相続人と遺産分割 / 制度解説

代償分割とは?家を一人が継いで他の兄弟にお金を払う方法と注意点

この記事のもくじ
  1. 代償分割の仕組みと、選ばれる場面
  2. 代償金の額の決め方:どの価格を基準にするか
  3. 代償金を払えないときに選べる方法
  4. 協議書の書き方と、贈与税・所得税の注意
  5. 合意できないときと、頼み先の分け方

代償分割は、実家などの遺産を1人(または数人)が受け取り、その人が他の相続人に自分のお金(代償金)を払って取り分をそろえる分け方です。家を売らずに残せる一方で、代償金の額をどの価格で決めるか、払うお金を用意できるか、協議書にどう書くかで、後の税金や支払いの確実さが変わります。この記事では、その3点を順に整理します。

代償分割の仕組みと、選ばれる場面

遺産の分け方には、物をそのまま分ける現物分割、売ってお金を分ける換価分割、共有にする方法、そして代償分割があります。4つの違いは遺産分割の方法4つの違いと家の分け方で比べています。代償分割が選ばれやすいのは、遺産の大半が実家で、相続人の1人がそこに住み続けたい・事業で使い続けたいという場面です。

話し合い(遺産分割協議)では、相続人全員が合意すれば代償分割を自由に選べます(民法907条1項)。家庭裁判所の審判で分け方を決めるときは、「特別の事情」があると認めるときに、相続人の1人に他の相続人への債務を負わせて現物の分割に代えることができると定められています(家事事件手続法195条)。

筆者の計算で、遺産が実家(時価の見込み3,000万円)と預金600万円、相続人が兄と妹の2人(法定相続分は各2分の1)の場合を見てみます。

分け方 兄が受け取るもの 妹が受け取るもの 差し引き(筆者の計算)
兄が実家と預金を全部取る 実家3,000万円+預金600万円−代償金1,800万円 代償金1,800万円 兄1,800万円・妹1,800万円
兄が実家、妹が預金を取る 実家3,000万円−代償金1,200万円 預金600万円+代償金1,200万円 兄1,800万円・妹1,800万円

検算:遺産の合計3,600万円÷2=1,800万円。上の行は3,600−1,800=1,800、下の行は3,000−1,200=1,800と600+1,200=1,800です。預金を先に妹へ回すほど、兄が自分で用意する代償金は少なくて済みます。

図解:代償分割のお金の流れ
  • 遺産の実家 → 兄が取得(登記も兄の名義に)
  • 遺産の預金 → 妹が取得
  • 兄の手元のお金(代償金)→ 妹へ支払う
  • 結果:2人の取り分が同じ額にそろう

代償金の額の決め方:どの価格を基準にするか

代償分割で最ももめやすいのは、家をいくらと見るかです。家の価格を高く見るほど代償金は増えるので、払う側は低く、受け取る側は高く見たくなります。よく使われる資料と、使うときの注意は次のとおりです。

価格の資料 出すところ 使うときの注意
固定資産税評価額 市区町村(課税明細書・評価証明書) 手に入りやすいが、売れる値段とは別の、税金のための評価
相続税評価額(路線価など) 国税庁の路線価図をもとに計算 相続税の申告で使う評価。売れる値段とは別
不動産会社の査定額 不動産会社 査定額は売れる値段ではない。複数社の根拠を比べる
不動産鑑定士の鑑定評価 不動産鑑定士 費用がかかるが、価格を判定する専門の評価

査定と鑑定評価の違いは不動産の査定額の決まり方と鑑定評価の違いで詳しく扱っています。合意までの進め方は次の順番がおすすめです。

  1. 基準にする資料を先に決める:「査定を3社から取り、その平均を使う」のように、金額より先に決め方を合意します。
  2. いつの時点の価格かをそろえる:亡くなった時点か、分ける時点かで価格が変わることがあります。
  3. 家に付いている負担を確かめる:家を担保にした借入れが残っていないか、登記事項証明書で見ます。
  4. 合意した金額と根拠を記録する:使った資料の写しを協議書と一緒に保管します。

話し合いで決まらず家庭裁判所の調停に進むと、調停では必要に応じて遺産の鑑定が行われることがあると裁判所が案内しています。

代償金を払えないときに選べる方法

「家は継ぎたいが代償金を払うお金がない」というのは、代償分割でよくつまずく点です。払えない額で合意すると、後で支払いが止まり、関係がさらに悪くなります。合意の前に次の方法を並べて比べます。

方法 内容 気をつける点
預金などを相手に多く回す 遺産の預金・株などを受け取る側に寄せ、代償金を減らす 上の例の下の行の考え方。遺産に現金が多いほど使いやすい
分割払い 回数と期日を決めて払う 遅れたときの扱いを決めておく。公正証書も検討
借入れで用意する 金融機関から借りて一括で払う 返済の見通しを先に立てる。条件は金融機関で確かめる
自分の不動産などで払う 現金の代わりに自分の財産を渡す 払った人に譲渡所得の税金がかかることがある(下で説明)
換価分割に切り替える 家を売って代金を分ける 家は残らない。相続不動産の換価分割の進め方を参照

