不動産売却の委任状の書き方:共有者・遠方の人が代理を頼む文例
不動産売却の委任状は、「誰が(委任者)」「誰に(代理人)」「どの物件を」「いくら以上で」「何をする権限を」「いつまで」任せるのかを、1枚で特定できるように書くのが基本です。共有者の一人に窓口を任せる場合も、遠方の家族に立ち会いを任せる場合も、この6点が抜けていると、売却そのものを任せたのか、手続きの連絡役を任せたのかが読み取れません。売買契約と決済の場面では、委任状とは別に、実印と印鑑証明書、司法書士による意思の確認も関わります。
売却の場面ごとに、委任状が必要かどうか
不動産売却のすべての場面で委任状が要るわけではありません。早い段階の連絡は口頭の依頼で足りることがあり、お金と名義が動く場面になるほど書面が求められます。
| 段階 | 代理を頼めるか | 書面の考え方 |
|---|---|---|
| 査定の依頼・価格の相談 | 頼める | 不動産会社が求めなければ委任状は不要なことが多い。共有名義なら全員の了解は取っておく |
| 媒介契約(売り出しを頼む契約) | 頼める | 売主として契約する人の権限を会社が確かめる。共有の物件は全員が売主になる |
| 売買契約の締結 | 頼める | 売買契約の権限を明記した委任状と、本人の意思の確認 |
| 代金の受領・引渡し | 頼める | 代金の受け取り口座を限定して書く |
| 登記の申請 | 司法書士に頼む | 司法書士の書式の委任状に、実印と印鑑証明書 |
共有名義の家を全員で売るときは、共有者全員が売主として売買契約に加わります。窓口役を一人に決め、他の共有者がその人に委任状を出す形は、連絡の手間を減らせます。全員が売る意思で一致しているか、売れた代金をどう分けるかは、委任状の前に話し合っておく事柄です。順番は共有名義の不動産の売却で全員の同意が要る場面にまとめています。
相続した家で、まだ名義が亡くなった人のままなら、売る前に相続登記が必要です。委任状に書く「物件」と「委任者」は登記上の名義人と一致させるため、先に登記を済ませる順番は相続不動産の売却の流れで確認してください。
委任状に書く項目:物件・価格・任せる範囲
委任状に書く内容は、次の表の6項目で整理できます。
| 項目 | 書き方 | 抜けたときの困りごと |
|---|---|---|
| 委任者 | 登記上の住所・氏名。共有なら持分も | 印鑑証明書や登記と合わず、手続きが止まる |
| 代理人 | 住所・氏名。会社に頼むなら商号と担当者名 | 誰が契約できるのか特定できない |
| 物件 | 所在・地番・家屋番号を登記事項証明書のとおり | 別の不動産にも使えてしまう |
| 売る条件 | 売買代金の下限、代金の受け取り口座 | 想定より安く売られる、代金が別の口座に入る |
| 任せる行為 | 契約の締結、代金の受領、引渡しなど具体的に | 権限の外の行為になる |
| 有効期間 | 年月日を入れる | 古い委任状が使われ続ける |
「任せる行為」を具体的に書くのは、民法の定めがあるからです。代理の権限を定めない代理人にできるのは、保存行為と、物の性質を変えない範囲の利用や改良だけとされています(民法103条)。家を売る行為はここに含まれないので、「売買契約を締結すること」まで書いて初めて、売却を任せたことになります。
売却の委任状の文例(共有者の一人に売却を任せる)
委任状 私は、(代理人の住所)(代理人の氏名)を代理人と定め、下記不動産の売却に関し、次の権限を委任します。 1 下記不動産を、売買代金( )万円以上で売却する売買契約を、買主と締結し、契約書に署名押印すること 2 手付金・中間金・残代金を受領すること。ただし、受領は私名義の(銀行名・支店名・口座番号)への振込に限る 3 下記不動産を買主に引き渡し、鍵を渡すこと 4 次の事項は委任に含みません。他の不動産や財産の処分、下記不動産への担保の設定、復代理人の選任 有効期間:( )年( )月( )日まで 記 不動産の表示:(登記事項証明書のとおり) 持分:( )分の( ) ( )年( )月( )日 委任者 住所 氏名 実印
売買代金の下限を書く、代金の受取口座を委任者名義に限る、という2つの限定を入れるのが要点です。代理人が受け取った金銭は委任者に引き渡す義務があります(民法646条)が、口座を限定しておけば、その途中を省けます。
登記を頼む司法書士への委任状
決済日には、売主から買主への所有権移転登記を司法書士が申請します。登記の申請を代理人に頼む場合、書面で申請するときは、その権限を証する書面に申請人が記名押印し、印鑑に関する証明書(印鑑証明書)を添える決まりで、その証明書は作成後3か月以内のものでなければなりません(不動産登記令18条。法務省令で定める例外があります)。申請書に押印する人の印鑑証明書も同じ期間です(同16条)。登記の委任状は司法書士が用意する書式に署名押印するのが通常なので、自分で文面を作る必要はありません。
登記には、売主の登記識別情報も使います。権利に関する登記を登記権利者と登記義務者が共同で申請するときは、申請人が登記義務者の登記識別情報を提供しなければなりません(不動産登記法22条)。提供できない正当な理由があるときは、登記官が売主に事前通知をする方法があり(同23条1項)、登記の代理を業とする代理人が、売主が登記義務者であることの確認に必要な情報を登記官に提供する方法もあります(同条4項1号)。いずれの場合も、売主が誰であるかが問われます。登記識別情報を代理人に預けるなら、預ける相手と範囲を委任状とは別に決めておきます。決済日から逆算して印鑑証明書を取る時期は、不動産売却の決済と引き渡しの書類の項で整理しています。
