相続税の申告の誤りに気づいたら:修正申告と更正の請求の違い
相続税の申告をした後で誤りに気づいたら、直し方は税額が増えるか減るかで決まります。**税額が増える(財産の漏れ、評価の低すぎなど)なら「修正申告」、税額が減る(評価の高すぎ、控除の漏れなど)なら「更正の請求」**です。更正の請求は申告期限から5年以内、遺産分割がまとまったなど相続に特有の事情なら、それを知った日の翌日から4か月以内が期限です。修正申告は、税務署の調査の通知が来る前に自分で出せば、過少申告加算税がかかりません。かかるのは延滞税だけです。この記事では、違い、期限、加算税、手順を順に示します。
修正申告と更正の請求の違い
| 項目 | 修正申告 | 更正の請求 |
|---|---|---|
| 使う場面 | 申告した税額が少なかった | 申告した税額が多すぎた |
| 出すもの | 修正申告書 | 更正請求書(理由と事実を証明する書類を付ける) |
| 期限 | 税務署の更正があるまでは出せる(国税通則法19条) | 法定申告期限から5年以内。相続特有の事情は知った日の翌日から4か月以内 |
| 効果 | 出した時点で税額が確定し、増えた分を納める | 税務署が調査して、更正するか理由がない旨を通知する |
| 追加の負担 | 延滞税。調査の通知後なら過少申告加算税も | なし(認められれば還付) |
修正申告は自分で税額を確定させる手続きで、更正の請求は「減らしてください」と税務署に求める手続きです。更正の請求は、出しただけでは税額は変わりません。
国税庁の「相続税の申告のしかた」は、申告後に次のような事情が生じて税金が多すぎることになったときは、その事情を知った日の翌日から4か月以内に更正の請求ができ、同じ事情で少なすぎることになったときは修正申告ができると説明しています(相続税法31条・32条)。
- 未分割だった遺産の分割が行われた
- 認知や相続放棄の取消しなどで相続人が変わった
- 遺留分侵害額の請求に基づいて払う金額が確定した
- 遺贈に係る遺言書が見つかった、または遺贈の放棄があった
- 申告期限後の分割で、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を受けられることになった
期限:5年と4か月、税務署が直せる期間
期限は3つに分けて覚えます。
- 更正の請求の原則:法定申告期限から5年以内(国税通則法23条1項)。
- 相続特有の事情による更正の請求:上の一覧の事情が生じたことを知った日の翌日から4か月以内(相続税法32条)。
- 税務署が更正できる期間:法定申告期限から5年、偽りその他不正の行為があれば7年(国税通則法70条)。修正申告に期限の定めはありませんが、この期間を過ぎると税務署の側が直せなくなります。
時効の考え方と期間の数え方は相続税の時効は5年・7年?税務署が調べられる期間で詳しく扱います。
加算税と延滞税:自分で直すと軽くなる
修正申告で増えた税額には、延滞税がかかります。過少申告加算税は、いつ直したかで割合が変わります(国税通則法65条)。
| 直したタイミング | 過少申告加算税 |
|---|---|
| 調査の通知が来る前に、自分で修正申告 | かからない |
| 調査の通知の後、調査で指摘される前に修正申告 | 5% |
| 調査を受けて修正申告・更正 | 10%(期限内に申告した税額と50万円のいずれか多い額を超える部分は、さらに5%) |
| 財産を隠したり偽ったりしていた | 過少申告加算税に代えて重加算税35%(国税通則法68条) |
国税庁のFAQによると、税務署が文書や電話で見直しを求める行政指導に応じて自主的に修正申告を出した場合も、過少申告加算税は課されません(延滞税は納める場合があります)。
筆者の計算で、加算税の差を示します。期限内に申告した税額が100万円で、財産の漏れにより税額が300万円増えた場合です。基準額は「期限内申告税額100万円」と「50万円」の多いほうの100万円なので、超える部分は200万円です。
- 調査の通知の前に自分で修正:過少申告加算税0円
- 通知の後、指摘の前に修正:300万円×5%=15万円+200万円×5%=10万円、合計25万円
- 調査を受けて修正:300万円×10%=30万円+200万円×5%=10万円、合計40万円
- 隠蔽・仮装があった場合:300万円×35%=105万円(重加算税)
延滞税は、本来の納期限の翌日から納める日までの日数に応じてかかります。修正申告で納める税の納期限は修正申告書を出した日なので、2026年の割合は、本来の納期限の翌日から「修正申告書を出した日の翌日から2か月を経過する日」までが年2.8%、その後が年9.1%です。期限内に申告していて、法定申告期限から1年を過ぎて修正申告をした場合は、1年を経過した日の翌日から修正申告書を出した日までの期間は延滞税の計算から除かれます(国税通則法61条。不正があった場合を除く)。
