譲渡所得税の買い替え特例:課税の繰り延べと3,000万円控除の選択
この記事のもくじ
譲渡所得税の買い替え特例(正式には「特定のマイホームを買い換えたときの特例」)は、売った年の譲渡益への課税を、買い換えた家を将来売るときまで繰り延べる制度です。税金がなくなるのではなく、先送りにするだけです。使えるのは、居住期間が10年以上で所有期間が10年を超える自宅を、売却代金1億円以下で売って買い換える場合で、3,000万円特別控除とは併用できません。ここで扱うのは自宅の買換えで、事業用資産の買換えの特例は別の制度です。住み替えの場面で「今年の税金を抑えたい」のか「税金を確定させて終わりにしたい」のかで、選ぶ方が変わります。
買い替え特例は「非課税」ではなく「繰り延べ」
国税庁は、この特例を「譲渡益が非課税となるわけではありません」と案内しています。しくみは次のとおりです。
- 売った家の譲渡益を、売った年は課税の対象にしない。
- 買い換えた家の取得価額を、実際に払った額ではなく、売った家の取得価額を引き継いだ額にする。
- 買い換えた家を将来売るとき、引き継いだ分だけ取得価額が低いので、譲渡益が大きく出る。
国税庁の例で見ます。1,000万円で買った家を5,000万円で売り、7,000万円の家に買い換えたとします。
| 時点 | 特例を使わない場合 | 買い替え特例を使う場合 |
|---|---|---|
| 5,000万円で売った年 | 譲渡益4,000万円に課税 | 課税されない(繰り延べ) |
| 将来、新居を8,000万円で売った年 | 譲渡益(新居の分)1,000万円に課税 | 実際の譲渡益1,000万円に、繰り延べた4,000万円を加えた5,000万円に課税 |
将来、まとめて課税される額は同じ4,000万円分です。つまり、特例が助けるのは「売った年に大きな税金を払う負担」と、買い換えのための資金繰りです。税金の総額が減る制度ではありません。長期の税率(約20.315%)は譲渡所得税の税率:長期20.315%・短期39.63%と所有期間の数え方で確かめられます。
買い替え特例の要件
国税庁のNo.3355にある要件を、売る家と買う家に分けて示します。
| 区分 | 主な要件 |
|---|---|
| 売る家 | 国内の自宅で、売った年の1月1日で家屋と敷地の所有期間がどちらも10年超。居住期間が10年以上。住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る |
| 売る相手・金額 | 親子や夫婦など特別の関係がある人への売却は対象外。売却代金は1億円以下(分割して売った場合は前々年から翌々年の5年間の合計で判定) |
| 買う家 | 売った年の前年から翌年までの3年の間に取得。居住部分の床面積が50平方メートル以上、敷地面積が500平方メートル以下 |
| 入居の期限 | 売った年かその前年に取得したときは売った年の翌年12月31日まで。売った年の翌年に取得したときは取得した年の翌年12月31日まで |
| 中古の場合 | 取得日以前25年以内の建築、または一定の耐震基準を満たすこと(耐火建築物かどうかで条件が違う) |
| 新築(未使用)の場合 | 令和6年(2024年)1月1日以後に入居する家は省エネ基準(断熱等性能等級4以上かつ一次エネルギー消費量等級4以上)が要件になる(令和5年末までに建築確認を受けた家などは除く)。令和10年(2028年)1月1日以後に入居する家は、災害危険区域などに建てられた一定の家でないことも要件になる |
| 期限 | 令和9年(2027年)12月31日までの譲渡 |
売る家は、現に住んでいる家だけでなく、住まなくなって3年目の年末までのものも対象です。また、複数の家を持っている場合は、主として住んでいた家だけが対象になります。相続した家に本人が住んだことがなければ、居住用の特例(この特例も3,000万円特別控除も)の対象にならず、相続した家に合うのは相続した空き家の3000万円控除:特別控除の要件と2027年末の期限です。
売却額より買換額が少ないとき、多いとき
