親の家を売るとき子が代わりに進めるには:委任状と意思確認
この記事のもくじ
元気な親の家を売るとき、売主はあくまで親で、子は親から委任状を受けて手続きを代わりに進める形が基本です。子が親の名前で勝手に契約することはできず、親が売ることを理解して決めていること(意思能力)が前提になります。委任状で進める場合は、不動産会社との媒介契約から売買契約、登記までの各場面で、親本人の意思が確かめられます。親に判断能力の不安がある場合は、子が代わりに売るのではなく、後見人を通す手続きや、元気な間に結んでおく家族信託が別の道になります。
子が親の家を売る方法は3つ:親が売る・委任状で代理・後見や信託
親の家を子が進めるといっても、法律上の立場は次の3つに分かれます。
| 方法 | 売主 | 向く場面 | 要件 |
|---|---|---|---|
| 親が自分で売り、子が同席して手伝う | 親 | 親が元気で、移動もできる | 親が契約書に署名する |
| 委任状で子が代理人になる | 親(子は代理人) | 親は判断できるが、遠方や病気などで動けない | 親が代理権を渡す時に意思能力がある |
| 後見人が売る/信託の受託者が売る | 後見人/受託者 | 親の判断力が落ちている、または元気なうちに信託を結んでいた | 家庭裁判所の関与や信託契約が要る |
この記事は2番目の「委任状で子が代理する」を中心に説明します。3番目は、認知症の親の不動産売却:本人の意思能力と後見人を通す手続きで詳しく扱います。代理の法律上の仕組みは、代理人が権限内で本人のためにすることを示して行った意思表示が、本人に直接効力を生じる、というものです(民法99条)。
- 親が売る意思をはっきり持ち、内容を理解している → 親が売主、子は委任状で手続きを代理
- 判断力に不安がある → 医師の診断や家庭裁判所の手続きが絡む。後見人を通す
- 元気なうちに備えたい → 家族信託で受託者に売却の権限を渡しておく
委任状で進めるときの流れ
親が売ると決めてから引き渡しまでの順番です。
- 親と子で、売る理由と条件を話し合う:売る理由、売り出したい時期、売却後の住まい、代金の使い道、最低限の価格を決めます。親が自分の言葉で説明できる状態にしておくことが、後の確認でも役に立ちます。
- 登記の名義を確かめる:法務局で登記事項証明書を取り、名義が親のままか、住所が今の住所と合っているかを見ます。住所が登記記録と合わないままだと、補正されない限り売買の登記の申請は却下されます(不動産登記法25条7号)。その場合は先に住所変更の登記が必要です。
- 不動産会社に査定を頼む:親の物件として査定を頼みます。複数社の査定の根拠を比べると、売り出し価格の考え方が見えてきます。
- 媒介契約を結ぶ:宅地建物取引業者は、媒介契約を結んだら、物件、価額、有効期間、報酬などを記した書面を遅滞なく依頼者に交付します(宅地建物取引業法34条の2)。依頼者は親なので、親が契約するか、委任状で子が代理します。
- 売買契約を結ぶ:買主と条件が決まったら、親(または代理人の子)が署名します。手付金の額、引き渡しの日、契約不適合責任の扱いを契約書で確かめます。
- 決済と引き渡し:買主が代金を払い、同じ日に司法書士が所有権移転の登記を申請します。この日に必要な書類は、親の実印、作成後3か月以内の印鑑証明書(不動産登記令16条)、登記識別情報、本人確認書類です。
- 売却益の申告:売った翌年の確定申告で、売却益の有無と特例の適用を申告します。申告するのは売主の親です。
親の家の査定額と、各社が示す価格の根拠を見比べたいときは、一括査定を使う方法があります。出てくる数字は売却が成立する金額ではなく、各社の見込みです。不動産会社が媒介契約で価額に意見を述べるときは根拠を示すことになっている(宅地建物取引業法34条の2)ので、根拠の説明を聞いて比べます。申し込み後は複数の会社から連絡が入ることがあります。申し込みは親の同意を得て親の物件として行い、売るかどうかは査定を見てから決めて構いません。
売却全体の流れは不動産売却の流れ:査定から引き渡しまでの7段階と期間・費用にあります。
委任状に書くこと・書いてはいけないこと
委任状は、何を誰に任せるかを書く書類です。不動産の売却では、次の項目を具体的に書きます。
| 項目 | 書き方の考え方 |
|---|---|
| 委任する人(親)と代理人(子)の氏名・住所 | 住民票・印鑑証明書と同じ表記にする |
| 物件の表示 | 登記事項証明書のとおりに土地と建物を書く |
| 委任する範囲 | 媒介契約の締結、売買契約の締結、代金の受領、登記申請、引き渡しなど、必要な行為を列挙する |
| 売却の条件 | 売却先、売却価格の下限、引き渡しの時期などを書き、白紙にしない |
| 有効期間 | いつまでの委任かを書く |
白紙委任は避けます。売却先や価格を空欄のまま渡すと、親の意向と違う契約をされても止められません。実際の書き方は不動産売却の委任状の書き方:共有者・遠方の人が代理を頼む文例の文例で確かめてください。
