれば)
  • 相続人の一覧(戸籍で確かめたもの)

兄弟の間で生前贈与の説明がつかずもめそうな場面の整理は生前贈与で相続トラブルになる例:兄弟への説明と遺留分の考え方で、どの専門家に何を頼むかは相続手続きの専門家の違い:弁護士・司法書士・税理士・行政書士の頼み分けで確かめられます。車や株など財産の種類ごとの贈与は、たとえば車の生前贈与:名義変更の手続きと贈与税がかかる金額の目安のように手続きが分かれます。これから生前の対策全体を組み立てる人は、次に生前の相続対策は何から?財産の一覧・遺言・贈与・信託の順番へ進んでください。

よくある質問

Q. 贈与税を払った贈与や、非課税の特例を使った贈与も遺留分の計算に入りますか?

入るかどうかは民法の決まりで判断し、贈与税を払ったか・非課税だったかは関係しません。相続人への贈与なら相続開始前10年以内で、婚姻・養子縁組のため・生計の資本としての贈与に当たるものが対象です。税の手続きが済んでいることと、遺留分の計算から外れることは別の話です。

Q. 20年前に兄だけが家を建てる資金をもらっていました。遺留分では考えられませんか?

相続人への贈与で遺留分の計算に入るのは、原則として相続開始前10年以内のものです。ただし、贈与した親ともらった兄の双方が、ほかの相続人の遺留分を害すると知っていた場合は10年より前の贈与も入ります。また、遺産分割の場面では特別受益として別に考える余地があります。どちらに当たるかは事実関係で決まるので、資料をそろえて弁護士に確かめる場面です。

Q. 孫への生前贈与は、遺留分の計算に入りますか?

孫が相続人でなければ「相続人以外への贈与」として扱われ、入るのは原則として相続開始前1年以内の贈与です。子が先に亡くなっていて孫が代わりに相続人(代襲相続人)になっている場合は、相続人への贈与として10年の決まりが問題になります。ただ、代襲相続人になる前に受けた贈与をどう扱うかは事情で分かれうるので、贈与の日付と、子が亡くなった日を並べて弁護士に確かめます。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

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