生前贈与のやり方:方法の選び方・手続き・相続税との関係
この記事のもくじ
生前贈与は、①方法を選ぶ(暦年課税か相続時精算課税か、非課税の特例を使うか)→②贈与契約書を作る→③財産を実際に移す(振込・登記・口座の移管)→④必要なら翌年2月1日〜3月15日に贈与税の申告をする、の順で進めます。相続税との関係では、暦年課税の贈与は亡くなる前の一定期間(2026年12月31日までの相続なら3年、2027年から段階的に延びて最長7年)の分が相続財産に足し戻され、相続時精算課税の贈与は期間に関係なく足し戻されます。どちらも、贈与した事実が記録で示せることが前提です。
生前贈与のやり方:4つの手順
- 財産と相手を決める。 何を(現金・土地建物・株式)、誰に(子・孫・配偶者)、いくら・どの割合で渡すかを決めます。不動産と非上場株式は、贈与税の計算に使う評価額を先に出しておきます。
- 課税の方法を選ぶ。 贈与税は、何もしなければ暦年課税です。60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与では、相続時精算課税を選ぶこともできます。住宅の購入資金や夫婦間の自宅の贈与なら、非課税の特例が使えるかを確かめます。
- 贈与契約書を作り、財産を移す。 あげる人ともらう人が署名した契約書を作り、その内容どおりに財産を移します。現金なら、もらう人が自分で管理する口座への振込、不動産なら所有権移転登記、株式なら証券口座の移管です。
- 翌年に申告・届出をする。 暦年課税は、1年間にもらった合計が110万円を超えたら、もらった人が翌年2月1日〜3月15日に、自分の住所地の税務署へ申告と納税をします。相続時精算課税を選ぶ年は、選択届出書を同じ期間に出します。
手順2の選び方で、その後の税金と相続のときの扱いが大きく変わります。次の見出しで比べます。
方法の選び方:暦年課税・相続時精算課税・非課税の特例
| 項目 | 暦年課税 | 相続時精算課税 | 非課税の特例 |
|---|---|---|---|
| 使える組み合わせ | 誰から誰へでも | 60歳以上の父母・祖父母から、18歳以上の子・孫へ(年齢は贈与の年の1月1日) | 特例ごと(住宅取得等資金は直系尊属から、配偶者控除は夫婦間) |
| 毎年差し引く額 | 基礎控除110万円(もらう人ごと) | 基礎控除110万円(もらう人ごと) | 特例の上限まで |
| 大きな枠 | なし | 贈与者ごとに累計2,500万円の特別控除 | 住宅取得等資金1,000万円(省エネ等。2026年12月31日までの贈与が対象)・配偶者控除2,000万円など |
| 税率 | 10〜55%の累進 | 特別控除を超えた部分に一律20% | 枠を超えた部分は暦年課税 |
| 相続のとき | 加算期間内の贈与だけ足し戻す | 基礎控除を引いた残りを全部足し戻す | 非課税の額は足し戻さない |
| やめられるか | — | 一度選ぶと、その贈与者からは暦年課税に戻れない | — |
数字で比べると違いが見えます(筆者の計算)。60歳以上の父が30歳の子に500万円を贈与した場合、暦年課税では(500万円−110万円)×15%−10万円=48.5万円の贈与税です。親や祖父母から18歳以上の子・孫への贈与には、税率の低い「特例贈与財産」の表を使います。同じ500万円を相続時精算課税で受けると、500万円−110万円=390万円が2,500万円の特別控除の内側に収まり、贈与税は0円です(申告は必要)。ただし、その390万円は父が亡くなったとき相続財産に足し戻されます。
国税庁の例では、父から毎年1,000万円を3年続けて精算課税で受けると、1年目と2年目は0円、3年目は特別控除を170万円超えるため34万円の贈与税がかかり、相続のときに2,670万円(1,000万円から110万円を引いた890万円×3年)を足し戻します。
暦年課税の毎年の進め方は暦年贈与とは?毎年110万円の贈与のやり方と7年加算の影響、精算課税は相続時精算課税とは:2,500万円の特別控除と110万円の基礎控除、非課税になるものの全体は贈与税が非課税になるもの一覧の早見表で確かめられます。
財産の種類ごとの手続き:現金・不動産・株式
| 財産 | 移す手続き | 用意するもの | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 現金・預金 | もらう人名義の口座へ振り込む | 贈与契約書、振込の記録 | 手渡しの現金は記録が残りにくい。もらう人が通帳・カードを自分で管理する |
| 土地・建物 | 法務局へ所有権移転登記(原因「贈与」)を申請 | 贈与契約書、贈与者の登記識別情報(権利証)、贈与者の印鑑証明書(3か月以内)、受贈者の住民票の写し、固定資産評価証明書 | 登録免許税は不動産の価額の2%(相続なら0.4%)。後日、都道府県から不動産取得税がかかる |
| 上場株式・投資信託 | 証券会社で、もらう人の口座へ移管(名義書換) | 贈与契約書、証券会社所定の書類、もらう人の証券口座 | 評価は贈与日の終値と、贈与日の属する月・前月・前々月の毎日の終値の月平均額のうち最も低い額 |
