生前贈与と贈与税 / 比較

相続時精算課税のデメリット:暦年に戻れない・小規模宅地が使えない

この記事のもくじ
  1. 相続時精算課税のデメリット7つの早見表
  2. 暦年課税に戻れない:その贈与者からの「これから全部」が対象
  3. 自宅の土地を贈与すると小規模宅地等の特例が使えない
  4. 不動産の贈与は登記と取得の税金が相続より重い
  5. 値下がり・物納・申告の手間も判断材料になる
  6. メリットと並べて比べる:向きやすい場面・向きにくい場面

相続時精算課税のデメリットの中心は、一度選ぶとその贈与者からの贈与は暦年課税に戻れないことと、精算課税で贈与を受けた土地には相続のときに小規模宅地等の特例が使えないことの2つです。ほかに、不動産を贈与で移すと登録免許税と不動産取得税が相続より重い、相続税を物納するときに充てられない、贈与時の価額で加算されるため値下がりしても戻らない、という点があります。どれが響くかは、贈与する財産の種類と、相続税がかかる見込みかどうかで変わります。この記事では判断材料を表で並べ、制度の全体の仕組みは相続時精算課税とは:2,500万円の特別控除と110万円の基礎控除に任せます。

相続時精算課税のデメリット7つの早見表

国税庁の案内と法令で確かめられるデメリットを、影響が大きくなる場面と一緒にまとめました。

デメリット 中身 影響が大きくなる場面
暦年課税に戻れない 届出書を出すと撤回できず、その贈与者からの以後の贈与はすべて精算課税 毎年少しずつ渡す計画に切り替えたくなったとき
小規模宅地等の特例が使えない 精算課税で贈与を受けた宅地等は特例の対象外 自宅や事業用の土地を贈与するとき
登録免許税が重い 所有権の移転登記は、相続0.4%・贈与2% 不動産を贈与するとき
不動産取得税がかかる 相続では課税されないが、精算課税の贈与でも課税される 不動産を贈与するとき
物納に充てられない 精算課税の適用財産は相続税の物納に使えない 相続税を現金で払いにくい家
値下がりしても贈与時の価額で加算 相続税の計算に足すのは贈与時の価額 値下がりしやすい財産を贈与するとき
110万円を超える年は申告が要る 特別控除2,500万円は期限内に申告した場合だけ使える 申告を忘れやすい家

このうち、暦年課税への切り替え不可と小規模宅地等の特例は、あとから取り返す方法がない点で重さが違います。登録免許税と不動産取得税は、贈与するのが現金なら関係しません。

暦年課税に戻れない:その贈与者からの「これから全部」が対象

国税庁は、精算課税を選ぶとその贈与者から受ける財産すべてに適用され、暦年課税へ変更することはできないと案内しています。相続税法21条の9も、届出書は撤回できないと定めています。

ここで押さえたいのは、縛られる範囲が「贈与者ごと」だという点です。父について精算課税を選んでも、母や祖父母からの贈与は暦年課税のままにできます。逆に、父から毎年110万円以下を渡すつもりで暦年課税を使っていた家が、父について一度でも精算課税を選ぶと、その後の父からの贈与は暦年課税の110万円の基礎控除では計算できません。代わりに精算課税の110万円の基礎控除が毎年使えるので、少額の贈与が不利になるとは限りません。父と母で方式を分ける組み立て方は、相続時精算課税と暦年贈与の併用で比べています。

選ぶ前の確認:この贈与者から、今後どんな財産を、何年かけて渡す予定か。途中で方式を変えたくなる可能性はないか。

自宅の土地を贈与すると小規模宅地等の特例が使えない

小規模宅地等の特例は、亡くなった人が住んでいた土地などを配偶者や同居の親族などが相続すると、330㎡までの部分の評価額を80%減らせる制度です。国税庁の案内では、相続時精算課税で贈与を受けた宅地等は、この特例の対象外です。自宅の土地を生前に精算課税で子に移すと、相続のときに80%減の可能性を手放すことになります。

例の数字で差を示します(筆者の計算。2026年に1回だけ贈与し、相続で取得していれば特例の要件を満たしていたと仮定)。

項目 相続で取得(特例あり) 精算課税で贈与
土地の評価額 5,000万円 5,000万円
贈与のときの贈与税 なし (5,000万円−110万円−2,500万円)×20%=478万円
相続税の計算に入る額 5,000万円×(1−80%)=1,000万円 5,000万円−110万円=4,890万円
差 — 相続税の計算に入る額が3,890万円多い

検算:5,000−110−2,500=2,390、2,390×0.2=478。5,000×0.2=1,000。4,890−1,000=3,890(単位は万円)。

贈与のときに納めた478万円は相続税から差し引かれますが、相続税の計算の土台が大きくなる点は変わりません。特例の要件(同居や家なき子など)を満たせるかどうかは、小規模宅地等の特例をわかりやすくで整理しています。