買い換えた家の価額が、売った価額より高いか、同じなら、売った家の譲渡益は全額繰り延べられます。買い換えた家の価額のほうが低いと、差額の部分だけは課税されます。国税庁のNo.3358の例を使うと、次のようになります。
- 売った価額:1億円、買い換えた価額:7,000万円、取得費:1,000万円、譲渡費用:500万円。
- 課税される収入金額は「1億円−7,000万円=3,000万円」。
- 必要経費は「(1,000万円+500万円)×(3,000万円÷1億円)=450万円」。
- 譲渡所得は「3,000万円−450万円=2,550万円」。
買換えの価額が売った価額に届かない場合は、その差が小さいほど、課税される範囲も小さくなります。
買い換えた家の取得価額は、引き継いで計算する
繰り延べた分は、買い換えた家の取得価額から引かれる形で戻ってきます。国税庁のNo.3362の例(売った価額5,000万円、譲渡費用100万円、売った家の取得価額3,000万円)では、買った額が5,000万円の場合、引き継ぐ取得価額は「3,000万円+100万円=3,100万円」です。土地3,500万円・建物1,500万円なら、土地は2,170万円、建物は930万円に配分されます。実際に払った5,000万円ではなく3,100万円が取得価額になる点が、将来の譲渡益を大きくします。
買った額が売った額より多い場合は、同じ例で6,000万円の家を買うと「(3,000万円+100万円)+(6,000万円−5,000万円)=4,100万円」です。買った額が売った額より少ない場合は、「(旧取得価額+譲渡費用)×買った額÷売った額」で引き継ぎ、4,000万円の家なら「3,100万円×4,000万円÷5,000万円=2,480万円」です。計算の式は買った額の大小で3通りあるため、実際に買い換えるときは、国税庁のNo.3362の式に自分の数字を当てはめてください。
3,000万円控除と買換え特例、どちらを選ぶか
自宅を売る人には、この特例のほかに、居住用財産の3,000万円特別控除と、所有期間10年超の軽減税率があります。このうち、買換え特例は3,000万円特別控除・軽減税率とは併用できません(国税庁のNo.3358)。売った年、その前年、前々年に3,000万円特別控除や軽減税率を受けていると、買換え特例も使えません(相続した空き家の特例は除く)。
比べ方を、筆者の仮の数字で示します。5,000万円で売って、取得費1,000万円・譲渡費用100万円、譲渡益3,900万円とします(所有期間10年超で、家屋と敷地の両方が条件を満たす自宅)。
| 方法 | 売った年の課税 | 将来の動き |
|---|---|---|
| 3,000万円特別控除+軽減税率 | 課税譲渡所得は3,900万円−3,000万円=900万円。税額は900万円×(10%×1.021+4%)=約127.9万円 | 新居は購入価額が取得価額になり、将来の譲渡益に繰延べ分は含まれない |
| 買換え特例(5,000万円以上の家に買い換え) | 課税されない | 新居の取得価額は、5,000万円で買えば旧取得価額1,000万円+譲渡費用100万円の1,100万円を引き継ぐ形になる。将来売るときに、繰り延べた3,900万円がまとめて課税対象になる |
検算は、900万円×0.1421=127.89万円です。控除を使うと売った年に税額が確定して終わりますが、買換え特例は税額を将来に先送りします。先送りした分は、新居を売る年に、新居の値上がりや値下がりとは別に、引き継いだ低い取得価額のぶんだけ上乗せされます。新居を売る予定がいつ頃かによって、選び方が変わります。比べるときは、次の点も見てください。
- ほかの控除への影響:譲渡所得は合計所得金額に入るので、売った人を配偶者控除や扶養控除の対象にしている家族がいると、それらの控除が受けられなくなることがあります。どちらを選ぶかで合計所得金額が変わります。
- 将来の3,000万円控除:新居などを売る年の前年・前々年に買換え特例を受けていると、その売却では3,000万円特別控除を使えません。