不動産の登記は、あげる人(登記義務者)ともらう人(登記権利者)が共同で申請し、法務局の記載例では、もらう人があげる人から委任を受けて申請する形が示されています。登記に添付する「登記原因証明情報」は、当事者・物件が分かる贈与契約書がそのまま使えます。不動産の場合の費用の比べ方は不動産の生前贈与:手続き・登記・かかる税金と相続との比べ方、株式は株式の生前贈与:証券口座の移管の手続きと評価額・贈与税、車は車の生前贈与:名義変更の手続きと贈与税がかかる金額の目安で手順を追っています。
- 財産と相手を決め、評価額を出す
- 暦年課税/相続時精算課税/非課税の特例を選ぶ
- 贈与契約書を作る(日付・財産・双方の署名)
- 振込・登記・口座移管で財産を移す
- 翌年2月1日〜3月15日:申告(110万円超、精算課税の届出、特例の適用)
- 贈与した人が亡くなったとき:加算期間内の暦年贈与と、精算課税の贈与を相続税の計算に足す
相続税との関係:足し戻す贈与と、足し戻さない贈与
生前贈与で相続財産を減らしても、亡くなった人の相続税の計算に足し戻される贈与があります。
| 贈与の種類 | 相続税の計算に足すか |
|---|---|
| 暦年課税の贈与(相続や遺贈で財産を取得した人が受けたもの) | 加算期間内の分を足す。相続開始が2026年12月31日までなら3年以内、2031年1月1日以後は7年以内 |
| 暦年課税の贈与(財産を取得しない孫・子の配偶者など) | 原則として足さない |
| 相続時精算課税の贈与 | 期間に関係なく、毎年の基礎控除110万円を引いた残りを全部足す |
| 住宅取得等資金・配偶者控除などの非課税の額 | 足さない |
足し戻した贈与にかかっていた贈与税は、相続税から差し引かれます。加算の期間が2027年以後どう延びるかは、生前贈与の加算期間:3年から7年へ、相続開始日ごとの早見表が基準のページです。誰の贈与が加算の対象になるかは、次の記事で整理しています。
贈与が成立していないと見られないための記録
民法549条では、贈与はあげる側の意思表示と、もらう側の受諾で成立します。もらう人が知らないうちに名義だけ移した預金は、受諾がない、あるいは実際には親の財産のままだとして、亡くなったときに相続財産(名義預金)に数えられることがあります。国税庁の令和6事務年度の調査では、贈与税の実地調査2,778件のうち2,582件で申告漏れなどの非違があり、そのうち2,154件が無申告でした。
記録として残しておくと説明しやすいものは、次のとおりです。
- 贈与契約書(贈与のたびに作り、日付・金額・財産・双方の自署)
- もらう人名義の口座への振込の記録(手渡しにしない)
- 通帳・キャッシュカード・届出印をもらう人が自分で持っている
- 110万円を超えた年の贈与税の申告書の控え
契約書の書き方は暦年贈与の契約書の書き方:ひな形と毎年作る理由・保管の仕方にまとめています。
どの方法が自分の家に合うか、相続税が本当にかかる家かを数字で比べる判断は、税理士の仕事です(税理士法52条)。相続税がかかるかの一次判定は相続税の基礎控除:3,000万円+600万円×人数で一次判定する方法で自分でもできます。基礎控除を超えそうで、贈与の計画を税理士と相談したい場合、税理士を探す方法の一つとして紹介サービスがあります。紹介された税理士が相続税や贈与税を扱っているか、料金表を事前に示してくれるかを確かめてから面談に進んでください。
よくある質問
Q. 生前贈与は口約束でも成立しますか?
民法549条では、あげる側の意思表示ともらう側の受諾で贈与は成立し、書面は要件ではありません。ただし書面によらない贈与は、まだ渡していない部分を各当事者が解除できます(550条)。後から贈与があったことを示すためにも、贈与契約書を作り、日付・金額・双方の署名を残しておくのが実務の基本です。
Q. 親が子の名義の口座にお金を入れておけば生前贈与になりますか?
子が口座の存在を知らず、通帳や印鑑も親が持ったままだと、子が受諾していない、あるいは実際には親の預金のままだと見られるおそれがあります。その場合は贈与ではなく、亡くなったときに親の相続財産(名義預金)として扱われる可能性があります。もらう人が自分で管理する口座に振り込むことが出発点です。
Q. 生前贈与で贈与税を払った分は、相続税でも二重にかかりますか?
暦年課税の贈与が相続財産に足し戻された場合、その贈与にかかっていた贈与税は相続税から差し引かれます。相続時精算課税で払った贈与税も相続税から差し引き、引ききれない分は還付されます。同じ財産に二重に税がかかり続けるわけではありません。
出典・参考にした公的な情報
- No.4402 贈与税がかかる場合(国税庁)
- No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)(国税庁)
- No.4103 相続時精算課税の選択(国税庁)
- No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)(国税庁)
- No.4632 上場株式の評価(国税庁)
- No.4429 贈与税の申告と納税(国税庁)
- No.4405 贈与税がかからない場合(国税庁)
- 令和6事務年度における相続税・贈与税の調査等の状況(国税庁)
- 民法 第549条・第550条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 不動産登記の申請書様式について(所有権移転登記申請書・贈与)(法務局)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。