相続したマンションの売却:管理費の負担・空室期間と売り時の考え方
この記事のもくじ
相続したマンションは、相続登記で相続人の名義にしてから売るのが基本の流れで、売れるまでの管理費・修繕積立金・固定資産税は相続人が負担します。空室のまま長く持つと、その負担が毎月積み上がる一方、マンションには相続した空き家の3,000万円特別控除が使えません。売り時は「保有コスト」「修繕積立金の値上げや大規模修繕の予定」「相続税を払った人が使える取得費加算の期限」の3つで考えると決めやすくなります。
相続したマンションは、何をしてから売れますか?
売買契約は相続人の名義でないと最後まで進められないので、次の順番で準備します。
- 相続するかどうかを決める:借金が多い場合に相続放棄を考えているなら、売却の話は止めておきます。相続財産を売るなどの処分をすると、単純承認をしたとみなされます(民法921条)。
- 誰が取得するかを決める:遺産分割の前は、マンションは相続人全員の共有です(民法898条)。1人が取得するか、共有のまま売るか、代表者が売って代金を分けるかを話し合います。
- 相続登記をする:相続で取得したことを知った日から3年以内に申請する義務があります(不動産登記法76条の2)。期限や過料は相続登記の義務化にまとめています。
- 管理組合に届け出る:国土交通省のマンション標準管理規約は、組合員の資格を取得した人が書面で管理組合に届け出る形を示しています。実際の届け方はそのマンションの管理規約と管理会社の案内で確かめます。相続人が海外に住んでいる場合に備え、2025年(令和7年)改正の標準管理規約には、国内管理人を選んで届け出る規定(31条の3)が新しく入りました。
- 査定を頼み、売り方を決める:名義が亡くなった親のままでも、相続人が査定を頼むことはできます。売り出しから決済までの全体の順番は相続不動産の売却の流れで確かめてください。
売れるまでの管理費・修繕積立金は、誰がどう払いますか?
区分所有法19条は、各区分所有者が規約に別段の定めがない限り持分に応じて共用部分の負担をする、と定めています。管理費・修繕積立金はこの負担にあたり、所有者が亡くなっても請求は止まりません。遺産分割が終わるまでは相続人の共有なので、相続人全体で負担し、誰の口座から払ったかを記録しておくと、後で売却代金から精算するときにもめにくくなります。
| 時期 | 管理費・修繕積立金 | よくある決め方 |
|---|---|---|
| 亡くなる前の未払い分 | 相続で引き継がれる債務 | 売る前に精算する。管理会社に滞納の有無を聞く |
| 亡くなってから遺産分割まで | 相続人の共有の負担 | 代表者が立て替え、領収書を残して分割協議で精算 |
| 分割後〜引き渡し | 取得した相続人の負担 | 引き渡し日で買主と日割り精算(売買契約で決める) |
管理組合は、滞納された管理費などについて、その部屋を買った新しい所有者にも請求できます(区分所有法8条)。買主は滞納のある部屋を避けるので、売り出す前に精算しておくのが現実的です。引き落とし口座が亡くなった親の口座のままだと、口座が止まった時点から引き落としができずに滞納になるので、相続が始まったら早めに管理会社へ連絡し、支払い方法を切り替えます。
固定資産税は毎年1月1日時点の所有者に課されます(総務省「固定資産税の概要」)。相続した年の分は、相続人が代表者を決めて納めるのが一般的です。売却の年は、引き渡し日から後の分を買主と日割りで精算する形が多く、精算の仕方は売買契約で決まります。費用の内訳はマンション売却の手数料と費用にまとめています。
空室のまま売るとき、何に気をつければよいですか?
住む人がいないマンションでも、管理費・修繕積立金・固定資産税はかかり続けます。仮に管理費と修繕積立金が月3万円、固定資産税が年10万円なら、1年持つと3万円×12か月+10万円=46万円です(筆者の仮の数字による計算)。電気・水道の基本料金や火災保険料も加わります。
空室の間に確かめておくこと:
- 保険:専有部分の火災保険の名義と契約が亡くなった人のままになっていないか。漏水で下の階に被害を出したときの補償(個人賠償責任など)が残っているか、保険会社の案内で確かめる。
- 通水と換気:排水口の水が乾くと臭いが上がることがあるので、管理会社が空室の点検を求めるか聞く。長く空ける場合は、定期的に通水する人を決めておく。
- 荷物:家具や家電を残したまま売るか、片付けてから売るかで買主の印象が変わる。考え方は実家の売却で残置物はどうする?で扱います。
- 鍵の管理:内見のたびに誰が立ち会うかを決め、不動産会社に鍵を預けるなら預かり証をもらう。
空室で売る利点もあります。荷物を出しておけば内見の日程を合わせやすく、部屋の広さが伝わりやすいので、準備は不動産売却の内見の準備を参考にしてください。貸して収入を得る選択肢と比べたい場合は家を売る・貸すどっちが得?で収支の比べ方を扱います。
相続したマンションの売却に、税金の特例は使えますか?