- 住宅ローン控除:入居した年・前年・前々年にこの特例を受けると、住宅ローン控除は受けられません。3,000万円特別控除を受ける場合も同様です。
どちらが有利かは、新居の価額、将来売るかどうか、家族の所得で変わります。個別の税額の判断は、税務署の電話相談や税理士にお願いします。住み替えで出てくる税金は、住み替えの税金:3,000万円控除と住宅ローン控除の併用の注意にまとめています。
申告に必要な書類と、使う前の確認リスト
買換え特例は、確定申告をしないと受けられません。主な書類は次のとおりです。
- 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)[土地・建物用]
- 売った家が特例の対象であることを記載した書類(契約前日の住民票の住所と売った家の所在地が違うときや、10年以内に住所を移したことがあるときは、戸籍の附票の写しなど)
- 売った家の登記事項証明書(所有期間10年超を確かめるもの)
- 買った家の登記事項証明書、または売買契約書の写し
- 売買契約書の写しなど(売却代金が1億円以下であることを示すもの)
- 中古住宅の場合は、築年数や耐震基準を示す書類
- 申告の時点で新居に住んでいないときは、入居の予定日などを書いた書類
売った年の翌年に買い換えた場合は、一部の書類を、買った日から4か月を経過する日までに出すことができます。登記事項証明書は、不動産番号を記載した明細書を出せば添付を省略できます。申告全体の流れは不動産売却の確定申告:やり方・期限・必要書類を順番に解説、特例ごとの添付書類は不動産売却の確定申告の必要書類:特例ごとの添付書類一覧で確かめられます。
迷ったときの相談先は、譲渡所得税の相談窓口:税務署の電話相談と確定申告会場の使い方に載せています。売る前の段階で、税額の見通しを立てたい場合は、税理士(個別の税務相談と申告の代理ができる資格者)に、売買契約を結ぶ前に相談するのが安全です。
使う前の確認は、次の6点です。
- 売る家と敷地の、所有期間と居住期間が、どちらも10年を超えているか。
- 売却代金が1億円以下か(分割売却を含む)。
- 買う家の面積(居住部分50㎡以上、敷地500㎡以下)と、築年数・省エネの要件を満たすか。
- 買う家に入居する期限が、売った年と買った年の関係で、いつになるか。
- 3,000万円特別控除と、税額と将来の動きの両方を比べたか。
- 売買契約を結ぶ前に、税務署か税理士に確かめたか。
全体の特例の位置づけは、不動産売却の税金:譲渡所得の計算・税率・特例の全体と確定申告から見渡せます。自宅の3,000万円控除の要件は、自宅を売った時の譲渡所得税の3000万円控除:要件と期限です。
よくある質問
Q. 買い替え特例を使うと、譲渡所得税はゼロになりますか?
ゼロになるのは売った年の税金だけで、非課税ではありません。売った家の譲渡益は買い換えた家の取得価額に引き継がれ、その家を将来売るときの利益に上乗せされて課税されます。
Q. 買い替え特例を使ったあとで、3,000万円控除に変えられますか?
同じ売却について、買換え特例と3,000万円特別控除は選択で、併用できません。どちらで申告するかは確定申告の時点で決めるので、申告前に両方の税額を比べておく必要があります。
Q. 買い替え特例は2028年以降も使えますか?
国税庁の案内では、売る期限は令和9年(2027年)12月31日までです。延長されるかどうかは今後の税制改正で決まるため、2028年以降に売る予定なら、毎年12月ごろの税制改正大綱で確かめてください。
出典・参考にした公的な情報
- No.3355 特定のマイホームを買い換えたときの特例(国税庁)
- No.3358 売却額より買換額が少ない場合(譲渡所得の計算)(国税庁)
- No.3362 買換資産の取得価額の計算(国税庁)
- No.3302 マイホームを売ったときの特例(3,000万円特別控除)(国税庁)
- 令和7年分 土地や建物を売ったとき(居住用財産の特例の解説)(国税庁)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。