子どものいない夫婦の遺言書:全財産を配偶者に残す書き方と文例
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子どものいない夫婦が遺言書を書かないまま一方が亡くなると、財産は配偶者だけのものにはならず、亡くなった人の親、親がいなければ兄弟姉妹(亡くなっていればその子の甥・姪)も相続人になります。兄弟姉妹と甥姪には遺留分がないので(民法1042条)、遺言書で「全財産を配偶者に相続させる」と書いておけば、その内容で手続きを進められます。ただし親が健在なら親には遺留分があります。この記事では、全財産を配偶者に残す遺言の書き方と文例を、夫・妻それぞれの立場で示します。
子どものいない夫婦で、遺言書がないと誰が相続人になるか
配偶者は常に相続人です(民法890条)。子がいないときは、配偶者と一緒に次の順で相続人が決まります(民法889条1項)。
| 亡くなった人の家族 | 配偶者と一緒に相続する人 | 法定相続分(民法900条) | その人の遺留分 |
|---|---|---|---|
| 親(父母・祖父母)が健在 | 親などの直系尊属 | 配偶者2/3、親1/3 | あり |
| 親はいない、兄弟姉妹がいる | 兄弟姉妹 | 配偶者3/4、兄弟姉妹1/4 | なし |
| 兄弟姉妹が先に亡くなっている | その子の甥・姪(代襲) | 配偶者3/4、甥姪1/4 | なし |
遺言書がない場合、預金の解約や自宅の名義変更には、原則として相続人全員の遺産分割協議と署名・実印が要ります。疎遠な兄弟姉妹や、会ったことのない甥姪に連絡を取り、戸籍を集めて協議をまとめるのは、残された配偶者にとって大きな負担です。兄弟姉妹の相続分の数え方は兄弟の相続:子どものいない人が亡くなった時の割合で詳しく扱っています。
遺言書で全財産を配偶者に残す書き方:夫・妻それぞれの文例
自筆で書く場合は、全文・日付・氏名を手書きし、押印します(民法968条1項)。2026年6月成立の改正法で押印は任意になる予定ですが、施行前の今は押印が要ります。夫婦は1枚の紙に連名で書けないので(民法975条)、それぞれ別に書きます。
夫が書く遺言(全財産を妻に)
遺言書 第1条 遺言者〇〇〇〇は、遺言者の有する不動産、預貯金、株式その他一切の財産を、妻〇〇〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。 第2条 遺言者は、この遺言の遺言執行者として妻〇〇〇〇を指定する。 令和〇年〇月〇日 住所 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号 遺言者 〇〇〇〇 ㊞
妻が書く遺言(全財産を夫に)
遺言書 第1条 遺言者〇〇〇〇は、遺言者の有する一切の財産を、夫〇〇〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。 第2条 遺言者は、この遺言の遺言執行者として夫〇〇〇〇を指定する。 令和〇年〇月〇日 住所 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号 遺言者 〇〇〇〇 ㊞
「一切の財産」とまとめて書くと、書き漏れがあっても配偶者に行きます。自宅の名義変更を滞りなく進めたい場合は、「一切の財産」の前に不動産を登記事項証明書のとおりに書き出しておくと、手続きの窓口で特定しやすくなります。遺言執行者は遺言で指定でき(民法1006条)、配偶者自身を指定しておくと、銀行や法務局の手続きを配偶者が進めやすくなります。
予備の定めを書いておく:配偶者が先に亡くなったとき
夫婦のどちらが先に亡くなるかは分かりません。遺贈を受ける人が遺言者より先に亡くなると、その遺贈は効力を生じないと定められています(民法994条1項)。「相続させる」と書いた場合も、受け取る人が先に亡くなったときに備えて、次の財産の行き先を書いておくのが安全です。
第3条 妻〇〇〇〇が遺言者の死亡以前に死亡したときは、遺言者の有する一切の財産を、甥〇〇〇〇(平成〇年〇月〇日生)に遺贈する。
予備の行き先の候補は、甥姪、お世話になった友人、支援したい団体などです。甥姪に残す場合の「相続させる」と「遺贈する」の使い分けは遺言書で甥に相続させる書き方で、団体に残す場合の書き方は次の遺言書で寄付する書き方で扱います。
