相続不動産の売却の流れ:登記から売却・申告までの順番と期限
相続不動産の売却は、①相続人の確定 → ②遺産分割 → ③相続登記 → ④査定と媒介契約 → ⑤売買契約 → ⑥決済・引渡し → ⑦翌年の確定申告の順に進みます。名義が亡くなった人のままでは、買主へ名義を移す登記ができないので、③の相続登記までを先に終わらせるのが要です。一方、④の査定は登記の手続きと並行して頼めるため、売り出し価格の見当をつけながら名義変更を進めると、全体の期間が短くなります。
相続不動産の売却の流れ:7つの段階と期限
段階ごとに、誰が何をして、どんな期限がかかるかを一枚にまとめます。
| 段階 | すること | 主に動く人 | かかわる期限 |
|---|---|---|---|
| ①相続人の確定 | 遺言の有無を確かめ、戸籍で相続人を確定する | 相続人の代表 | 相続放棄を考えるなら3か月以内 |
| ②遺産分割 | 誰が売主になるか、代金をどう分けるかを協議書にする | 相続人全員 | 相続税の申告がある人は10か月以内 |
| ③相続登記 | 売主の名義に変える | 相続人(または司法書士) | 取得を知った日から3年以内 |
| ④査定・媒介契約 | 複数社の査定を比べ、不動産会社と媒介契約を結ぶ | 売主 | 専任媒介は3か月以内で更新 |
| ⑤売買契約 | 条件を決めて契約し、手付金を受け取る | 売主・買主・不動産会社 | 印紙税の軽減は2027年3月31日作成分まで |
| ⑥決済・引渡し | 残代金の受け取りと所有権移転の登記、鍵の引渡し | 売主・買主・司法書士 | 譲渡の日(原則は引渡しの日) |
| ⑦確定申告 | 売却益と特例を申告する | 売主(各相続人) | 売った年の翌年2月16日〜3月15日 |
税の特例を使うなら、⑥の決済の日付が特例の期限に間に合っているかが分かれ目になります。期限の数え方は相続不動産の売却期限と税の特例の早見表で、相続した家・土地をそもそも売るかどうかで迷っている人は相続した不動産はどうするかの判断材料で先に整理してください。
売る前の段階:相続人の確定・遺産分割・相続登記
①相続人の確定。 亡くなった人の出生から死亡までの戸籍をそろえ、相続人を確定します。法務局で法定相続情報一覧図の写しを無料で交付してもらうと、登記や銀行の手続きで戸籍の束を何度も出さずに済みます。
②遺産分割。 売る前提なら、協議書で次の3点を決めます。
- 売主の形:代表者一人の名義で売るか、相続人の共有名義で売るか
- 代金の分け方:仲介手数料や登記費用などを引いた残りを、誰に何割ずつ渡すか
- 売り方の枠:最低価格、売り出しの期限、売れなかったときの扱い
代表者名義で売って代金を分ける方法(換価分割)は、協議書の書き方を誤ると贈与と見られる余地が残ります。条項の例は相続不動産の換価分割の進め方にあります。
③相続登記。 協議書で決めた人の名義にします。登録免許税は、不動産の価額(固定資産税評価額を基にする)の1,000分の4です。筆者の計算例:土地1,500万円・建物300万円なら、合計1,800万円×4/1,000=72,000円です(検算:1,800万円の0.4%=7万2,000円)。
相続登記には「相続人申告登記」という簡単な手続きもありますが、これは申請義務を果たしたとみなされるだけの手続きで、法務省は売却には別に相続登記が必要と案内しています。売ると決めているなら、最初から相続登記を選びます。ただし、2024年4月1日より前の相続でまだ登記していない家の義務の期限は2027年3月31日で、売却に時間がかかっても延びません。売るのが間に合いそうにないときは、先に相続人申告登記で義務を果たし、売る段取りの中で相続登記をする、という順番もあります。期限と過料は相続登記の義務化でまとめています。自分で申請する場合の手順は相続登記を自分でする手順で確かめられます。
相続登記を申請するときは、登記名義人になる人の検索用情報(氏名のふりがな・生年月日など)の申出に加えて、2026年10月5日からは国籍等の申出も必要になりました。日本国籍を証する情報には、本籍地の載った住民票の写しなどが使えます。古い申請書の様式を使わないよう、法務局のページで新しい様式を確かめます。
登記で見落としやすいのが、相続登記の後に申請人の住所が変わる場合です。所有権移転の登記では、売主の住所が登記記録と合わないと申請が却下されます(不動産登記法25条7号)。登記から売却までに引越しをした人は、住所の変更登記も決済までに済ませます。
売る段階:査定・媒介契約・売買契約・決済
④査定と媒介契約。 査定は相続登記の完了前でも頼めます。査定の精度を上げるために、次の資料を用意します。
- 固定資産税の課税明細(評価額、地積・床面積)
- 親が買ったときの売買契約書、建築時の図面、増改築の記録
- 境界の資料(測量図、境界標の位置)
不動産会社は、査定額などの価額に意見を述べるとき、根拠を明らかにする義務があります(宅地建物取引業法34条の2第2項)。数字の高さだけで決めず、「なぜその額か」を各社に聞いて比べます。媒介契約の種類は媒介契約の3種類の比べ方で整理しています。
⑤売買契約。 相続した古い家は、雨漏りや設備の故障などを相続人が知らないことが多いので、知っている不具合は告知書に書き、契約不適合責任の範囲を特約で決めます。考え方は売主の契約不適合責任と免責の考え方にまとめています。共有名義で売る場合は、全員が売主として署名するか、委任状で代理を立てます。
⑥決済・引渡し。 残代金の受け取り、所有権移転の登記の申請、鍵の引渡しを同じ日に行います。当日の流れとお金の入り方は不動産売却の決済と引き渡しで確かめてください。
売った後:確定申告と特例の期限
売って利益が出たら、売った年の翌年2月16日から3月15日までに譲渡所得の確定申告をします。譲渡の日は原則として引渡しの日ですが、売買契約の効力が生じた日を選ぶこともできます(国税庁 No.3102)。共有で売った場合や換価分割の場合は、各相続人がそれぞれ申告します。
相続した不動産では、取得費と取得の時期を亡くなった人から引き継ぎます(No.3270)。親が長く持っていた家なら、相続してすぐ売っても長期譲渡所得になります。取得費が分からないときは売った金額の5%を取得費にできますが(No.3258)、実際より小さくなりがちです。