子が買主になる場合や、代理人が買主の代理人も兼ねる場合は注意が要ります。同じ法律行為で相手方の代理人になったり当事者双方の代理人になったりすると、本人があらかじめ許可した場合を除き、代理権のない人がした行為とみなされます(民法108条)。親の家を子が買うなど利益が対立する場面は、委任状だけで済ませず、専門家に相談します。
司法書士の意思確認に備える
売買の登記では、売主である親が登記義務者です。登記を申請するときは、登記義務者の登記識別情報を提供する決まりがあり(不動産登記法22条)、識別情報がない場合は、登記官からの事前通知か、司法書士などの代理人が本人であることの確認情報を提供する方法をとります(同23条)。実際の取引では、司法書士が親本人に面談して、本人であることと、売る意思があることを確かめるのが一般的な運びです。
面談の中身は事務所ごとに違いますが、次のような点を、親が自分の言葉で説明できるか事前に確かめておくと安心です。
- 売る物件がどれか(所在地、自分の家であること)
- なぜ売るのか、誰に、いくらで売るのか
- 売ったお金をどう使うのか
- 子が代理人になることを理解しているか
判断力に不安があるとき:認知症と診断されていても直ちに判断能力がないとは評価されない、と公証人連合会は説明しています。それでも、売る意思や内容を理解できないと司法書士や不動産会社が判断した場合は、手続きが止まります。その場合は、後見人を通す手続き(居住用の家なら家庭裁判所の許可も必要)か、元気な間に結ぶ家族信託を検討します。仕組みは成年後見とは?親が認知症になった時の財産管理と2026年改正の予定と家族信託で実家を売却する流れ:受託者が売るときの手続きと税金で説明しています。
売った代金と税金:親の財産として扱う
売主が親なので、売った代金は親の財産です。親の口座で受け取り、生活費や施設費に使います。子へ渡す場合は、1年間にもらった財産の合計が110万円を超えると申告が必要になる場合があります(国税庁、贈与税の暦年課税)。
売却益にかかる税金は親が申告します。親が今住んでいる家(または住まなくなって3年目の年末までの家)なら、居住用財産の3,000万円特別控除を使える可能性があります。ただし、子など「特別の関係がある人」に売った場合は対象外です(国税庁)。親が施設に入るために家を売るときの期限と手続きは、親の施設費用のために家を売却する:売る前に確かめる税と手続きで扱います。親自身が売ったあとに移る先は、老後の住み替え:持ち家を売って移る先の選び方で比べられます。相談先の番号は相続手続きの無料相談窓口一覧:登記・税・売却まで番号と受付時間で選べます。
よくある質問
Q. 親の代わりに、子が売買契約書に署名してもよいですか?
親から売買契約の代理権を委任状で正式に渡されていれば、子が代理人として契約できます(民法99条)。契約書には「売主○○ 代理人 子の氏名」のように代理であることが分かる形で署名します。親の名前を子が書く形は、本人の意思とみなされるか争いになるため避けます。委任状の中身は、契約の相手と範囲を具体的に書きます。
Q. 親が認知症と診断されていると、委任状は使えませんか?
診断名だけで決まるわけではありません。公証人連合会は、認知症と診断されても直ちに判断能力が欠けているとは評価されず、行為の内容ごとに判断されると説明しています。ただし、委任状を渡す時と売買契約の時に意思能力がなければ、その法律行為は無効になります(民法3条の2)。不安が強いときは、後見人を通す手続きに切り替えます。
Q. 売った代金は、親の口座に入れる必要がありますか?
売主は親なので、代金は親の財産です。親の口座で受け取り、親の生活費や施設費などに使うのが基本の形です。子の口座で受け取ったり、親から子へ移したりすると、贈与として扱われて贈与税の問題が出る場合があります。移し方を決める前に、税理士か税務署に相談します。
出典・参考にした公的な情報
- 民法 第3条の2・第99条・第108条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 不動産登記法 第22条・第23条・第25条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 不動産登記令 第16条・第18条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 宅地建物取引業法 第34条の2(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 任意後見契約の作り方・費用(日本公証人連合会)(日本公証人連合会)
- No.3302 マイホームを売ったときの特例(国税庁)(国税庁)
- No.4402 贈与税がかかる場合(国税庁)(国税庁)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。