遺言書で寄付する書き方:遺贈寄付の文例と受け取り先に確かめること
遺言書で団体に寄付するには、「〇〇(団体の正式名称)に、金〇〇万円を遺贈する」のように、受け取り先と財産を特定して「遺贈する」と書きます。金額や特定の財産を渡す特定遺贈と、財産の割合で渡す包括遺贈があり、包括遺贈を受けた団体は相続人と同じ権利義務を持つため借金も引き継ぐ立場になります(民法990条)。不動産や株式は団体が受け取りを断ることがあるので、書く前に受け取り先に確かめることが大切です。この記事では文例と、受け取り先・税金・遺言執行者について確かめることを整理します。
遺言書で寄付する文例:特定遺贈・包括遺贈・売ってから寄付
遺言者は、遺言で財産の全部または一部を処分できます(民法964条)。寄付の遺言は、次の3つの形のどれかで書くのが一般的です。
文例1:金額を決めて寄付する(特定遺贈)
第1条 遺言者は、遺言者の有する預貯金のうち金〇〇〇万円を、公益財団法人〇〇〇〇(主たる事務所 〇〇県〇〇市〇〇町〇番〇号、法人番号〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇)に遺贈する。
文例2:割合で寄付する(包括遺贈)
第1条 遺言者は、遺言者の有する一切の財産の3分の1を、特定非営利活動法人〇〇〇〇(主たる事務所 〇〇県〇〇市〇〇町〇番〇号)に包括して遺贈する。
文例3:不動産を売り、代金から寄付する
第1条 遺言執行者は、遺言者の有する次の不動産を売却し、その代金から売却に要した費用を差し引いた残額を、社会福祉法人〇〇〇〇(主たる事務所 〇〇県〇〇市〇〇町〇番〇号)に遺贈する。 (不動産の表示) 第2条 遺言者は、この遺言の遺言執行者として、〇〇〇〇(住所、生年月日)を指定する。
文例4:使い道の希望と、予備の定めを添える
第3条 前条の遺贈は、〇〇〇〇が行う〇〇の事業に役立ててほしい。 第4条 公益財団法人〇〇〇〇が解散その他の理由で前条の遺贈を受けることができないときは、その財産を〇〇〇〇に遺贈する。
使い道の希望は、団体が受け入れられる範囲かを先に確かめておきます。配偶者に残す遺言の予備として、配偶者が先に亡くなったときだけ団体に遺贈する、という書き方もあります。その形は子どものいない夫婦の遺言書の予備の定めを参考にします。配偶者が受け取った後の残りを団体へ、と受け取った人の次の行き先まで遺言で縛ることは、効力に争いが出やすいので、公証人や弁護士・司法書士に確かめてください。
| 比べる点 | 特定遺贈(金額・特定の財産) | 包括遺贈(財産の割合) |
|---|---|---|
| 書き方 | 「金〇〇万円を遺贈する」「次の土地を遺贈する」 | 「一切の財産の3分の1を包括して遺贈する」 |
| 借金の扱い | 原則として引き継がない | 相続人と同じ権利義務を持つ(民法990条) |
| 団体が受けるかの判断 | 受け取りやすい(金銭なら特に) | 借金の可能性があるため断る団体もある |
| 断る方法 | 遺言者の死亡後いつでも放棄できる(民法986条) | 相続人と同じ権利義務を持つので(民法990条)、相続の承認・放棄と同様に、知った時から3か月以内に判断する扱いになる(民法915条。手続きは家庭裁判所に確かめる) |
| 遺産分割の話し合い | 加わらない | 相続人と一緒に分け方を決める立場になる |
受け取り先の団体に確かめること
遺贈は、受け取る側が放棄できます(民法986条)。せっかく書いても、団体が受け取らなければ、その財産は相続人に回ります。遺言を書く前に、団体の窓口(遺贈・遺産寄付の担当)に次のことを確かめます。
- 正式名称・主たる事務所・法人番号:遺言書に書く名称は、国税庁の法人番号公表サイトで法人番号・名称・所在地を照らし合わせると、書き間違いを防げます。
- 受け入れる財産の種類:現金・預金なら受け入れる団体が多い一方、不動産・株式・車・貴金属は、管理や売却の手間から受け取りを断る、または売却して現金化した後でのみ受ける団体があります。
- 包括遺贈を受けるか:割合での遺贈は借金も引き継ぐ立場になるため、受けるかどうかは団体の方針によります。
- 使い道の指定ができるか:特定の事業に使ってほしい場合、受けられる指定の範囲を確かめます。
- 公益法人・認定NPO法人などに当たるか:下で説明するとおり、寄付する財産の種類によっては、団体の種類で税金の扱いが変わります。
- 遺言執行者との連絡方法:亡くなった後、誰が団体に連絡するのかを決めておきます。
団体への問い合わせの例:「遺言で貴団体に遺贈を考えています。受け入れている財産の種類と、遺言書に記載する正式名称・所在地を教えてください。不動産の場合は受け入れが可能かも伺えますか。」
寄付の遺言と税金:所得税(みなし譲渡)と相続税
寄付の遺言で見落としやすいのが、不動産や株式を法人に遺贈したときの所得税です。所得税法59条は、法人に対する遺贈があった場合、その時の価額(時価)で資産を譲渡したものとみなすと定めています。国税庁の案内(No.3105)でも、法人に財産を贈与・遺贈した場合は時価で譲渡があったものとされると説明されています。亡くなった人の譲渡所得として扱われるため、相続人が行う準確定申告に関わり、相続人の手続きと負担が増えることがあります。