相続した家の売却で知られている「相続した空き家の3,000万円特別控除」は、区分所有建物の登記がされている建物、つまり分譲マンションは対象外です(国税庁 No.3306)。理由と例外の考え方はマンションは空き家の3000万円控除の対象外?で詳しく扱います。ほかに使える可能性があるものは次のとおりです。
| しくみ | 使える可能性がある人 | 主な条件 |
|---|---|---|
| 取得日・取得費の引き継ぎ | 相続人全員(限定承認を除く) | 親が買った日と代金を引き継ぐ。親が長く持っていれば、相続後すぐ売っても長期譲渡になりうる |
| 取得費加算の特例 | 相続税を納めた相続人 | 相続開始の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売る |
| 自宅の3,000万円特別控除 | そのマンションに自分が住んでいた相続人 | 住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る等 |
| 相続した空き家の3,000万円特別控除 | 対象外 | 区分所有建物の登記がある建物は除かれる |
親が買ったときの売買契約書が見つからず取得費が分からないと、売った金額の5%を取得費とする計算になり、税金が大きくなりがちです。売る前に、親の書類(売買契約書・重要事項説明書・ローンの書類)を探しておきます。取得費加算の期限は、相続税の申告期限(相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内)から3年なので、おおむね相続から3年10か月が目安です。しくみは取得費加算の特例で、売却益の税金の全体は相続不動産の売却益の税金で確かめてください。個々の税額の計算や、どの特例を選ぶかの判断は税理士の仕事です。
相続したマンションの売り時は、どう考えればよいですか?
マンションの値段は景気や金利、築年数で動きますが、相続した場合は「持ち続けるほどかかる費用」と「税の期限」が売り時を左右します。次の順で確かめると判断の材料がそろいます。
- 保有コストを月額で出す:管理費・修繕積立金・固定資産税・光熱費・保険を足し、1年持つといくらかを家族で共有する。
- 長期修繕計画を見る:管理会社から長期修繕計画と、修繕積立金の改定予定、大規模修繕の時期を取り寄せる。値上げや一時金の予定は、買主も重要な判断材料にします。
- 税の期限を確かめる:相続税を納めたなら取得費加算の期限、相続人が住んでいたなら自宅の特例の期限を逆算する。
- 査定で今の価格帯を知る:急いで売る必要がなくても、価格の見込みが分かると、貸す・持つ・売るの比較ができます。
一括査定は、名義が親のままの段階でも申し込めますが、売買契約までに相続登記が済んでいる必要があります。査定額は売れる値段ではなく、各社が根拠を示して出す見込みです。申し込むと複数社から連絡が来ることがあり、売るかどうかは査定を見たあとで家族と決めて構いません。
マンション一般の売り時の判断材料はマンション売却の売り時はいつ?、続けて一戸建てを売る場合の流れは一戸建ての売却の流れで扱います。
よくある質問
Q. 遺産分割が終わる前に、相続したマンションを売ることはできますか?
買主へ名義を移すには、先に相続人の名義にする登記が要ります。遺産分割の前なら、法定相続分のとおり相続人全員の共有で登記し、全員が売主として契約するやり方があります。代表の相続人の名義にしてから売って代金を分ける方法(換価分割)もありますが、協議書の書き方次第で贈与と見られるおそれがあるので、書き方は換価分割の税金の記事で確かめてください。
Q. 亡くなった親が管理費を滞納していました。相続人が払うのですか?
亡くなった人の借金などの義務は相続人に引き継がれる(民法896条・899条)ので、滞納分も相続の対象になります。区分所有法7条・8条により、管理組合はその部屋の新しい所有者や部屋そのものに対しても請求できるので、売る前に精算するのが通常の流れです。滞納が多く、ほかにも借金がありそうなときは、売る前に相続放棄を検討する余地があるかを先に考えます。
Q. 相続人の一人がそのマンションに住んでいた場合、税金の扱いは変わりますか?
売る人自身が住んでいた家なら、自宅を売ったときの3,000万円特別控除(国税庁 No.3302)の対象になりうるので、住んでいなかった相続人とは扱いが変わります。住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売るなどの要件があり、相続人ごとに判定が分かれるので、持分の分け方を決める前に税務署か税理士に確かめてください。
出典・参考にした公的な情報
- 建物の区分所有等に関する法律 第7条・第8条・第19条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 民法 第896条・第898条・第899条・第921条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 不動産登記法 第76条の2(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 令和7年マンション標準管理規約改正(概要)(国土交通省)
- No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期(国税庁)
- No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例(国税庁)
- No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(国税庁)
- No.3302 マイホームを売ったときの特例(国税庁)
- 固定資産税の概要(総務省)
出典の確認日:2026-10-23。制度や受付条件は変わることがあります。手続きの前に、各窓口の最新の案内を確認してください。
この記事は一般的な情報で、個別の法律判断・医療的な診断をするものではありません。