分割払いにするときは、受け取る側から見て支払いが続く仕組みを作ります。強制執行に服する旨の陳述を書いた公証人の公正証書(執行証書)は、金銭の支払いについて強制執行の根拠になる「債務名義」の一つです(民事執行法22条5号)。家庭裁判所の調停で合意した場合は、調停調書の記載が確定した審判と同じ効力を持ちます(家事事件手続法268条1項)。

協議書の書き方と、贈与税・所得税の注意

代償分割をしたら、遺産分割協議書に「誰が何を取得し、その代償として誰に、いくらを、いつまでに、どうやって払うか」を書きます。協議書全体の作り方は遺産分割協議書の書き方とひな形にまとめています。代償金の条項の書き方の例は次のとおりです。

文例:「相続人甲は、第1条記載の不動産を取得する代償として、相続人乙に対し、金1,200万円を令和9年3月31日限り、乙の指定する口座に振り込む方法により支払う。」

ポイントは「代償として」と書き、遺産分割の一部であることがはっきり分かるようにすることです。協議書に書かずに後から別に渡したお金は、個人から財産をもらったとき(贈与税の対象:国税庁 No.4402)と見分けがつきにくくなります。

税金では、国税庁 No.4173 が次の扱いを示しています。

  • 相続税:代償金を払った人は「取得した財産の価額−代償金」、受け取った人は「取得した財産の価額+代償金」で課税価格を出します。
  • 代償金を時価を基に決めた場合:代償分割の対象の財産が特定され、代償金が代償分割の時の通常の取引価額を基に決められているときは、代償金に「相続開始の時の相続税評価額÷代償分割の時の時価」を掛けた額を代償財産の価額として計算します。相続人全員の協議で、これに準じた方法や他の合理的な方法で計算して申告することも認められています。国税庁の例では、評価額4,000万円・時価5,000万円の土地で代償金2,000万円のとき、割合は0.8となり、払った人2,400万円・受け取った人1,600万円です(検算:2,000×0.8=1,600、4,000−1,600=2,400)。
  • 所得税:代償金の代わりに自分の土地などを渡すと、渡した人はその財産を時価で譲渡したものとして、譲渡所得の税金がかかることがあります。

代償分割で取得した家を後で売り、取得費加算の特例を使う場合も注意が要ります。特例で取得費に足せる額は、相続税額に「売った財産の価額が課税価格に占める割合」を掛けて計算します(租税特別措置法施行令25条の16)。代償金を払った人の課税価格は代償金を差し引いた額になる(No.4173)ので、計算に使う課税価格が通常と変わります。どの金額で計算するかは、税務署の相談窓口か税理士で確かめます。売る時期と特例の期限は相続不動産を3年以内に売ると使える特例の早見表で確かめ、実際の計算は税務署の相談か税理士に頼みます。

合意できないときと、頼み先の分け方

代償分割の話し合い自体に期限はありませんが、相続税の申告や相続登記には期限があります。いつまでに何を決めるとよいかは遺産分割に期限はあるかと10年・相続税の期限で整理しています。話し合いがまとまらなければ、家庭裁判所の遺産分割調停の流れと申立ての準備に進む方法があります。

作業ごとの頼み先は次のように分かれます。協議書など書類の作成は行政書士、家の名義を変える相続登記(登記に使う書類を含む)は司法書士、相続税の計算と申告は税理士、代償金の額で相手と交渉してもらうのは弁護士の仕事です(弁護士法72条)。違いは相続手続きの専門家の違いと頼み分けにまとめています。

よくある質問

Q. 代償金を受け取ると贈与税がかかりますか?

遺産分割の代償として払う代償金は、国税庁の説明では相続税の課税価格の計算の中で扱われます。払った人は取得した財産から代償金を差し引き、受け取った人は代償金を加えて課税価格を出します(国税庁 No.4173)。協議書に書かずに後から別に渡すお金は、遺産分割とは別の贈与と区別がつきにくくなるので、協議書に代償金であることを明記します。

Q. 代償金は分割払いにできますか?

相続人全員が合意すれば、支払回数や期日を決めて分割払いにできます。受け取る側は、支払いが遅れたときの扱いまで協議書に書き、公正証書にしておくか検討します。強制執行に服する旨を書いた公正証書は、金銭の支払いについて強制執行の根拠になります(民事執行法22条5号)。

Q. 代償金の額は法定相続分どおりでないといけませんか?

いいえ。協議で分ける場合は、相続人全員が納得すれば法定相続分と違う額でも構いません(民法907条1項)。法定相続分で計算した額は話し合いの出発点として使い、家に住み続ける事情や介護の負担などを考えて調整するのが一般的な進め方です。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

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