遠方の人・共有者が代理を頼むときの注意
遠方に住む共有者や海外にいる家族は、売買契約や決済の場に出られないため、委任状が使われます。出られない人が増えるほど、次の3点で行き違いが出やすくなります。
- 代理人が買主にもなる場合。共有者が他の共有者の持分を買うときのように、代理人と本人の利益がぶつかる行為は、本人があらかじめ許していなければ、代理権のない人の行為とみなされます(民法108条)。この場合は、委任状とは別に、売る条件に本人が同意した書面を残します。
- 代理人がさらに別の人に任せる場合。委任による代理人は、本人の許諾かやむを得ない事由がなければ、復代理人を選べません(民法104条)。上の文例のように、復代理人の選任は含めないと書くか、許す場合は誰かを書きます。
- 委任状を出した後に、事情が変わる場合。本人が亡くなると代理権は消えます(民法111条)。売却が長引きそうなら、有効期間を短く区切って更新します。
代理人が権限なく契約をした場合、契約は本人が追認しなければ本人には及ばず(民法113条)、代理人が相手方に履行や損害賠償の責任を負うことがあります(民法117条)。後で揉めた当事者は、委任状の文面を読み返すことになります。範囲を限定して書くのは、代理人を縛るためだけでなく、代理人を守るためでもあります。
海外にいる人が印鑑証明書を取れない場合の署名の扱いは、国内の書類と同じに考えず、司法書士に早めに確かめます。遠方の物件を現地に行かずに売る段取りは、遠方の不動産売却で現地に行かずに売る方法に分けて書いています。
白紙委任を避けて、売る意思の確認に備える
署名押印だけして、代理人の氏名や金額の欄を空けて渡すと、書き足された内容が本人の意思かどうか、後から判断できません。次の点を渡す前に確かめます。
- 代理人の氏名・住所が書かれている
- 物件が登記事項証明書のとおりに特定されている
- 売買代金の下限と、代金の受取口座が書かれている
- 任せる行為が「売買契約の締結」「代金の受領」のように並んでいる
- 有効期間の日付が入っている
- 委任者の手元にコピーが残っている
日本司法書士会連合会は、司法書士による不動産取引の本人確認について、人・物・意思を確かめる取組を進めており、共有不動産の名義人の確認を扱う動画も公開しています(2025年4月9日掲載のお知らせ)。共有名義の売却では、窓口役の人だけでなく、委任状を出した共有者本人にも、司法書士から売る意思を確かめる連絡が入る場面を想定しておきます。連絡が付かないと決済日が延びる原因になるので、本人が電話や面談に応じられる日を、決済日の前に空けておきます。
本人の判断力が低下している場合は、委任状では解決しません。意思表示をした時に意思能力がなければ、その法律行為は無効です(民法3条の2)。親が高齢で判断が難しいときの進め方は、認知症の親の不動産売却で本人の意思能力と後見人を通す手続きを読んでください。
委任状を作る前に、売る価格の目安を共有者全員で共有しておくと、「いくら以上で売るか」を決めやすくなります。複数の会社の査定を比べる方法の一つに、不動産一括査定があります。使う前に次の3点を確かめておきます。
- 査定額は売れる値段ではない(根拠を聞いて比べるための材料)
- 申し込むと、複数の会社から電話やメールで連絡が来ることがある
- 売るかどうかは、査定を受けた後に決めてよい
一括査定の使い方は不動産一括査定とは何かと申し込む前の確認点、売却で相談できる窓口の違いは不動産売却の相談先で説明しています。自分の事情に合う委任状の文面の最終確認は、司法書士や弁護士に頼む範囲です。売る価格の目安は、不動産会社の査定と成約価格の調べ方で絞ります。
よくある質問
Q. 委任状があれば、代理人が一人で売買契約を結べますか?
委任状に「売買契約を締結すること」と書いてあり、代理人が本人のためにすることを示して契約すれば、その効果は本人に直接及びます(民法99条)。ただし不動産会社や司法書士は、本人の売る意思を別に確かめることがあります。委任状だけで当日まで何も聞かれない、とは考えないでください。
Q. 委任状に有効期限は書くべきですか?
書いておくと安全です。委任による代理権は本人の死亡などのほか、委任が終わったときにも消えます(民法111条)。売却の完了予定日に余裕を持たせた日付を入れ、延びたら新しい委任状を作り直す形にすると、古い委任状が使い続けられる心配がありません。
Q. 共有者が3人いるとき、委任状は何枚必要ですか?
窓口役を引き受ける人以外の共有者が、それぞれ1通ずつ書くのが基本です。委任者の欄には、各自の住所・氏名と、物件の持分を入れます。1枚に連名で書く形もありますが、印鑑証明書は一人ずつ取るので、1人1通のほうが後で差し替えやすくなります。
出典・参考にした公的な情報
- 民法 第3条の2・第99条・第103条・第104条・第108条・第111条・第113条・第117条・第646条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 不動産登記令 第7条・第16条・第18条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 不動産登記法 第22条・第23条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 司法書士による不動産取引に関する本人確認について(お知らせ、2025年4月9日)(日本司法書士会連合会)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。