配偶者が亡くなった時の相続手続き:自宅・預金・年金で先に確かめること
この記事のもくじ
配偶者を亡くしたときの相続手続きは、生活を守る順に確かめると迷いません。順番は、①今の家に住み続けられるか(配偶者短期居住権)、②当面のお金を出せるか(預金の払戻し制度)、③年金はどう変わるか(未支給年金と遺族年金)、④相続税で配偶者向けの軽減を使えるか、です。どれも配偶者だけに認められた制度や、配偶者が真っ先に影響を受ける制度で、手続きをしないと使えないものがあります。ここでは条件と窓口を、残された配偶者の目線で並べます。
最初の2週間で確かめること:届け出と生活費の見通し
亡くなった直後は届け出が続きます。配偶者に関係が深いものを先に書き出します。届け出の全体の順番は死亡届から7日・14日以内の届け出の順番で確かめてください。
| 確かめること | 目安の期限 | 窓口・ポイント |
|---|---|---|
| 年金の受給権者死亡届 | 日本年金機構にマイナンバーが収録されている人は原則不要。必要な場合は厚生年金10日以内・国民年金14日以内 | 年金事務所。未支給年金の請求は届出が不要な場合も別に必要 |
| 世帯主の変更届 | 世帯主に変更があった日から14日以内(住民基本台帳法25条) | 市区町村。亡くなった人が世帯主だった場合に、届け出が要るかを窓口で確かめる |
| 健康保険の葬祭費・埋葬料 | 時効は2年 | 国民健康保険・後期高齢者医療は市区町村や広域連合の条例で額が決まる。会社員の健康保険(協会けんぽ)の埋葬料は5万円 |
| 口座からの引落とし | — | 亡くなった人の口座で払っていた公共料金やカード代の引落とし先を、自分の口座へ変える |
このうち生活費に直結するのは、亡くなった人の口座の扱いと年金です。収入が亡くなった人の給与や年金だった家庭では、次の2つの章を先に読んでください。
自宅:住み続けられるかを2つの権利で確かめる
亡くなった人の名義の家に住んでいた配偶者には、すぐに家を追われないための権利が民法で用意されています。
配偶者短期居住権(民法1037条)は、相続開始の時に亡くなった人の家に無償で住んでいた配偶者が、当然に持つ権利です。配偶者を含めて遺産分割をする場合は、「分割で家の取得者が決まった日」と「相続開始から6か月を経過する日」の遅いほうまで、無償で住めます。遺言で別の人が家を受け取った場合などは、その人から消滅の申入れを受けた日から6か月を経過する日までです。登記などの手続きはいりません。
**配偶者居住権(民法1028条)**は、遺産分割や遺贈で取得すると、原則として配偶者が亡くなるまで無償で住み続けられる権利です。2020年4月1日以降に開始した相続で使えます。ただし、亡くなった人が家を配偶者以外の人と共有していた場合は取得できず、権利を売ることもできません。使うかどうかの判断材料は配偶者居住権とは?使う条件と注意点にまとめています。
婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、自宅やその敷地を生前に贈与していた場合や遺言で遺贈した場合は、その分を遺産分割で差し引かない意思があったものと推定されます(民法903条4項)。生前に自宅の持分を受け取っていた人は、遺産分割の話し合いの前に贈与の時期と登記を確かめておきます。
預金:止まった口座から生活費を出す方法
金融機関が名義人の死亡を知ると、口座の入出金は原則として止まります。遺産分割がまとまる前でも、**預金の払戻し制度(民法909条の2)**を使えば、各相続人が単独で一定額を受け取れます。受け取れる額は「相続開始時の口座の残高×3分の1×その人の法定相続分」で、1つの金融機関につき150万円が上限です。
筆者の計算例(相続人が妻と子2人で、妻の法定相続分は2分の1の場合):
| 口座(相続開始時の残高) | 計算 | 受け取れる額 |
|---|---|---|
| A銀行 600万円 | 600万円×1/3×1/2=100万円 | 100万円 |
| B銀行 900万円 | 900万円×1/3×1/2=150万円 | 150万円 |
