不動産売却の税金と特例 / 手順

取得費加算の更正の請求:相続税が後で決まった時の手続き

この記事のもくじ
  1. 更正の請求が要る場合と要らない場合
  2. 日付で数える:筆者の2つの例
  3. 更正の請求の手順と、戻る税額の目安
  4. 相続税が後から減ったとき:修正申告と延滞税
  5. 加算を入れ忘れたとき・期限を過ぎたとき

売った後に相続税の申告をする場合は、まず取得費加算を入れずに売った年の確定申告を期限までに済ませ、相続税の申告を終えてから「更正の請求」をします。更正の請求の期限は、相続税の期限内申告書を出した日の翌日から2か月を経過する日です(租税特別措置法39条4項1号)。相続税の申告が先に済んでいるなら更正の請求は要らず、売った年の確定申告に取得費加算をそのまま入れます。この記事は、どちらに当たるかの見分け方、日付の数え方、手順、後から相続税が減ったときの修正申告を順に示します。

更正の請求が要る場合と要らない場合

分かれ道は、「売った年の確定申告の期限(翌年3月15日)までに、相続税の申告書を出し終えているか」です。売った年の確定申告は、売った年の翌年2月16日から3月15日までに行います(国税庁No.3102)。

早見表:相続税の申告の時期と、取得費加算の入れ方
場面 取得費加算の入れ方 根拠
A 相続税の申告を、売った年の確定申告より前に出した 確定申告書に特例を受ける旨を書き、計算明細書を付ける 措置法39条2項
B 相続税を期限内に申告したのが、確定申告の期限の翌日以後 更正の請求(期限は相続税の申告書を出した日の翌日から2か月) 措置法39条4項1号
C 確定申告を出したが、特例の記載や添付がなかった 税務署長が「やむを得ない事情」と認めれば、書類の提出で適用できる 措置法39条3項
D 後から相続税が減った(遺産分割のやり直しなど) 取得費に加える額が減るので、所得税の修正申告 措置法39条9項

Bの「相続税の期限内申告」とは、相続を知った日の翌日から10か月以内の申告です。措置法39条4項1号が更正の請求を認めているのは、売った年の確定申告の期限の翌日から相続税の申告期限までの間に、相続税の期限内申告書を出した人です。分かれ目は一文で言い切れます。相続税の申告書を確定申告の期限(3月15日)までに出せるならA、出すのがその翌日以後になるならBです。Aなら確定申告書に取得費加算を入れ、Bなら取得費加算なしで確定申告を済ませてから、相続税の申告後に更正の請求をします。

この号が扱うのは期限内申告だけで、10か月の期限を過ぎてから出した相続税の申告(期限後申告)は入っていません。期限後申告になりそうな人は、更正の請求の期限の起算日が変わる可能性があるため、売った年分の申告をした税務署に事前に聞いてください。窓口の使い方は譲渡所得税の相談窓口:税務署の電話相談と確定申告会場の使い方にあります。

日付で数える:筆者の2つの例

数え方は、日付を表に置くと迷いません。次の2つは、筆者が組んだ仮の日付です。

例1:更正の請求が要らない場合(A)

出来事 日付
亡くなり、相続を知った日 2026年4月10日
相続税の申告期限(10か月後) 2027年2月10日(水)
家を引き渡した日 2026年12月15日
売った年(2026年分)の確定申告期限 2027年3月15日(月)

相続税の申告期限(2027年2月10日)が、確定申告の期限(同年3月15日)より前に来ます。相続税を先に申告すれば、確定申告に取得費加算を入れられるので、更正の請求は使いません。

例2:更正の請求が要る場合(B)

出来事 日付
亡くなり、相続を知った日 2026年10月20日
相続税の申告期限(10か月後) 2027年8月20日(金)
家を引き渡した日 2026年12月10日
売った年(2026年分)の確定申告期限 2027年3月15日(月)
相続税の申告書を出した日 2027年6月10日(木)
更正の請求の期限 2027年8月10日(火)

確定申告の期限(2027年3月15日)の時点では、相続税の申告がまだです。取得費加算を入れずに確定申告をして、相続税の申告書を出した日(6月10日)の翌日から2か月を経過する日、つまり6月10日の2か月後の応当日である8月10日までに更正の請求を出します。「翌日から2か月」の数え方は、起算日が6月11日で、民法の期間の計算では2か月後の応当日(8月11日)の前日に満了する、という筆者の読み方です。期限が近い人は、満了日を税務署に電話で確かめてから出してください。

売る側の期限も、日付で確かめます。取得費加算を使うには、相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売ることが必要です。例2なら、2027年8月20日の翌日から3年を経過する2030年8月20日(火)までです。相続の期限の全体は相続の期限一覧:3か月・4か月・10か月・3年の順番と過ぎたときの影響で確かめられます。

