遺言執行者とは?指定された人の役割と、いない時の家庭裁判所での選任
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遺言執行者とは、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利と義務を持つ人です(民法1012条1項)。遺言者は遺言で執行者を指定するか、指定を第三者に任せることができ(1006条)、指定がない・いなくなったときは、相続人などの利害関係人の申立てで家庭裁判所が選任できます(1010条)。指定された人は引き受けるかどうかを決められ、引き受けた後に辞めるには正当な事由と家庭裁判所の許可が要ります(1019条2項)。報酬は遺言に定めがあればそれに従い、なければ家庭裁判所が定めることができます(1018条)。
遺言執行者とは:権限と、相続人との関係
遺言執行者がいると、遺言の中身を実現する手続きを、相続人全員の協力を待たずに進められるようになります。民法の定めを、場面ごとに整理します。
| 場面 | 定め | 条文 |
|---|---|---|
| 権限の範囲 | 遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他執行に必要な一切の行為ができる | 1012条1項 |
| 遺贈の履行 | 執行者がいるときは、遺贈を実行できるのは執行者だけ | 1012条2項 |
| 相続人の行為 | 相続人は財産の処分など執行を妨げる行為ができず、反した行為は無効(善意の第三者には対抗できない) | 1013条 |
| 不動産・預金 | 特定の財産を特定の相続人に相続させる遺言では、登記などの対抗要件を備える行為、預貯金の払戻し・(全部が対象なら)解約の申入れができる | 1014条2項・3項 |
| 行為の効果 | 執行者であることを示して権限内でした行為は、相続人に直接効力を生じる | 1015条 |
| 人に任せる | 自分の責任で第三者に任務を行わせることができる(遺言に別の定めがあればそれに従う) | 1016条 |
| 複数いるとき | 任務は過半数で決める。保存行為は各自でできる | 1017条 |
1014条2〜4項は、2019年7月1日に施行された民法改正で設けられた規定で、改正法の附則により、それより前にされた特定の財産に関する遺言の執行には適用されません。古い遺言の執行者になった場合は、この点を念頭に置きます。
公正証書遺言でも自筆証書遺言でも、執行者の権限は同じです。違うのは開始までの道のりで、自筆証書遺言は家庭裁判所の検認を経てから執行に入ります(遺言書の検認の手続き)。公正証書遺言と法務局で保管された遺言は検認がいらないので、執行者は戸籍などの書類がそろえばすぐに動けます。遺言を作る側が公正証書で執行者を指定する場面は公正証書遺言の作り方で扱っています。
遺言執行者に指定されたら:引き受けるかの判断と任務の流れ
遺言で自分が執行者に指定されていると分かったら、まず引き受けるかどうかを決めます。相続人などは、相当の期間を定めて「引き受けるかどうか答えてほしい」と催告でき、その期間内に答えないと引き受けたものとみなされます(1008条)。迷っているうちに承諾扱いにならないよう、返事は期限内にはっきり伝えます。なお、未成年者と破産者は執行者になれません(1009条)。
引き受けた後の任務は、おおむね次の順に進みます。
- 直ちに任務を始める(1007条1項)。遺言書(検認が必要なものは検認済み)と戸籍で、相続人と財産を確かめます。
- 相続人に遺言の内容を通知する(1007条2項)。遅滞なく、遺言の内容を相続人全員に知らせます。
- 財産目録を作って相続人に渡す(1011条)。相続人から求められれば、その立会いのもとで作るか、公証人に作らせます。
- 財産を管理し、遺言の内容を実行する。 不動産の名義変更、預金の払い戻し・解約、受け取る人への引き渡しなどです。委任の規定が準用され、善良な管理者の注意をもって行い(644条)、求めがあれば経過を報告します(645条)。
- 受け取った金銭などを引き渡す(646条)。執行のために支出した費用は請求できます(650条)。
- 任務が終わったら報告する。 経過と結果を相続人に知らせて区切りをつけます。
相続人への通知は、事実と今後の予定を短くまとめると伝わります。
文例:「父〇〇の公正証書遺言(〇年〇月〇日作成)で、私が遺言執行者に指定されていました。本日、執行者に就くことを承諾しました。遺言の写しを同封します。財産目録は〇月中にお送りし、預金の解約と不動産の名義変更を進めます。」
辞退・辞任・解任:途中で替わる場合
| 場面 | どうなるか | 条文 |
|---|---|---|
| 引き受ける前に断りたい | 引き受けない旨を相続人に伝える。催告の期間内に答えないと承諾とみなされる | 1008条 |
| 引き受けた後に辞めたい | 正当な事由があるとき、家庭裁判所の許可を得て辞任できる | 1019条2項 |
| 執行者が任務を怠っている | 利害関係人が家庭裁判所に解任を請求できる | 1019条1項 |
