贈与税 vs 相続税:どちらが得かを税率と財産額で比べる考え方
贈与税と相続税のどちらが得かは、「贈与したときの贈与税の負担率」と「その分だけ遺産が減ったときに下がる相続税の率」を比べて決まります。 遺産が相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)に届かない家庭では、相続税はかからないので、贈与税を払ってまで前倒しする理由は小さくなります。遺産が大きいほど相続税の率は上がり、少額ずつの贈与のほうが軽くなる場面が増えます。この記事では、両方の税率の構造を並べ、筆者の計算例で比べ方を示します。
贈与税と相続税の違いを一覧で比べる
まず、仕組みの違いを表で押さえます。どちらも税率は10%〜55%ですが、控除のかかり方と、税率を掛ける対象がまったく違います。
| 項目 | 贈与税(暦年課税) | 相続税 |
|---|---|---|
| 納める人 | 財産をもらった人 | 相続・遺贈で財産を取得した人 |
| 控除 | 受け取る人ごとに1年110万円 | 遺産全体から3,000万円+600万円×法定相続人の数 |
| 税率を掛ける額 | その年にもらった合計−110万円 | 遺産を法定相続分で分けたと仮定した各人の額 |
| 税率の表 | 一般税率と特例税率の2種類(10%〜55%) | 1種類(10%〜55%) |
| 申告の時期 | もらった翌年2月1日〜3月15日 | 相続の開始を知った日の翌日から10か月以内 |
| 不動産の名義変更の登録免許税 | 不動産の価額の2% | 不動産の価額の0.4% |
| 不動産取得税 | かかる | かからない(地方税法73条の7) |
| 小規模宅地等の特例 | 使えない | 要件を満たせば宅地の評価を減らせる |
| 加算の仕組み | 相続で財産を取得した人への一定期間内の贈与は、相続財産に足し戻す | ― |
表の中で比べ方を左右するのは3点です。1つめは、贈与税は「人ごと・年ごと」に110万円を引くので、渡す相手と年を分けるほど負担が下がること。2つめは、相続税は遺産全体にかかり、遺産が多いほど上の税率の段に入ること。3つめは、相続財産を取得する人への贈与は、亡くなる前の一定期間のものが相続税の計算に戻されることです。この期間は2026年中の相続では3年で、2027年1月以後の相続から段階的に延び、最終的に7年になります(相続開始日ごとの表は生前贈与の加算期間:3年から7年への早見表)。
税率で比べる:贈与税の負担率と相続税の税率
贈与税の速算表の税率は、贈与した額全体に掛かるわけではありません。110万円を引き、段ごとの控除額を差し引くので、実際の負担率は表の税率よりずっと低くなります。父母や祖父母から、その年の1月1日に18歳以上の子や孫への贈与には特例税率を使います。
| 1年にもらう額 | 贈与税(特例税率) | 負担率 |
|---|---|---|
| 110万円 | 0円 | 0% |
| 200万円 | 9万円 | 4.5% |
| 310万円 | 20万円 | 約6.5% |
| 410万円 | 35万円 | 約8.5% |
| 510万円 | 50万円 | 約9.8% |
| 710万円 | 90万円 | 約12.7% |
| 1,110万円 | 210万円 | 約18.9% |
(筆者の計算。国税庁No.4408の特例税率の速算表による。例:410万円−110万円=300万円、300万円×15%−10万円=35万円)
次に相続税です。相続人が子2人(配偶者なし)で、特例や税額控除を使わない前提で、遺産額ごとに計算しました。右端の「上乗せ分の税率」は、遺産が少し増えたとき、その増えた分にかかる率です。生前贈与で遺産が減ると、ちょうどこの率で相続税が下がります。
| 遺産額(課税価格) | 相続税の総額 | 上乗せ分の税率 |
|---|---|---|
| 4,000万円 | 0円(基礎控除4,200万円以下) | 0% |
| 6,000万円 | 180万円 | 10% |
| 1億円 | 770万円 | 15% |
| 2億円 | 3,340万円 | 30% |
| 3億円 | 6,920万円 | 40% |
(筆者の計算。例:1億円−4,200万円=5,800万円、1人2,900万円×15%−50万円=385万円、2人分で770万円)
2つの表を重ねると、比べ方が見えます。遺産1億円の家庭なら、相続税の上乗せ分の税率は15%です。贈与税の負担率が15%を下回る額(筆者の計算では、1人1年で820万円程度まで。上の表の710万円で12.7%、1,110万円で18.9%)に抑えて贈与すれば、贈与税のほうが軽く済む計算になります。遺産4,000万円の家庭では相続税がもともとゼロなので、110万円を超える贈与はすべて余分な税金になります。
筆者の計算例:遺産2億円の家庭で1,000万円を前倒しすると
前提:相続人は子2人、加算期間より前に子それぞれへ500万円ずつ1回贈与、特例・税額控除なし。
- 贈与税:500万円−110万円=390万円、390万円×15%−10万円=48.5万円。2人分で97万円。
- 相続税(贈与しない場合):上の表のとおり3,340万円。
- 相続税(遺産が1億9,000万円になった場合):1億9,000万円−4,200万円=1億4,800万円、1人7,400万円×30%−700万円=1,520万円、2人分で3,040万円。
- 差し引き:相続税は300万円減り、贈与税は97万円増える。税金の合計は203万円少ない。
この計算は、贈与が加算期間の外にあることが前提です。加算期間内の贈与は相続財産に足し戻され、払った贈与税を相続税から引くだけになるので、手元に残る差はほとんどなくなります。
