相談先と専門家の選び方 / 制度解説

相続で司法書士に頼めること:登記・書類作成・相続放棄の範囲と流れ

この記事のもくじ
  1. 相続で司法書士がすること:司法書士法3条の5つの業務
  2. 相続で司法書士に頼めないこと:交渉・税金・家庭裁判所の代理
  3. 依頼から相続登記の完了までの流れ
  4. 相続放棄を頼むときの範囲と期限
  5. どこまで頼むかの決め方:3つの範囲
  6. 依頼する前に準備しておくこと

相続で司法書士に頼めるのは、主に相続した不動産の名義を変える登記(相続登記)の申請の代理と、法務局や家庭裁判所に出す書類の作成、そしてそれらについての相談です。根拠は司法書士法3条1項で、遺産分割協議書や相続関係説明図の作成、相続放棄の申述書の作成もこの範囲で引き受けてもらえます。一方、相続人どうしの交渉や相続税の申告は司法書士の仕事ではありません。この記事では、頼める範囲と頼めない範囲を条文に沿って分け、依頼から完了までの流れと、どこまで頼むかの決め方を示します。

相続で司法書士がすること:司法書士法3条の5つの業務

司法書士法3条1項は、司法書士が他人の依頼を受けて行う業務を号ごとに定めています。相続の場面に当てはめると次のとおりです。

条文(3条1項) 業務の中身 相続の場面での例
1号 登記・供託の手続の代理 亡くなった人(被相続人)名義の土地・建物を相続人名義に変える相続登記の申請
2号 法務局に出す書類の作成 登記申請書、相続関係説明図、登記の添付書類としての遺産分割協議書
3号 登記・供託の審査請求の代理 登記官の処分に不服があるときの手続
4号 裁判所・検察庁に出す書類の作成 相続放棄の申述書、遺言書の検認の申立書、遺産分割調停の申立書
5号 1〜4号についての相談 誰の名義にするか決めた後の登記の進め方、必要書類の相談

このうち1号と2号の登記の仕事は、司法書士会に入会した司法書士・司法書士法人でない者が仕事として行うことを73条1項が禁じています。ただし「他の法律に別段の定め」があれば別で、弁護士は弁護士法3条の「一般の法律事務」として登記の代理もできます。正確には「登記の代理を仕事として受けるのは主に司法書士(と弁護士)」です。

もう一つ押さえたいのは、4号が書類の作成であって、家庭裁判所の手続の代理ではない点です。相続放棄でも遺産分割調停でも、裁判所に出す書類は司法書士が作れますが、期日に代理人として出席したり、相手方と交渉したりするのは弁護士の仕事になります。

早見表:相続の手続きと担当する資格
手続き 主に担う資格 司法書士の関わり方
相続登記(不動産の名義変更) 司法書士(弁護士も可) 申請の代理・書類作成
相続放棄の申述 書類作成は司法書士、代理は弁護士 申述書の作成と相談
遺産分割協議書 司法書士・行政書士・弁護士 登記に使う協議書の作成
相続人どうしの交渉・調停の代理 弁護士 関わらない
相続税の申告・税額の相談 税理士 関わらない

相続で司法書士に頼めないこと:交渉・税金・家庭裁判所の代理

依頼してから「それはできません」と言われないように、司法書士の仕事でないものを先に知っておきます。

  1. 相続人どうしの交渉や調停の代理:弁護士法72条は、弁護士でない者が報酬を得る目的で法律事件の代理・和解などを扱うことを禁じています。遺産の分け方でもめている、他の相続人に代理人として話をしてほしい、という依頼は弁護士の領域です。司法書士の簡易裁判所での代理(認定司法書士・140万円以下)は、家庭裁判所の手続である遺産分割には当てはまりません。
  2. 相続税の申告と税額の相談:税理士法2条・52条により、申告書の作成や課税標準の計算の相談は税理士(と国税局長に通知した弁護士)の仕事です。なお登録免許税は税理士業務の対象の税から除かれているので、相続登記にかかる登録免許税の計算は司法書士が登記と一緒に扱います。
  3. 建物の表題登記や土地の測量:登記のない建物の表題登記など、調査・測量を伴う表示に関する登記は土地家屋調査士の仕事です。

もめている相続なら相続で弁護士に頼むべきときを、各資格の違いを一覧で見たいなら相続手続きの専門家の違いを先に読んでください。

依頼から相続登記の完了までの流れ

司法書士に相続登記を頼むときの一般的な流れです。事務所によって順番が前後することはありますが、本人が用意するもの・決めることは大きく変わりません。

  1. 相談・見積もり:被相続人の名前、不動産の所在(固定資産税の納税通知書があれば持参)、相続人の顔ぶれを伝えます。司法書士法施行規則22条により、司法書士は受任の前に報酬額の算定方法などの報酬の基準を示すことになっています。
  2. 戸籍などの収集:被相続人の出生から死亡までの戸籍・除籍、相続人の戸籍、住民票などを集めます。司法書士が職務として取り寄せる形と、本人が集めて渡す形があり、費用が変わります。
  3. 遺産の分け方の確定:遺言があるか、なければ相続人全員で誰が不動産を取得するかを決めます。決めるのは相続人で、司法書士は決まった内容を書面にします。
  4. 書類の作成と署名押印:遺産分割協議書、相続関係説明図、登記申請書、委任状を作り、相続人が内容を確かめて署名押印します。
  5. 申請と完了:司法書士が管轄の法務局に申請し、完了後に新しい名義人の登記識別情報通知を受け取り、登記事項証明書で名義が変わったことを確かめます。

