相続した不動産はどうする?住む・貸す・売る・手放すの判断材料
この記事のもくじ
相続した不動産の行き先は、住む・貸す・売る・手放すの4つです。どれを選ぶかは、維持にかかるお金、税金、手間、そして家族の気持ちのつり合いで決まります。どの道を選んでも先にやることは同じで、誰が相続するかを決めて相続登記をすることです。売ると決めたら、相続登記 → 査定 → 税の特例の期限の確認、の順に進めると、売り出してから「名義が親のままで契約できない」「特例の期限が過ぎていた」という行き違いを防げます。
相続した不動産の4つの道:費用・税金・手間の比較
まず4つの道を横に並べます。家・土地・マンションのどれでも、考え方の骨組みは同じです。
| 道 | 主にかかるお金 | 税金で気をつけること | 手間 | 向いている場合 |
|---|---|---|---|---|
| 住む | 固定資産税、修繕費、引越し費用 | 住んだ後に売ると、自宅を売ったときの3,000万円特別控除を検討できる | 名義を住む人にし、他の相続人との分け方を決める | 相続人の誰かが住む予定がある |
| 貸す | 固定資産税、修繕・リフォーム費、管理の委託料、保険料 | 家賃は不動産所得として確定申告。貸すと、相続した空き家の3,000万円特別控除は使えなくなる | 入居者の募集・修繕・退去の対応が続く | 立地がよく、長く持つつもりがある |
| 売る | 仲介手数料、登記費用、片付け・解体の費用 | 売却益に譲渡所得の税金。取得費加算か空き家の特例のどちらかを使えることがある | 売るまでの数か月の準備と、翌年の申告 | 誰も使う予定がなく、維持費を払い続けたくない |
| 手放す | 相続土地国庫帰属制度の審査手数料と負担金、建物の解体費 | 手放すまでの固定資産税 | 条件を満たすための解体・境界の確認、審査待ち | 売れにくい土地で、買い手が見つからない |
「売る」と「貸す」で迷う人は多いのですが、税金の面で大きな違いが一つあります。相続した空き家の3,000万円特別控除は、相続の時から売る時まで、事業・貸付け・居住に使っていないことが要件です(国税庁 No.3306)。数年貸してから売るつもりなら、この特例は使えない前提で収支を比べます。貸した場合と売った場合の比べ方は空き家を賃貸に出すか売るかの比べ方で詳しく扱います。
どの道でも先に決めること:名義・期限・物件の価値
4つのどれを選ぶ前でも、次の3つは避けて通れません。
1. 誰の名義にするか。 遺言がなければ、相続人全員の話し合い(遺産分割協議)で決めます。安易に兄弟の共有にすると、後で建て替えなど共有物に変更を加えるには共有者全員の同意が要り(民法251条)、家全体を売るときも全員が売主として契約に加わる必要があります。一人で継ぐ、売って代金を分ける、継ぐ人が他の兄弟にお金を払う、のどれにするかを、先に比べておきます。
2. 期限。 相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記をする義務があります(不動産登記法76条の2)。2024年4月1日より前の相続でまだ登記していないものは、2027年3月31日(令和9年3月31日)までです。期限と過料の扱いは相続登記の義務化にまとめています。借金のほうが多くて相続そのものをやめたい場合は、相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所で相続放棄をする道もあります(民法915条)。
3. 物件の価値と状態。 価値の目安は次の3つで調べます。
- 固定資産税の課税明細にある評価額(税金のための値で、売れる値段ではない)
- 国土交通省の不動産情報ライブラリにある近くの取引価格・成約価格(物件ごとの事情が反映された値で、同じ値で売れるとは限らない)
- 不動産会社の査定(根拠つきで複数社を比べる)
あわせて、建物の傷み、雨漏り、境界の目印、接している道路の幅を見ておくと、住む・貸すにかかる修繕費や、売りやすさの見当がつきます。
住む・貸す場合に知っておくこと
住む場合。 住む人の名義にして、他の相続人とは預金など別の財産で釣り合いをとるか、住む人が他の兄弟にお金を払う形で調整します。住んだ後に将来売るなら、自分が住んでいた家を売ったときの3,000万円特別控除を検討できます。住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ることなどが要件です(国税庁 No.3302)。
貸す場合。 家賃収入は不動産所得になり、総収入金額から必要経費を引いた額を確定申告します(国税庁タックスアンサー「不動産収入を受け取ったとき」)。古い家を貸すには、水回りの修繕や設備の交換が先に要ることが多く、その費用を家賃で何年かけて取り戻せるかを計算してから決めます。入居者がいる家は、売るときに「入居者付き」として買い手が限られる点も考えに入れます。
どちらの場合も、親が買ったときの売買契約書は捨てずに残します。相続した不動産を後で売るとき、取得費と取得の時期は親のものを引き継ぐからです(国税庁 No.3270)。
売る場合の順番:相続登記→査定→税の特例
売ると決めたら、次の順に進めます。
- 遺産分割で売主を決める。 代表者一人の名義で売るか、相続人の共有で売るかを決め、代金の分け方も協議書に書く。