手順:あとから財産が出てきたとき
申告後に預金や株式、土地などが見つかったときは、次の順で進めます。
- 見つかった財産の中身と価額を確かめる:死亡日の残高証明書、評価の資料を取り寄せます。相続税評価額で計算します。
- 誰が取得するかを決める:遺産分割協議書を作った後に見つかった財産の扱いは遺産分割協議書の作成後に新たな財産が見つかったら:やり直しの要否を参照してください。取得者が決まらないと、各人の税額を計算できません。
- 全員分の税額を計算し直す:相続税の総額が変わるため、見つかった財産を取得しない人の税額も変わることがあります。ある人の更正の請求に基づいて更正があり、ほかの人の税額が変わる場合は、税務署がほかの人について更正や決定をします(相続税法35条3項)。
- 修正申告書を出し、増えた税額を納める:修正申告で納める税額の納期限は、修正申告書を出した日です。延滞税も合わせて納めます。一度に納められない場合は、提出日までに延納を申請できます。
- 減る人がいれば更正の請求をする:更正請求書に、計算し直した税額、理由、事実を証明する書類を付けて出します。
修正の理由のメモの例:「申告後、被相続人名義の証券口座(○○証券、死亡日の評価額480万円)が見つかりました。長男が取得することで相続人全員が合意したため、長男の課税価格を480万円増額して修正申告します。」
自分で直すか、税理士に頼むか
1つの預金が見つかっただけで、取得する人が決まっていれば、修正申告書は自分でも作れます。様式は国税庁の「相続税の申告書等の様式一覧」から、相続のあった年の分を使います。次のような場合は、相続税を扱う税理士への相談を考えます。
- 見つかった財産の評価が難しい(土地、非上場株式、貸付金など)
- 税額が増える人と減る人がいて、修正申告と更正の請求を組み合わせる
- 税務署から調査の通知や見直しの連絡がすでに来ている
申告を頼んだ税理士がいるなら、まずその事務所に連絡します。新しく探す場合の観点は相続に強い税理士の選び方:申告件数より先に確かめたい7つの点にあります。
税務署からの照会への答え方は前の相続税のお尋ねが届いたら:回答の書き方と申告が要るかの判断で、分割がまとまらないまま申告する手順は遺産分割がまとまらない時の相続税の申告で扱います。次の二次相続とは?2回目の相続で税金が増える理由では、一次相続の分け方が次の相続の税額に与える影響を見ます。
「相続税 申告 誤り」の話が相続税の手続き全体のどこに当たるかは、相続税とは?かかる人の目安・計算の流れ・申告期限10か月の全体像で確かめられます。
よくある質問
Q. 修正申告は、相続人全員で出し直す必要がありますか?
相続税は財産を取得した人ごとに税額が決まるので、修正申告は税額が増える人が自分の分を出します。ただし、ある人の財産が増えると相続税の総額が変わり、ほかの人の税額も動くことがあります。誰の税額がいくら変わるかを全員分計算し直してから、該当する人が手続きをします。
Q. 更正の請求をすると、税務調査を受けますか?
国税通則法23条4項で、税務署長は更正の請求があると、請求の中身を調査したうえで、更正するか、更正すべき理由がない旨を通知すると定められています。請求書には理由と「事実を証明する書類」を付けるので、減る理由を書類で示せるように準備してから出します。
Q. 申告後に遺産分割がまとまり、配偶者の税額軽減が使えるようになったら?
申告期限から3年以内に分割した場合などは、分割が行われた日の翌日から4か月以内に更正の請求をして、配偶者の税額の軽減を受けられます。申告のときに「申告期限後3年以内の分割見込書」を出しておくことが前提です。
出典・参考にした公的な情報
- 国税通則法 第19条・第23条・第35条・第60条・第61条・第65条・第68条・第70条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 相続税法 第31条・第32条・第35条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 相続税の申告のしかた(令和8年分用)「提出した申告書を訂正する必要がある場合」(国税庁)
- 税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)問2・問26(国税庁)
- No.4158 配偶者の税額の軽減(国税庁)
- B1-2 相続税の申告手続(申告書等の様式一覧)(国税庁)
- No.9205 延滞税について(国税庁)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。