使える可能性のある特例は2つで、どちらか一方を選びます。
| 特例 | 主な要件 | 売却の期限 | 申告で添えるもの |
|---|---|---|---|
| 取得費加算の特例 | その人に相続税が課されている | 相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで | 相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書 |
| 相続した空き家の3,000万円特別控除 | 昭和56年5月31日以前の建築、亡くなった人が一人で住んでいた、売却代金1億円以下など | 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで(制度は2027年12月31日の売却まで) | 市区町村が出す被相続人居住用家屋等確認書など |
期限の日の数え方と、ふつうの売却との比べ方は相続不動産の売却期限と税の特例の早見表に任せ、ここでは売る手順を優先します。空き家の特例の確認書は家のある市区町村に申請し、交付まで日数がかかります。国土交通省は、相続登記が済んでいない場合や換価分割の場合は遺産分割協議書等で確認するとしています。申告の直前に慌てないよう、決済が終わったらすぐ申請します。どちらの特例が有利か、自分の場合の税額はいくらかは、税理士の仕事です(税理士法52条で、税理士でない者は個別の税務相談をできない)。
段階別の必要書類
| 段階 | そろえる書類 | 取り寄せ先 |
|---|---|---|
| 相続人の確定 | 亡くなった人の出生から死亡までの戸籍、相続人の戸籍、法定相続情報一覧図の写し | 市区町村、法務局 |
| 遺産分割 | 遺産分割協議書、相続人全員の印鑑証明書 | 相続人、市区町村 |
| 相続登記 | 登記申請書、戸籍または法定相続情報一覧図の写し、遺産分割協議書と相続人全員の印鑑証明書、固定資産評価証明書、売主になる人の住民票 | 法務局の様式、市区町村 |
| 査定・媒介 | 課税明細、親の売買契約書、図面、測量図 | 手元の書類、法務局(地積測量図) |
| 売買契約・決済 | 登記識別情報、実印と作成後3か月以内の印鑑証明書、本人確認書類 | 相続登記の完了時に通知、市区町村 |
| 確定申告 | 譲渡所得の内訳書、売買契約書の写し、特例の添付書類 | 国税庁の様式、市区町村(確認書) |
相続登記が終わると、新しい名義人に登記識別情報が通知されます。これは売却の決済で使う大事な書類なので、なくさないよう保管します。実家を兄弟で売る場合の家族の決めごとは、次の実家の売却の流れで扱います。
④の査定の段階で、複数の不動産会社の意見をまとめて聞きたいときは、一括査定サービスも選択肢になります。査定額は売り出しの目安であって売れる値段そのものではないこと、複数社から連絡が来ること、査定の後で売らない判断をしてもよいことを踏まえて使います。
よくある質問
Q. 相続税の申告が終わる前に、相続した家を売ってもよいですか?
売ること自体はできます。ただ、相続税の申告と納付の期限は、売れたかどうかと関係なく相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。売った年によって譲渡所得の申告の年も決まるので、相続税と売却益の税金の両方を見て時期を決めるよう、税理士に早めに相談します。
Q. 相続人の中に認知症の人がいても、相続した家を売れますか?
遺産分割の話し合いには、相続人それぞれが内容を理解して合意する必要があります。判断する力が十分でない相続人がいると、協議が進められず、売主を決める段階で止まることがあります。成年後見の申立てなど進め方の選択肢は、認知症の相続人がいる相続手続きの記事で整理しています。
Q. 親が買ったときの売買契約書が見つかりません。売るときに困りますか?
取得費が分からない場合は、売った金額の5%を取得費とする方法が認められています。ただし実際の取得費より小さくなることが多く、売却益が大きく計算されがちです。親の通帳の振込記録、購入時のパンフレット、ローンの契約書など、取得費を示す資料がないか、売る前に探しておきます。
出典・参考にした公的な情報
- 不動産登記法 第25条・第76条の2・第76条の3(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 登録免許税法 別表第一(相続による所有権の移転の登記は1,000分の4)(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 相続人申告登記について(法務省)
- 法定相続情報証明制度について(法務局)
- 宅地建物取引業法 第34条の2(媒介契約)(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- タックスアンサー No.3102 譲渡所得の申告期限(国税庁)
- タックスアンサー No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期(国税庁)
- タックスアンサー No.3258 取得費が分からないとき(国税庁)
- タックスアンサー No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例(国税庁)
- タックスアンサー No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(国税庁)
- 空き家の発生を抑制するための特例措置(空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除)(国土交通省)
- タックスアンサー No.7108 不動産売買契約書の印紙税の軽減措置(国税庁)
- 税理士法 第52条(税理士業務の制限)(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 所有権の登記名義人となる方の国籍等の申出(令和8年10月5日以降の申請書様式の案内)(法務局)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。