| 手続きの一部を専門家に頼みたい | 自分の責任で第三者に任務を行わせられる | 1016条 |
辞めたいほどではないが手続きが重いという場合は、1016条を使って登記や預金の手続きを専門家に頼み、自分は全体の監督と相続人への連絡に回る方法もあります。辞任や解任で執行者がいなくなったときは、次の章の選任の手続きで後任を決めます。
遺言執行者がいない時:家庭裁判所での選任の手続き
遺言に執行者の指定がなくても、受け取る人が自分で名義変更を進められる場面があります。相続人が不動産を受け取る遺言なら、受け取る人が単独で登記を申請できます(不動産登記法63条2項・3項)。一方、相続人でない人への遺贈の登記は、原則として登記を受ける側と渡す側が共同で申請します(同法60条)。遺贈の実行に相続人全員の協力が得られないときや、遺言の内容の実現に執行者の選任が必要と言われたときは、家庭裁判所に選任を申し立てます。遺言で推定相続人の廃除の意思が示されている場合は、遺言執行者が家庭裁判所に請求する決まりです(民法893条)。裁判所の家事事件Q&Aも、遺言執行者が必要と言われた場合は選任の申立てをするよう案内しています。
| 項目 | 内容(裁判所の案内) |
|---|---|
| 申し立てられる人 | 利害関係人(相続人、遺言者の債権者、遺贈を受けた人など) |
| 申立先 | 遺言者の最後の住所地の家庭裁判所 |
| 費用 | 執行の対象となる遺言書1通につき収入印紙800円分と、連絡用の郵便切手 |
| 主な書類 | 申立書、遺言者の死亡の記載のある戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本、執行者の候補者の住民票または戸籍附票、遺言書の写しまたは検認調書謄本の写し、利害関係を示す資料 |
同じ家庭裁判所に検認の記録がある場合は、死亡の記載のある戸籍と遺言書の写しは不要とされています。必要書類に候補者の住民票が入っているとおり、申立てでは執行者の候補者を挙げます。未成年者と破産者でなければ候補者になれるので、親族のほか、司法書士・弁護士などの専門家を候補者にすることもできます。
報酬と費用の考え方
遺言執行者の報酬は、遺言に額や決め方が書かれていればそれに従い、書かれていなければ家庭裁判所が相続財産の状況などを考えて定めることができます(1018条1項)。執行にかかった費用(登記の費用、書類の取得費など)は相続財産から負担しますが、それで遺留分を減らすことはできません(1021条)。
専門家に執行者を頼む、または執行の手続きを頼む場合の報酬は、法令で決まった額がありません。依頼先の料金表と見積書で、基本報酬、財産額に応じた加算、実費の内訳を確かめます。頼める専門家ごとの違いは遺言書の作成の相談先で比べています。
相続人の間で遺言の内容をめぐる争いがある場合は、代行サービスではなく弁護士の領域です。遺言で多くを受け取らない相続人が取り分を求める場面は遺言書があっても遺留分は請求される?作る側・受ける側の備えで、遺言がそもそもあるかを調べる段階は遺言書があるかどうかの調べ方で説明しています。
よくある質問
Q. 相続人の一人が遺言執行者になってもよいですか?
民法1009条が遺言執行者になれないとしているのは、未成年者と破産者だけです。相続人や遺言で財産を受け取る人が執行者に指定されることもあります。ただし、ほかの相続人から見ると利害のある人が財産を管理する形になるので、財産目録の交付や経過の報告を丁寧に行うことが、もめごとを防ぐ助けになります。
Q. 遺言執行者がいると、相続人は自分で預金を引き出したり家を売ったりできませんか?
遺言執行者がある場合、相続人は相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為ができず、これに反した行為は無効と民法1013条に定められています(事情を知らない第三者には無効を主張できない)。遺言の対象の財産を動かしたいときは、まず執行者に相談します。
Q. 公正証書遺言で指定された遺言執行者は、すぐに銀行で手続きできますか?
公正証書遺言は家庭裁判所の検認がいらないので、執行者は検認を待たずに手続きを始められます。特定の預金を特定の相続人に相続させる遺言では、執行者が払い戻しや解約の申入れをできると民法1014条3項にあります。銀行ごとに求める書類が違うので、取引のあった各金融機関の案内で確かめます。
出典・参考にした公的な情報
- 民法 第644条〜第647条・第650条・第1006条〜第1021条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 遺言執行者の選任(裁判所)(最高裁判所)
- 家事事件Q&A 第10 遺言について(裁判所)(最高裁判所)
- 遺言書の検認(裁判所)(最高裁判所)
- 民法 第781条・第893条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 不動産登記法 第60条・第63条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。