相続登記の申請には期限があり、相続の開始を知り、かつ不動産を取得したことを知った日から3年以内とされています(不動産登記法76条の2)。「亡くなった日から3年」ではない点に注意してください。期限や過料の扱いは相続登記の義務化の解説にまとめています。

相続放棄を頼むときの範囲と期限

相続放棄は、司法書士に頼める手続きの中で期限がいちばん短いものです。裁判所の案内では、申述は自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所へ行います。費用は申述人1人につき収入印紙800円と、連絡用の郵便切手(額は裁判所ごとに異なる)です。

司法書士が引き受けるのは、申述書と添付する戸籍などの書類を作る部分(司法書士法3条1項4号)で、家庭裁判所に本人の代理人として出る役割ではありません。裁判所から届く照会書への回答も、基本は本人が書く場面として残ります。

  • 3か月の期限が近い人は、依頼先を比べる前に、書類作成を受けてもらえる日程があるかを最初の電話で聞きます。
  • 「財産を調べてから決めたい」場合は、放棄するかどうかの判断そのものは相続人が行います。司法書士が決めてくれるわけではありません。
  • 相続人の間で放棄する人としない人が分かれそうなときは、弁護士にも相談します。

質問の例:「相続放棄の申述書の作成をお願いしたいです。死亡を知ってから○週間たっています。裁判所に出す日までの段取りと、報酬・実費を教えてください」

どこまで頼むかの決め方:3つの範囲

依頼の範囲は「全部」か「何もしない」かの二択ではありません。手間がかかる部分だけを頼むこともできます。

範囲 本人がすること 司法書士がすること 向いている状況
A 登記だけ 戸籍集め・協議書の作成 申請書の作成と申請 相続人が少なく、戸籍を自分で集められる
B 戸籍集めから登記まで 分け方を決めて署名押印 戸籍収集・協議書・申請 本籍の移動が多い、平日に役所へ行けない
C 預貯金まで含めた遺産承継 分け方を決める 不動産に加え口座の解約・分配 相続人が遠方に散っている、財産の種類が多い

Cは、日本司法書士会連合会が「遺産承継業務」として説明しているもので、司法書士が遺産管理人の立場で預貯金の解約や分配まで行います。扱うかどうかは事務所ごとに違います。範囲が広がるほど報酬は上がるので、費用の内訳は相続の司法書士費用の内訳と見積もりの確かめ方で比べてください。自分でやる範囲を広げたい人は相続で司法書士に頼まないとどうなるかで、本人申請の手間を確かめられます。

範囲を決めるときの目安は次の3つです。

  • 不動産が複数の市区町村にある、または古い相続の名義が残っている(祖父名義など)なら、Bより広く頼むほうが戸籍集めの負担が減ります。
  • 相続人の中に連絡が取りにくい人がいるなら、司法書士にできるのは書類の準備までで、話し合いをまとめるのは相続人です。もめそうなら先に弁護士に相談します。
  • 相続税がかかりそうなら、税理士にも並行して相談します。協議の内容が税額に影響することがあるためです。

依頼する前に準備しておくこと

相談の前に次をそろえておくと、見積もりが正確になり、相談の時間を有効に使えます。持ち物の全体は相続の相談に行く前の準備にまとめています。

  • 固定資産税の納税通知書(不動産の所在と評価額の手がかり)
  • 被相続人の死亡の記載がある戸籍、手元にある戸籍や住民票
  • 相続人の一覧(続柄・住所・連絡がつくか)
  • 遺言書の有無(自筆か公正証書か、法務局に預けていたか)
  • 決まっていれば、誰が不動産を取得するか

相談で確かめたいことの例です。

質問の例:「登記だけを頼む場合と、戸籍の収集から頼む場合で、報酬と実費はそれぞれいくらになりますか。報酬の基準を書面で見せてください」

質問の例:「預貯金の解約もお願いしたいのですが、遺産承継業務として受けていますか。受けていない場合、どこまで手伝ってもらえますか」

司法書士の探し方や面談で見る点は相続に強い司法書士の探し方で手順にしています。戸籍集めと書類作成までを、登記を受けられる資格者のいる事務所にまとめて頼む方法もあります。その場合も、見積書で「どの手続を、どの資格者が、いくらで行うか」を確かめてから選んでください。

よくある質問

Q. 相続登記は司法書士でないと申請できないのですか?

いいえ。相続人本人が自分の相続登記を申請することはできます。司法書士会に入会した司法書士でないと行えないのは、他人の依頼を受けて登記の代理や法務局に出す書類の作成を仕事にすること(司法書士法73条)です。仕事として登記の代理を受けるのは主に司法書士で、弁護士も扱えます。自分で申請する場合の手間は、別の記事で説明しています。

Q. 司法書士に相続放棄の手続きを丸ごと任せられますか?

司法書士が担うのは、家庭裁判所に出す相続放棄の申述書の作成とその相談です。家庭裁判所の手続きで本人の代わりに代理人として動くのは、原則として弁護士の仕事です。照会書への回答など本人が対応する場面が残ることを前提に、どこまで手伝ってもらえるかを依頼前に確かめます。

Q. 預貯金の解約も司法書士に頼めますか?

日本司法書士会連合会は、司法書士が遺産管理人として預貯金の解約や分配までを行う「遺産承継業務」を設例に挙げています。扱っているかどうか、報酬の決め方は事務所ごとに違うので、相談の段階で業務の範囲として聞いてください。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

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