離婚で家がオーバーローンのとき:住み続ける・売る・任意売却
離婚で家を売ってもローンが残るとき(オーバーローン)の選択肢は、大きく三つです。ひとつは、どちらかが家に住み続け、ローンを引き継ぐ方法。ふたつめは、足りない分を現金で足して完済し、普通に売る方法。みっつめは、足りないまま貸し手の同意を得て売る任意売却です。連帯保証人や連帯債務者を外せるかどうかは、離婚協議書の取り決めではなく、貸し手が決めます。 この記事では、不足額の出し方から順に、三つの選択肢と貸し手への相談の仕方を示します。
まず「足りない額」を数字で出す
選択肢を比べる前に、足りない額を出します。必要な額は、ローン残高から売却価格を引いた額だけではありません。売るための費用も加わります。
- ローン残高(借入先の残高証明書で確かめる)
- 売却価格の見込み(不動産会社の査定額。査定額は売れる値段ではない)
- 仲介手数料(上限は告示で決まっている)
- 抵当権の抹消登記の登録免許税(法務局の案内では、不動産(土地または建物)1物件につき1,000円。土地1物件と建物1物件なら2,000円で、土地が複数あれば物件の数だけ増える)
- 印紙税(売買契約書の金額による)
筆者の計算で、仮の数字を入れてみます。査定額2,400万円、ローン残高2,900万円、売主として払う費用が、仲介手数料の上限(課税事業者の場合。200万円以下の部分5.5%、200万円超400万円以下の部分4.4%、400万円超の部分3.3%で、2,400万円なら85万8,000円)、抹消登記2,000円、契約書の印紙1万円(軽減措置の対象で、2027年3月31日までに作る契約書)だとします。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| ローン残高 | 2,900万円 |
| 売却価格(査定額) | 2,400万円 |
| 差額(残高−売却価格) | 500万円 |
| 仲介手数料の上限(税込) | 85万8,000円 |
| 抹消登記の登録免許税(土地と建物) | 2,000円 |
| 印紙税(軽減後) | 1万円 |
| 売る日までに用意する額 | 587万円 |
検算:500万円+85万8,000円+2,000円+1万円=587万円。実際の仲介手数料は上限より低いこともあり、引越しや片付けの費用は別にかかります。この587万円を、現金で出せるか、どちらがどれだけ負担するかが、離婚協議の中心になります。財産分与で家をどう扱うかは、離婚で家を売却する流れにまとめています。
三つの選択肢の違い
| 選択肢 | 中身 | 向く場面 | 先に確かめること |
|---|---|---|---|
| 住み続ける | 一方が住み続け、ローンを引き継ぐ(または借り換える) | 住み続ける人に返済を続ける収入がある | 貸し手の承諾、居住の条件、連帯保証人の扱い |
| 現金を足して売る | 不足額を現金で出して完済し、抵当権を外して売る | 不足額を出せる資金がある | 不足額の負担割合、売れなかったときの値下げ幅 |
| 任意売却 | 貸し手の同意を得て、足りないまま売る | 現金で埋められず、返済を続けるのも難しい | 売った後に残る借金の返し方、業者の選び方 |
どれを選ぶにしても、先に家の数字(残高、査定額)を貸し手と不動産会社に当たり、手元の資金を確かめてから夫婦で話します。数字がないまま「家は売らない」「売ってすぐ分けたい」と主張し合うと、話が進みません。
住み続けるとき:ローンの引継ぎと居住の条件
住宅ローンの債務者を夫婦の一方から他方へ替える(免責的債務引受)には、債権者である貸し手が関わる必要があります。民法472条は、債務者と引受人の契約でする場合は、債権者が引受人に承諾したときに効力が生じると定めています。住宅金融支援機構も、返済途中で住宅を他人に譲り渡すときは融資金の全額を返す扱いが原則で、離婚などの事情があるときは返済中の金融機関に申し出るよう案内しています。機構の承諾を得て債務を引き継げる場合は、譲り受けた人がその住宅に住み、かつ機構の債務を返済することが条件で、審査の結果、認められない場合や、融資金の一部の繰上返済、新たな債務者の追加を求められる場合があります。
居住の条件にも注意が要ります。ローンの種類によっては、借りた人本人や親族が住むことが契約の条件です。民法725条の親族には、配偶者と三親等内の姻族が含まれますが、姻族関係は離婚によって終了します(民法728条1項)。借りた人が出て行き、元配偶者だけが住み続ける形は、契約の条件と合うか貸し手に確かめます。
住み続ける人が、収入を見て借り換えを申し込む方法もあります。借り換えは新しい契約なので、年収と他の借入れを含めて審査されます。通るかどうかは貸し手が決めます。
連帯保証人・連帯債務者を外したいとき
夫婦の一方が債務者で、他方が連帯保証人や連帯債務者になっているケースは多くあります。連帯保証人は、債務者が返さないときに、その債務を返す責任を負います(民法446条1項)。保証は貸し手と保証人の間の契約なので、離婚しても自動で終わりません。
外す方法は、次の三つに絞られます。
- 家を売って完済する(抵当権も保証も同時に終わる)
- 住み続ける人が借り換えて、前のローンを完済する