| C銀行 1,500万円 | 1,500万円×1/3×1/2=250万円 | 上限の150万円 |
検算:600÷3=200、200÷2=100。900÷3=300、300÷2=150。1,500÷3=500、500÷2=250で、150万円を超えるので上限の150万円です。
窓口で求められる書類は、全国銀行協会の案内では、亡くなった人の出生から死亡までの戸籍、相続人全員の戸籍、払戻しを受ける人の印鑑証明書です。遺言で預金の受け取り手が決まっている場合などは使えないことがあります。150万円を超える額が必要なときは、遺産分割の調停・審判を申し立てたうえで家庭裁判所に仮の取得を求める方法もあり、こちらは法律上の上限額がありません。細かい手順は預金の相続の仮払い制度で説明しています。
払い戻した額は、あとで遺産分割をするときに、その相続人が一部を先に受け取ったものとして扱われます。生活費や葬儀代に使った額と領収書は、ほかの相続人に説明できるよう残しておきます。
年金:未支給年金と遺族年金は別々に請求する
年金は「亡くなった人がまだ受け取っていない分」と「残された家族が受け取る分」に分かれ、手続きも別です。
- 未支給年金:年金は亡くなった月の分まで支払われます。まだ支払われていない分は、亡くなった当時に生計を同じくしていた配偶者などが、自分の名前で請求できます(請求できる順位の先頭が配偶者)。請求書は「年金受給権者死亡届(報告書)兼 未支給年金・未支払給付金請求書」で、時効は5年です。受け取った未支給年金は、受け取った遺族の一時所得として扱われます。
- 遺族基礎年金:対象は亡くなった人に生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」です。子は18歳になった年度の3月31日までの子などを指します。額は毎年4月に改定されるので、令和8年度の額と子の加算は親が亡くなった時の相続手続きと年金で確かめてください。
- 遺族厚生年金:亡くなった人が厚生年金に入っていた場合に、報酬比例部分の4分の3が基本です。子のない30歳未満の妻は5年間に限られます。夫が受け取る場合は55歳以上が条件で、支給は原則60歳からです。40歳から65歳までの妻には、条件を満たすと中高齢寡婦加算(年635,500円)がつきます。
年金額は毎年度改定されます。また令和7年の年金制度改正で遺族年金の扱いが変わる部分がありますが、2026年10月時点では大部分が施行前です。受け取れるかどうか、いくらになるかは、年金証書を持って年金事務所で確かめてください。未支給年金の書類は親が亡くなった時の相続手続きと年金でも説明しています。
- 住まい:配偶者短期居住権で、少なくとも相続開始から6か月は無償で住める(無償で住んでいた場合)
- お金:預金の払戻し制度で、1つの金融機関につき150万円まで
- 年金:未支給年金(時効5年)と遺族年金を年金事務所で請求
- 相続税:配偶者の税額の軽減は申告して使う(期限10か月)
- 長く住む:配偶者居住権か、自宅を相続する分け方を遺産分割で決める
相続税:配偶者の税額の軽減は申告して初めて使える
相続税がかかる家庭でも、配偶者が実際に取得した正味の遺産額が「1億6,000万円」か「配偶者の法定相続分相当額」のどちらか多い額までは、配偶者に相続税がかかりません(国税庁 No.4158)。ただし、次の点を外すと使えません。
- 申告が要件:軽減を書いた申告書を出して初めて受けられます。軽減で税額がゼロになっても、基礎控除を超える遺産があれば申告します。相続税がかかるかの一次判定は相続税の基礎控除の早見で確かめられます。
- 分割が終わっていること:申告期限までに分割されていない財産は対象外です。「申告期限後3年以内の分割見込書」を出し、3年以内に分割すれば、あとから適用を受けられます。
- 添付書類:遺言書の写しか遺産分割協議書の写し、戸籍謄本などを添えます。協議書に押した印鑑証明書は原本を出します。
配偶者がたくさん受け取ると、配偶者自身が亡くなったときの相続(二次相続)で子の相続税が増えることがあります。軽減の上限まで受け取るのがよいかは家庭ごとに違うので、相続税の配偶者控除と二次相続での注意で考え方を確かめ、税額の試算は税理士に依頼します。