更正の請求の手順と、戻る税額の目安

更正の請求は、次の順に進めます。

  1. 相続税の申告・納付を期限内に済ませ、申告書の控えを手元に置く。
  2. 「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」を作る。書き方は取得費加算の計算明細書の書き方:記載例と添付する書類で示します。
  3. 更正請求書に、取得費加算の適用を受けようとする旨を書く(条文は、更正請求書への記載と、計算明細書などの添付を要件にしています。措置法39条5項で準用する同条2項)。
  4. 売った年の確定申告で出した譲渡所得の内訳書と同じ数字を、加算額だけ変えて計算し直す。
  5. 期限内に所轄の税務署へ出す。

加算額は、相続税額に、売った財産の相続税評価額が取得した財産全体に占める割合をかけて出します(国税庁No.3267)。加算額の上限は、この特例を使わない場合の譲渡益です。加算額の計算の考え方は取得費加算の特例:相続税を払った人が売却益の税金を減らすしくみで整理しています。

効果の大きさを、筆者の仮の数字で計算します。次の前提です。

  • 売った価額4,000万円、取得費1,000万円、譲渡費用150万円。長期で、ほかの特例は使わない。
  • 相続税額1,200万円、取得した財産の価額が合計1億円、売った財産の相続税評価額が2,500万円。

加算額は、1,200万円×2,500万円÷1億円=300万円です。

加算なし 加算あり
譲渡所得(4,000−1,000−150) 2,850万円 2,550万円(取得費が1,300万円)
税額(約20.315%) 約579.0万円 約518.0万円
差 約60.9万円

検算は、2,850×0.20315=578.98、2,550×0.20315=518.03、300×0.20315=60.9です。このうち更正の請求で戻るのは所得税と復興特別所得税の分(300万円×15.315%=約45.9万円)で、住民税の分(300万円×5%=15万円)は市区町村の手続きになります。住民税の扱いは、市区町村の窓口で聞いてください。

相続税が後から減ったとき:修正申告と延滞税

取得費加算の額は、相続税額に連動します。遺産分割がまとまらないまま申告し、後で分割が決まって相続税の更正の請求をした結果、相続税額が減ることがあります。すると、取得費に加える額も減り、売った年の所得税が増えます。この場合は更正の請求ではなく、所得税の修正申告で、足りない税金を納めます。

条文には、救済も置かれています。相続税法32条1項の更正の請求で相続税額が減った人が、修正申告をしたり更正を受けたりして納める所得税については、法定納期限の翌日から修正申告書を出した日(または更正通知書を発した日)までの期間は、延滞税を計算する期間に入れないと書かれています(措置法39条9項)。相続税が減ったことを知ったら、修正申告を後回しにせず、早めに出すほうが負担は小さくなります。

特例は、空き家の3,000万円特別控除とは重ねて使えません。どちらを選ぶかは取得費加算と空き家特例は併用できない:どちらを選ぶかの比べ方で比べられます。

加算を入れ忘れたとき・期限を過ぎたとき

確定申告で、特例を受ける旨の記載や計算明細書の添付を忘れた場合は、条文に救済が1つあります。税務署長が、提出や記載、添付がなかったことについて「やむを得ない事情がある」と認めるときに限り、記載した書類と計算明細書を出すことで、特例を適用できます(措置法39条3項)。やむを得ない事情に当たるかを決めるのは税務署長で、サイトが当たる・当たらないを言える部分ではありません。

一般の更正の請求は、原則として法定申告期限から5年以内とされています(国税庁No.2026)。ただし、取得費加算は記載と添付が適用の条件なので、5年以内なら通ると考えず、まず税務署に事情を伝えて確かめてください。いずれの場合も、売った時期が前述の3年の枠を過ぎていれば、特例そのものを使えません。

この手続きは、確定申告の流れの一部です。申告全体の順番は不動産売却の確定申告:やり方・期限・必要書類を順番に解説に、建物の取得費を出す手順は不動産売却の税金計算の減価償却:建物の取得費の計算方法にあります。

よくある質問

Q. 相続税の申告より先に売ってしまっても、取得費加算は使えますか?

条文の要件は、相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売ることと、その人に相続税額があることです。相続税の申告前に売ったかどうかは要件に入っていないので、売る順番だけで使えなくなることはありません。

Q. 修正申告と更正の請求は、どう使い分けますか?

払う税金が増えるときは修正申告、払いすぎの税金を戻したいときは更正の請求です。取得費加算を後から入れると所得税は減るので、更正の請求になります。相続税が減って加算額も減るときは、所得税が増えるので修正申告になります。

Q. 相続税を払っていない(基礎控除以下だった)ときも、取得費加算の更正の請求はできますか?

できません。この特例は、売った人に相続税額があることが前提です。相続税がかからなかった人は対象外なので、更正の請求の前に、自分に相続税額があるかを相続税の申告書で確かめてください。

出典・参考にした公的な情報

出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。

この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。

取得費加算の特例:相続税を払った人が売却益の税金を減らすしくみ

取得費加算の計算明細書の書き方:記載例と添付する書類

不動産売却の税金計算の減価償却:建物の取得費の計算方法

取得費加算と空き家特例は併用できない:どちらを選ぶかの比べ方