- 貸し手が新しい債務者や保証人を認め、元の保証人を外すことに応じる
三つ目は貸し手の判断で、応じてもらえない場合もあります。相談するときは、離婚が決まってからではなく、離婚の話が具体的になった時点で借入先に連絡します。話し方の例です。
「離婚を検討していて、住宅ローンの債務者と連帯保証人の扱いを相談したいです。住み続ける側が借り換える場合と、家を売る場合のそれぞれで、必要な手続きと審査の目安を教えてください。返済は現在、遅れていません。」
すでに返済が遅れているなら、連絡する順番は貸し手が先です。返済の遅れがある状態で任意売却や競売の話に進む前に、任意売却とは?競売との違い・流れ・相談する前に知ることで全体を確かめます。
現金を足して売る、または任意売却にする
不足額を出せるなら、普通の売却のほうが選べる範囲が広くなります。不足額の資金源を、夫婦のどちらがどれだけ出すか、親族の援助を受けるかを先に決め、決済日までに用意します。決済日には、立ち会う司法書士が抵当権の抹消に必要な書類を確かめてから残代金が支払われる流れです。
現金を出せない場合の任意売却は、貸し手が抵当権を外すことに同意して初めて成り立ちます。住宅金融支援機構は、任意売却を、返済の継続が難しい場合に「残債務を圧縮」する方法と説明しています。圧縮であって、借金がなくなるとは書かれていません。売却代金で返しきれなければ、売った後に借金が残ります。この残りを夫婦のどちらがどう返すかを、売る前に決めておかないと、売却後に争いが続きます。
譲渡損失が出たときの税の特例(国税庁 No.3390、2027年12月31日までの譲渡が対象)もあります。条件の全体は住み替えの住宅ローンの表で確かめられます。離婚の協議で売る相手が元配偶者になる場合は、親族などへの売却は対象外という条件に触れないか確かめます。
相談する順番
オーバーローンの離婚は、決めることが多く、順番を間違えると取り返しがつきにくくなります。次の順で動きます。
- 借入先に、離婚予定と家の扱いを伝え、選べる方法を聞く
- 不動産会社に複数査定を頼み、売却価格の幅をつかむ
- 不足額を計算し、夫婦の資金で埋められるかを確かめる
- 財産分与と不足額の負担割合を、協議で決める(交渉と書面づくりは弁護士の仕事)
- 売る場合は、媒介契約から決済まで進め、住む場合は借換えの審査に出す
弁護士、司法書士、税理士の頼み分けは専門家の違いと頼み分けに、窓口は相続・不動産売却の無料相談窓口一覧にあります。ローンが残る家の売却全般は住宅ローンが残っている家を売るにはで扱っています。
家の価格を知る材料として、複数の会社の査定を比べる方法があります。ローン残高との差を出す材料にはなりますが、査定額がそのまま売却価格になるわけではなく、各社の見込みです。申し込むと複数の会社から連絡が来ることがあるため、連絡手段の希望を申し込み時に書きます。返済が遅れているときは、申し込みより先に借入先へ連絡します。売るかどうかは査定のあとに決めて構いません。
よくある質問
Q. 離婚するとき、住宅ローンの名義は自動で変わりますか?
変わりません。ローンは貸し手と借りた人の契約なので、離婚しても債務者、連帯債務者、連帯保証人の立場はそのまま残ります。債務者を替えるには貸し手の承諾が要り(民法472条)、住宅金融支援機構の例でも、引継ぎは機構の承諾を得たうえで審査され、認められないこともあります。
Q. 売っても足りない分は、どうやって払うのですか?
手元の現金(貯蓄や、親族からの援助など)で足りない分を出して完済し、抵当権を外して売るのが普通の売り方です。現金を出せないときは、貸し手が抵当権を外すことに同意する任意売却があります。ただし任意売却でも、売却代金で返しきれなかった分の返済義務は残ります。
Q. 離婚後に元配偶者がローンの残る家に住み続けても、貸し手に問題になりませんか?
貸し手の契約によっては、問題になることがあります。ローンの種類によっては、本人またはその親族が住むことが条件で、離婚で配偶者でなくなり姻族関係も終わった元配偶者だけが住む状態は、その条件に触れるおそれがあります。離婚の予定を貸し手に伝えて、契約書の居住に関する条項を確かめます。
出典・参考にした公的な情報
- 返済途中で住宅を他人に譲り渡すとき(住宅金融支援機構)
- 融資住宅等の任意売却(住宅金融支援機構)
- 民法 第446条・第472条・第725条・第728条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- No.3390 特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例(国税庁)
- No.7108 不動産売買契約書の印紙税の軽減措置(国税庁)
- 宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額(告示)(国土交通省)
- 住宅ローンを完済したことなどによる抵当権抹消登記のご案内(令和6年4月版)(法務省 法務局)
- 財産分与(父母の離婚後の子の養育に関するルール・離婚Q&A)(法務省)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。