一方で、国や地方公共団体に寄附した場合、また公益を目的とする事業を行う法人等への寄附で国税庁長官の承認を受けた場合は、所得税が課税されない扱いがあります(国税庁 No.3108、租税特別措置法40条)。承認には、寄附した財産が2年以内に公益目的事業に直接使われることなどの要件と、申請の期限があります。遺贈の場合に誰がいつ申請するかを含めて、遺言を書く段階で税理士に確かめておくと安心です。
現金・預金を遺贈する場合は、このみなし譲渡の問題は生じません。不動産を寄付したい場合に、文例3のように「売却して代金を寄付する」形にする方法があるのは、主に、団体が不動産そのものを受け取らなくても寄付が実現できるためです。ただし、売却したときの譲渡所得の扱いは別に生じるので、どの形が負担が小さいかは税理士に試算を頼みます。
相続税については、納める義務がある人は、相続や遺贈で財産を取得した「個人」と定められています(相続税法1条の3)。法人である団体が遺贈を受けても、原則として団体に相続税はかかりません。ただし、代表者の定めのある人格のない社団・財団は個人とみなして課税され、持分の定めのない法人への遺贈で親族などの税の負担が不当に減ると認められる場合も同様に扱われます(相続税法66条)。相続税の課税価格は財産を取得した個人ごとに計算して合計するので(国税庁 No.4152)、法人への遺贈分は家族の課税価格には入りません。家族の側に相続税がかかるかの目安は相続税の基礎控除で確かめます。
家族の遺留分と、遺言執行者の指定
子や配偶者がいる人が多額を寄付する場合、その人たちの遺留分に気を配ります(民法1042条)。遺留分を下回る内容でも遺言は有効ですが、遺留分を持つ相続人は、遺贈を受けた団体に侵害額のお金を請求できます(民法1046条)。団体が家族との争いに巻き込まれると、寄付そのものが負担になりかねません。考え方は遺言書があっても遺留分は請求される?にまとめています。兄弟姉妹と甥姪には遺留分がないので、子のいない人が寄付を考えるときは、この点の心配は小さくなります。
寄付の遺言では、遺言執行者を指定しておくと手続きを進めやすくなります(民法1006条)。遺言執行者がいる場合、遺贈の履行は遺言執行者だけが行えると定められており(民法1012条)、団体への連絡、預金の解約、不動産の売却と代金の引き渡しを一人で進められます。相続人が遠方にいる、関係が疎遠といった場合にも、寄付が滞りにくくなります。執行者の役割と報酬の考え方は遺言執行者とは?指定された人の役割で、ほかの家族構成の例文は遺言書の書き方の例文集で確かめられます。甥姪にも一部を残したい場合は、次の遺言書で甥に相続させる書き方を参考にしてください。
よくある質問
Q. 寄付先の団体が、遺言者が亡くなる前に解散していたらどうなりますか?
受け取る相手がいなくなれば、その遺贈は実現できず、財産は相続人の間で分ける遺産に戻ると考えておくのが安全です。行き先を遺言者の意思で決めておきたいなら、「〇〇が解散その他の理由で受け取れないときは、△△に遺贈する」と予備の定めを書いておきます。
Q. 相続人が、遺言で寄付するはずだった財産を団体に寄付し直すのとは何が違いますか?
遺言による寄付は亡くなった人が寄付する形で、相続人がいったん相続した財産を申告期限までに国や特定の公益法人、認定NPO法人などに寄附する場合は、その財産を相続税の対象としない別の特例があります(国税庁 No.4141)。どちらの形が家族の事情に合うかは、税理士に事実関係を伝えて確かめます。
Q. 公正証書遺言と自筆証書遺言、寄付にはどちらが向いていますか?
どちらの方式でも寄付の遺言は書けます。公正証書遺言は公証人が関わるので方式の不備で争われにくく、亡くなった後の検認も要りません。自筆証書遺言でも、法務局の保管制度を使えば検認は要りません。団体の名称の書き間違いや、相続人との争いを避けたい場合は、公正証書を選ぶ判断材料になります。
出典・参考にした公的な情報
- 民法 第964条・第986条・第990条・第994条・第1006条・第1012条・第1042条・第1046条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 所得税法 第59条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 相続税法 第1条の3・第66条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法(国税庁)(国税庁)
- No.3108 国や地方公共団体又は公益を目的とする事業を行う法人等に財産を寄附したとき(国税庁)(国税庁)
- No.4152 相続税の計算(国税庁)(国税庁)
- No.4141 相続財産を公益法人などに寄附したとき(国税庁)(国税庁)
- 国税庁法人番号公表サイト(国税庁)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。