手続きの途中で配偶者が亡くなったとき(数次相続)
反対に、親などの相続の手続きの途中で、相続人だった配偶者が亡くなる場合もあります。遺産分割が終わる前に相続人が亡くなると、その人が持っていた相続人としての立場を、その人の相続人(残された配偶者や子)が引き継ぎます(民法896条)。亡くなった人についての相続が、もう1本重なる形で、これを数次相続と呼びます。前の相続の遺産分割協議には、亡くなった配偶者の相続人が全員で加わるため、署名と印鑑証明書が要る人が増えます。相続登記の書類の組み合わせも変わるので、順番と中間を省略できるかは数次相続の相続登記:祖父名義の家を登記する順番と中間省略で確かめ、迷うときは法務局の相談窓口か司法書士に先に聞きます。
次に読む記事では、相続人の中に認知症の人がいる場合を扱います。高齢の夫婦では、残された配偶者自身の判断能力が手続きの進め方を左右するためです。続きは相続人に認知症の人がいる相続手続きへ。
よくある質問
Q. 夫名義の家に住んでいます。相続手続きが終わるまで家を出る必要はありますか?
相続開始の時に夫の家に無償で住んでいた配偶者には、配偶者短期居住権があります(民法1037条)。遺産分割をする場合は、家の取得者が決まる日か相続開始から6か月を経過する日の遅いほうまで、無償で住み続けられます。それより長く住む方法は、配偶者居住権か、自宅を自分が相続する分け方です。
Q. 夫の口座から葬儀代や当面の生活費を引き出してもいいですか?
口座は金融機関が死亡を知ると原則として入出金が止まります。遺産分割の前でも、預金の払戻し制度で「口座の残高×3分の1×自分の法定相続分」を、1つの金融機関につき150万円まで単独で受け取れます。相続放棄を考えている場合は、引き出すと単純承認とみなされるおそれがあるので、引き出す前に家庭裁判所の手続案内や専門家に確かめてください。
Q. 配偶者の税額の軽減を使えば、相続税の申告はしなくてよいですか?
いいえ。この軽減は、相続税の申告書に適用を書いて出すことで受けられる制度です。軽減の結果として納める税額がゼロになる場合も、基礎控除を超える遺産があるなら申告が要ります。申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。
出典・参考にした公的な情報
- 民法 第896条・第903条・第909条の2・第1028条・第1037条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 民法第909条の2に規定する法務省令で定める額を定める省令(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 亡くなった親の預貯金、すぐに引き出すことは可能ですか?(全国銀行協会)(全国銀行協会)
- 未支給年金の請求(日本年金機構)(日本年金機構)
- 遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)(日本年金機構)(日本年金機構)
- 遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)(日本年金機構)(日本年金機構)
- 年金を受けている方が亡くなったとき(日本年金機構)(日本年金機構)
- 年金受給者が亡くなりました。何か手続きは必要ですか。(日本年金機構・よくある質問)(日本年金機構)
- 年金の時効(日本年金機構)(日本年金機構)
- No.4158 配偶者の税額の軽減(国税庁)(国税庁)
- 埋葬料・埋葬費についてのよくある質問(全国健康保険協会)(全国健康保険協会)
- 国民健康保険法 第58条・第110条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 住民基本台帳法 第25条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
出典の確認日:2026-10-24。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。