- 夫・妻それぞれが別の遺言書を書いたか(共同遺言は不可)
- 親(直系尊属)が健在か(健在なら親に遺留分がある)
- 全財産を「一切の財産」で受け止める一文があるか
- 遺言執行者を指定したか
- 配偶者が先に亡くなったときの予備の定めがあるか
- 保管の方法を決めたか(自宅・法務局・公正証書)
親が健在な場合の遺留分と、借金・税金の注意
亡くなった人の親が健在な場合、親には遺留分があります。配偶者と親が相続人なら、遺留分全体は財産の2分の1で、親の取り分はその3分の1です(筆者の計算:1/2×1/3=1/6。父母2人なら各1/12)。遺言で全財産を配偶者に残しても、親が請求すれば、その分を配偶者がお金で払うことになります。請求するかどうかは親が決めることです。考え方は遺言書があっても遺留分は請求される?にまとめました。兄弟姉妹については兄弟姉妹に遺留分はない?で、遺言で外された側から見た整理をしています。
借金は遺言どおりには分かれず、お金を貸していた人は法定相続分で各相続人に請求できます(民法902条の2)。住宅ローンや事業の借入れがある場合は、残高と借入先を一覧にして遺言書と一緒に保管しておくと、残された配偶者が判断しやすくなります。
相続税については、配偶者の税額の軽減があり、配偶者が取得した正味の遺産額が1億6千万円か法定相続分相当額の多い方までは相続税がかかりません。申告期限までに分割されていることや、申告書の提出が要件です。全財産を配偶者が相続するときの税額と、次の相続(配偶者が亡くなったとき)で税が増えることがある点は相続税の配偶者控除で扱います。
保管の方法:自筆・法務局保管・公正証書
書いた遺言が見つからなければ、意味がありません。保管の方法は3つあります。
| 方法 | 費用の目安 | 亡くなった後の検認 | 向いている人 |
|---|---|---|---|
| 自筆で書いて自宅で保管 | 紙代のみ | 家庭裁判所の検認が要る | 内容が単純で、すぐ書きたい人 |
| 自筆で書いて法務局に保管 | 保管の申請1件につき3,900円(収入印紙) | 不要 | 紛失や書き換えが心配な人 |
| 公正証書遺言 | 公証人手数料(財産額で決まる) | 不要 | 財産が多い、方式の不備を避けたい人 |
子どものいない夫婦の場合、遺言を見つけるのも、手続きをするのも配偶者一人になりがちです。法務局保管や公正証書なら、検認の手続きがいらず、配偶者の負担を減らせます。法務局での手続きは遺言書の法務局保管制度、方式ごとの違いは自筆証書遺言と公正証書遺言の違いで比べています。
よくある質問
Q. 夫婦で1通の遺言書に「全財産を残された方に」と書いてもよいですか?
2人以上が同じ証書で遺言することは禁じられています(民法975条)。夫は夫の遺言、妻は妻の遺言として、別々の紙に書きます。内容が左右対称になっていても問題ありません。
Q. 遺言で全財産を妻に残せば、夫の借金も妻だけが引き継ぐのですか?
借金は遺言のとおりには分かれません。お金を貸していた人は、遺言で相続分が指定されていても、各相続人に法定相続分に応じて請求できると定められています(民法902条の2)。借金がある場合は、兄弟姉妹など他の相続人にも請求が行くことがあるので、財産と借金の一覧を残しておきます。
Q. 全財産を配偶者に相続させれば、相続税はかかりませんか?
配偶者には、取得した正味の遺産額が1億6千万円か配偶者の法定相続分相当額の多い方まで相続税がかからない軽減の制度があります。ただし申告をしないと使えず、税額がゼロでも申告書の提出が要件になります。かかるかどうかの最初の目安は基礎控除で確かめます。
出典・参考にした公的な情報
- 民法 第887条・第889条・第890条・第900条・第902条の2・第968条・第975条・第994条・第1006条・第1042条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- No.4158 配偶者の税額の軽減(国税庁)(国税庁)
- 自筆証書遺言書保管制度(法務省)(法務省)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。