- 相続登記をする。 亡くなった人の名義のままでは、買主へ名義を移す登記ができません。
- 査定を頼み、売り方を決める。 仲介で買い手を探すか、不動産会社に買い取ってもらうかを、査定額と期間で比べる。査定の依頼は登記の手続きと並行してよい。
- 売買契約・決済。 代金の受け取りと名義の移転は同じ日に行う。
- 翌年の確定申告。 売却益が出たら、売った年の翌年2月16日から3月15日までに申告する。
税の特例は2つが候補です。相続税を納めた人は、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売ると、相続税額の一部を取得費に加えられます(取得費加算の特例、国税庁 No.3267)。亡くなった親が一人で住んでいた昭和56年5月31日以前建築の家なら、相続した空き家の3,000万円特別控除が使える場合があります(No.3306)。2つは同時には使えず、どちらか一方です。期限を一覧で見たい人は相続不動産の売却期限と税の特例の早見表を、手順を一つずつ確かめたい人は次の相続不動産の売却の流れを読んでください。
手放す場合:国庫帰属・相続放棄の条件
売れにくい土地を手放す方法として、相続土地国庫帰属制度があります。ただし、建物がある土地、担保権がついている土地、境界がはっきりしない土地などは申請できず、崖や地中の埋設物がある土地は承認されません。家が建っている土地は、解体してから申請することになります。審査手数料と負担金の額、申請先は相続土地国庫帰属制度の条件と費用で確かめてください。
相続放棄は、不動産だけを選んで手放す方法ではありません。放棄した人は初めから相続人でなかったものとみなされ(民法939条)、預金も含めて全部を受け取らないことになります。また、放棄を考えている間に家を売ったり取り壊したりすると、相続を認めた(単純承認した)とみなされることがあります(民法921条)。どの時点でどの方法が選べるかは相続した土地や家がいらないときの判断の順番で整理しています。空き家に絞った選び方は相続した空き家はどうするかも参考になります。
売るかどうかまだ決めていない段階でも、査定を受けて「いくらくらいで、どのくらいの期間で売れそうか」を知ると、住む・貸すとの比較がしやすくなります。不動産会社の査定をまとめて頼める一括査定サービスも選択肢の一つです。査定額はその金額での売却を約束するものではないので、根拠を聞いて比べること、申し込むと複数社から連絡が来ること、査定を受けた後で売らないと決めてもよいことを知ったうえで使います。
よくある質問
Q. 相続した不動産は、とりあえず兄弟の共有にしておけば公平ですか?
持分で分けるので数字の上では公平に見えますが、後で家全体を売る、建て替える、といった大きな変更には共有者全員の同意が要ります。一人が反対したり、共有者が亡くなって相続人が増えたりすると、動かせなくなることがあります。共有にする前に、売って代金を分ける方法や、一人が継いで他の兄弟にお金を払う方法と比べてから決めます。
Q. 相続した土地や家の値段は、どうやって調べればよいですか?
毎年届く固定資産税の納税通知書の課税明細には、固定資産税評価額が載っています。ただし評価額は税金を計算するための値で、売れる値段とは別のものです。売ることを考えるなら、近くの成約事例を国土交通省の不動産情報ライブラリで見たうえで、不動産会社の査定を複数比べます。
Q. 誰に相談すれば、相続した不動産の行き先を決められますか?
決めるのは相続人ですが、論点ごとに相談先が分かれます。名義の変更は司法書士、相続税や売却益の税金は税理士、売る場合の価格や売り方は不動産会社、相続人どうしで分け方がまとまらないときは弁護士です。どの専門家に何を頼めるかは、専門家の頼み分けの記事で確かめてから相談すると話が早く進みます。
出典・参考にした公的な情報
- 民法 第251条・第915条・第921条・第939条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 不動産登記法 第76条の2(相続登記の申請義務)(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 相続登記の申請義務化について(法務省)
- タックスアンサー No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)(国税庁)
- タックスアンサー No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期(国税庁)
- タックスアンサー No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(国税庁)
- タックスアンサー No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例(国税庁)
- タックスアンサー No.3302 マイホームを売ったときの特例(国税庁)
- 相続土地国庫帰属制度について(法務省)
- 不動産情報ライブラリ(国土交通省)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。