財産額と家族構成で結論が変わる5つの場面
上の比べ方は骨組みです。実際の家庭では、次の事情で結論が動きます。
- 遺産が基礎控除の前後:贈与で遺産を基礎控除以下に下げられるなら、相続税の申告そのものが要らなくなることがあります。逆に、少し超える程度なら上乗せ分の税率は10%です。贈与税の負担率が10%を下回るのは、筆者の計算では1人1年520万円程度までなので、それを超える額を渡すと、贈与のほうが税が重くなります。基礎控除の数え方は相続税の基礎控除:3,000万円+600万円×人数で一次判定する方法で確かめます。
- 配偶者がいる:配偶者は、取得した遺産が1億6,000万円か法定相続分相当額の多いほうまで相続税がかかりません。最初の相続の税は小さくても、配偶者が亡くなったときの相続(二次相続)で税が増えることがあるので、二度の相続を通して比べます。
- 子の人数が少ない:法定相続人が1人なら基礎控除は3,600万円で、遺産を法定相続分で分けた額も大きくなり、上の段の税率に入りやすくなります。贈与を受け取る人を増やす(孫など)と、110万円の控除の数も増えます。
- 孫へ渡す:相続で財産を取得しない孫への贈与は、原則として加算の対象になりません。一方、孫が遺言で財産を受け取ると相続税が2割増しになる仕組みもあります(詳しくは孫への暦年贈与:加算対象外になる場合と未成年の口座管理)。
- 不動産を渡す:贈与だと登録免許税が2%、不動産取得税もかかり、相続(0.4%・不動産取得税なし)より名義変更の費用が重くなります。自宅の土地は、相続なら小規模宅地等の特例で評価を下げられる場合があり、贈与ではこの特例を使えません。比べ方は不動産の生前贈与:手続き・登記・かかる税金と相続との比べ方で扱います。
なお、国税庁の令和6年分の申告事績では、亡くなった人のうち相続税の課税対象になったのは10.4%でした。9割近くの家庭では相続税がかからないので、「贈与のほうが得」という話が自分の家に当てはまるかを、遺産の見込み額から先に確かめます。
自分の家で比べるときの手順と相談先
比べるために家族で用意するものは、次の順です。
- 財産の一覧:預貯金・有価証券・不動産(固定資産税の課税明細書)・生命保険をまとめ、遺産の見込み額を出す。
- 法定相続人の確認:人数で基礎控除が決まる。配偶者の有無も書き出す。
- 相続税の見込み:遺産額と人数から、上乗せ分の税率がどの段かを見る(速算表は相続税の税率表:10%〜55%の速算表と控除額の使い方)。
- 贈与の案:誰に、何年かけて、1年いくらか。贈与税の負担率を上の表で見る。
- 加算期間の確認:贈与者の年齢と健康状態から、贈与が加算期間に入る可能性を考える。
ここから先の「わが家ではどちらが得か」の試算は、個別の税額の計算になります。税理士法により、他人の求めに応じて税額の計算や税務相談を業として行えるのは税理士・税理士法人だけです。相続税を扱う税理士の探し方は相続に強い税理士の選び方にまとめています。
相談の前に、上の1〜4をメモにして持っていくと、試算が早く進みます。贈与をした記録の残し方や、昔の贈与が後から問題になる場合は贈与税の時効は6年?成立しにくい理由と名義預金との関係、夫婦の間のお金のやり取りは夫婦間の贈与税はいくらから?で扱います。
よくある質問
Q. 遺産が相続税の基礎控除より少なそうなら、生前贈与は考えなくてよいですか?
相続税の面だけで見れば、基礎控除以下の遺産には相続税がかからないので、贈与税を払ってまで前倒しで渡す理由は小さくなります。年110万円以下の贈与なら贈与税もかからないので、税金以外の目的(今の生活の援助など)で考えます。不動産を贈与すると登録免許税と不動産取得税が相続より重くなる点も比べてください。
Q. 贈与税は相続税より税率が高いと聞きました。本当ですか?
同じ金額に掛かる税率の表だけを並べると、贈与税のほうが少ない額から高い税率になります。ただし贈与税は受け取る人ごと・1年ごとに110万円を引いて計算するので、1回の額を小さく分けると負担率は下がります。比べるのは表の税率どうしではなく、「この額を贈与したときの負担率」と「遺産が減ったときに相続税が減る率」です。
Q. どちらが得か、税務署で判定してもらえますか?
税務署の相談で聞けるのは、税率や控除の仕組み、申告のしかたといった制度の話です。将来の相続を見込んでどちらを選ぶかは、家族構成と財産の一覧をもとにした個別の試算になります。その試算は、相続税を扱う税理士に頼みます。
出典・参考にした公的な情報
- No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)(国税庁)
- No.4402 贈与税がかかる場合(国税庁)
- No.4152 相続税の計算(国税庁)
- No.4155 相続税の税率(国税庁)
- No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)(国税庁)
- No.4158 配偶者の税額の軽減(国税庁)
- No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)(国税庁)
- 登録免許税法 別表第一(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 地方税法 第73条の7(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 令和6年分 相続税の申告事績の概要(国税庁)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。