比較:自宅の土地を「相続で渡す」と「精算課税で贈与する」
  • 相続で渡す:登録免許税0.4%、不動産取得税なし、要件を満たせば小規模宅地等の特例で評価80%減
  • 精算課税で贈与:登録免許税2%、不動産取得税あり、小規模宅地等の特例は使えない、贈与時の価額で相続税に加算

不動産の贈与は登記と取得の税金が相続より重い

不動産を贈与すると、贈与税とは別に、名義を移す登記の登録免許税と、都道府県の不動産取得税がかかります。登録免許税法の別表では、所有権の移転登記の税率は、相続なら1,000分の4(0.4%)、贈与など相続以外の原因なら1,000分の20(2%)です。不動産取得税は相続で取得した場合には課税されませんが、東京都主税局は、相続時精算課税を適用した贈与でも課税されると案内しています。

固定資産税評価額2,000万円の宅地で比べると、次のようになります(筆者の計算。不動産取得税は東京都の案内にある2027年3月31日までの取得の特例、つまり宅地は課税標準が2分の1・税率3%で計算)。

税金 相続で取得 贈与で取得
登録免許税 2,000万円×0.4%=8万円 2,000万円×2%=40万円
不動産取得税 かからない 2,000万円×1/2×3%=30万円
合計 8万円 70万円

登記の手続きと司法書士に頼む場合の費用は不動産の生前贈与:手続き・登記・かかる税金で扱います。不動産取得税の軽減や申告の窓口は都道府県ごとに案内が分かれるので、不動産のある都道府県の税事務所で確かめます。

値下がり・物納・申告の手間も判断材料になる

精算課税の贈与財産は、相続のときに贈与時の価額で相続税の計算に足します(2024年以後の贈与は、年ごとに110万円を引いた残り)。値上がりが見込まれる財産なら有利に働きますが、値下がりした場合は、下がる前の高い価額のまま足されます。

相続税を払うお金が足りないときの物納にも、精算課税の適用財産は充てられません。土地を物納で納める道を残したい家では、この点も比べます。延納・物納の要件は相続税の延納・物納にまとめています。

手続きの面では、1年間の精算課税の贈与が110万円を超えた年は、翌年2月1日から3月15日までに贈与税の申告が要ります。2,500万円の特別控除は、期限内に申告した場合に限って使えます。申告をしないと特別控除が使えず、110万円を超えた部分に20%の贈与税がかかる形になります。

メリットと並べて比べる:向きやすい場面・向きにくい場面

デメリットだけで判断せず、メリットと同じ表で見ると、どんな財産と家族に向くかが見えてきます。

観点 精算課税のメリット 精算課税のデメリット
贈与税 贈与者ごとに累計2,500万円まで贈与税がかからない 超えた部分は一律20%
相続税との関係 2024年以後の贈与は年110万円までは相続税に足されない 110万円を超えた部分は年数に関係なく足される
財産の値動き 値上がりしても贈与時の価額で足す 値下がりしても贈与時の価額で足す
不動産 早めに名義を移せる 小規模宅地等の特例が使えない、登録免許税と不動産取得税が重い
選び直し — 撤回できない

向きやすいのは、たとえば相続税がかからない見込みの家で、まとまった現金を子の住宅資金や事業資金として早めに渡したい場合や、値上がりが見込まれる財産を移したい場合です。向きにくいのは、相続税がかかる見込みで、自宅の土地に小規模宅地等の特例を使える可能性がある場合です。暦年課税と精算課税の税率・加算の違いは、贈与税 vs 相続税:どちらが得かでも比べています。

ただし、自分の家でどちらが有利かを財産の額で計算して判定するのは、税理士の仕事です(税理士法52条は、税理士でない者が他人の求めに応じて税額の計算に関する相談を業として行うことを禁じています)。相続税の見込みと贈与の方法を合わせて相談する税理士を探す方法の一つとして、紹介サービスがあります。使う前の確かめ方は相続で税理士紹介サービスを使う前にに書きました。

よくある質問

Q. 相続時精算課税を選んだあと、やめることはできますか?

できません。届出書を出すと撤回できず、その贈与者からのその後の贈与はすべて精算課税で計算します。ほかの贈与者(たとえば母)からの贈与は、別に暦年課税のままにしておけます。

Q. 精算課税で贈与を受けた土地の値段が下がったらどうなりますか?

相続税の計算に足すのは贈与を受けたときの価額なので、相続のときに値下がりしていても、高い贈与時の価額で加算されます。反対に値上がりした場合は、贈与時の低い価額のまま加算されます。

Q. 精算課税で納めた贈与税は損になりますか?

贈与者が亡くなったときの相続税から差し引かれ、引ききれない分は相続税の申告で還付を受けられます。ただし、贈与の翌年に納める分のお金は、相続までの間、先に用意しておく必要があります。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

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